新たな出会い
職員室へ行く途中、私は階段から足を踏み外した。もうだめかと思い、目を瞑り痛みに備えた。途中で何か声がしたような気がしたと思ったら、何かに当たった。次の瞬間、一瞬だが体がフワっと浮いた感覚がして、何が起こったのかと目をおそるおそる開けてみる。
すると、私は階段から落ちたと言うのに無傷で、一人の男の子の上に乗っていた。
巻き込んでしまったとすぐに分かった。頭の中で最悪の結果を想像してしまう。自分はこの人がクッション的役割になったおかげで無傷だったが、彼はどうだろう?一人で階段から落ちるのと誰かと落ちるのとでは怪我の仕方が違ってくる。私の下にいる彼が大丈夫かどうか確認するように顔を見た。
「はぁはぁ…本気で焦ったぁ」
彼は少し冷や汗をかいてはいるが、痛みからきている物じゃなかった。彼の様子からするとたぶんだが、どこも怪我をしていないようだ。しかし今は痛みがないだけでもしかして後から激痛が来る事だってある。
「大丈夫だった?どこも怪我しなかった?」
「え!?あ、うん…大丈夫」
「そう、よかった」
自分の事より真っ先に私の心配をしてきた彼は、私に怪我がない事が分かると安心するように「ホッ」と息を尽き微笑んでいた。その微笑みに少しだが胸がトクンと高鳴ったような気がしたが、気のせいかと思い彼の上からすぐに退いてその場に座り込む。
彼も私が離れたのを見ると、すぐに立ち上がり「気をつけてね」と優しくまた微笑んでから階段を上っていってしまう。
「あ、あの――」
呼び止めようとした時には、もう彼の姿はなかった。一言お礼を言いたかったのに。
「初めて見る顔だったな。もしかして噂の編入生の人かな?でも、この学院の生徒ならまた会えるよね」
右手で自分の胸に手を当て、次に会った時に今日言えなかった『こと』を言おうと思いながら、職員室に歩いていく。
「やばい、やばい」
授業に遅れる!!そう思いながら、廊下をさっきよりも少し早めに駆け足をして教室に戻る。
さっきの階段での事もあって少し荒い息をしていた事に気がつき、ドアの前で一度大きく息を吸い深呼吸をして呼吸を整える。
まだチャイムも鳴っていなければ、クラスの何人かもまだ来ていない。今いる人達も、席が近い者同士で話をしている。先生もまだきていないようだ。
自分の席に座ると、さっき階段から落ちてきた『女の子』の事を思い出す。
「誰かに似てたんだよなぁ、さっきの子」
つい口に出してしまった。
前の席にいるルークに聞こえてしまったようでこちらに体は横にして顔を向けて聞いてくる。
「さっきの子?なにかあったのか?」
「いや、ちょっとね。誰かに似てたような女の子がいたから、誰に似てたのかなぁって」
肩より少し長いくらいの綺麗な金髪に青く透き通るような瞳。色白の肌に、顔立ちは整っていて誰かに似ているような気がする、美人の女の子…どこかで……。
この世界にきてから、まだ3日程しかたっていない。他人のそら似と言う事もあるし、サイやシイナのように、誰かとの双子で似ていて当たり前という可能性もある。
そんな感じで考えていると、階段での事を思い出し再び背中を冷や汗がツーと流れるのが分かる。
いや、でも、あれはマジで焦った…レナがきなり空から落ちてきた時も焦ったが、今回もかなり焦った。俺が重力使わなかったら今頃……重力魔法インストールしといてよかったな。
流石神の力(勝手に言ってるだけ)。
チャイムが鳴り、キールがドアを開けて入ってくる。午後は魔法知識と魔法アイテムの授業だ。当然の事だが、教科書や白版に書いてある文字は読めない。
だって、なんかすんごいシンプルな記号の集まりなんだもん。どっかの遺跡で見つかったなんとか文字みたいなの。5時間目の魔法知識の授業は、真面目に受けてる用に見せかけてキール先生に『当てないで!!』サインを出す。
当てないでサインは、両手で小さく×を作って送るのだ。キール先生も俺が文字を読めない事と、魔法に関しての知識がない事も分かっている。俺のサインに気づいて誰にも分からないぐらい小さく微笑む。
すげぇ、分かってくれたんだ。元の世界でやったら逆に当てられたよ。やはりキール先生はいい人だ!
そして、やっぱりリリも連れてきて代わりに読んでもらえばよかった、と思う俺。
6時間目の魔法アイテムの授業は各チームのメンバーで受ける事になった。
「では、今から魔法水を調合します。調合の仕方は教科書p155に載っています」
今3組は、1年校舎の調合室にいる。この学院は1年校舎、2年校舎、3年校舎とすべて分かれていて、勿論中等部も同じようになっているが小等部だけは1~6年まですべて同じ校舎内で過ごしている。
調合室は教室の倍近い広さだ。(勿論白い!!白言ったら白い!!)
調合室には教室と違って各自の机ではなく、12の大きなテーブルのような机と、調合に必要な道具類があり、調合する為の材料の独特の臭くもあり、甘いような匂いもありと、色々とある。
ちなみに、椅子はなしだ。 足が疲れるな。
「俺、調合とか苦手なんだよな」
「あんたは魔法技術以外すべてでしょ」
「まぁな。だって技術以外の授業ってよく分からないし」
「あんた、さっきの授業の時も頭抱えてたでしょ?」
シイナの言っている事に、今日編入してきたばかりの俺も納得するように、無言でコクコクと頷く。
その理由は、さっき受けた魔法知識の授業中の事だ。何度も頭を抱えているサイを俺も見ているからだ。
一時間前
俺は、キール先生が後ろを向いて重要な所を書いている時、サイのいる所をチラっと見た。
とくに理由はない。授業が分からないから暇だっただけだ。一応ノートはとって置いて、後でリリにでも教えてもらいながら勉強するのだ。
サイは、ノートか教科書か参考書かただの本かは分からないが、机にたて顎を机につけて退屈そうにしている。
(おっ!)
キール先生がこちらに向き直った瞬間にしゃきっと背を伸ばし姿勢を正した。
俺もサイの反応に気づき前を見る。
文字は読めないがノートにそのまま文字を写していく。ちなみに持っているのは元の世界にもあった『ボールペン』とほぼ変らないようなMを使い、永久的に使い続けられるペン。消す時は少し強く指で押さえつければ消える。
すばらしい程、便利だ。しかも書きやすい。
意味不な文字を写し終わり、もう一度チラッとサイを見る。
これまた理由はない。
「……」
頭をポリポリと少しかいた後、両手で頭を抱えて机に突っ放す。ソラには何を書いているのか分からないが、クラスの何人かはサイと同じように顔を少し強張らせ、頭を抱えている。
しかし、前の席にいるルークはなんの問題もなくスラスラと書いている。
なにか問題でも出てるのか?
文字が読めない俺の頭の中は?を浮かべているが、なんの問題もないように普通にしている。
それからも、何度も顔を歪めているサイを俺は見た。
現在
「ルーク、調合材料ってなんだ?」
調合室には調合の為の材料がある程度なら揃っている。材料がきれていてない時や元々無い物は教師が用意してくれているらしい。
「水、レイキ草、イリトオニ粉の三つだ。それで、天然の魔法水よりは効果は劣るがそれでも十分な効果がある人工的に作り出した、魔法水ができる」
レイキ草は空色の先に白い、綿のような物がついている草だ。草が空色というのは少し気味が悪いと思うが、あまり気にしない事にするとしよう。
ここは、異世界なのだから。
イリトオニ粉は白い粉。で、臭いなどを吸いとる効果がある。 今調合している魔法水は、シャワールームなどで使われている魔法水と同じもの。
レイキ草のような生活や調合に必要な草や花類は、あちこちの地方などで栽培されている。
サイは言われた通りの材料を調合室の奥の部屋から持ってくる。
「おい、もう他のチームは調合に取り掛かってるぜ?」
サイの言うとおり、俺達のチームは他のチームより少し遅れている。その為、調合担当のレイとシイナが調合に取り掛かる。レナは遅れてる事に少し焦っている。
何故だろう?あれか?自分のせいでとか思ってるのかな?
「レナ?遅れてるって言っても、少しだからそんなに慌てなくても…」
シイナはレイキ草とイリトオニ粉をすり潰しているレナに声を掛ける。その事でレナは「え!?」と振り向いた。
レナが振り向いた瞬間に、たまたま材料に必要な水を結構な大きさのバケツいっぱいに入れてきたサイとぶつかる。
なんか、狙ったとしか思えないぐらいの偶然だな。
「うわぁ!!」
「きゃっ!!」
(バシャーン!!)
そして、体制を崩したサイはそのバケツいっぱいに入った水をレナにぶっかけて、「あ……」と口を開け呆然とする。
「なんでそんなに水持ってきてんのよ!!」
「いや、これくらいいるかなぁ?って思って……」
「どこのチームもそんなに持ってきてないでしょ!!」
「う!…すいません」
レナは全身に水をぶっかけられた事に、目をウルウルさせて今にも泣きそうになっている。
サイはルークとシイナに叱られていて3人ともレナが泣きそうなのを知らない。 てか、レナやばい!!制服透けてるよ!!
俺は全身ビショビショのレナを見て、めっちゃ顔が熱くなっていく。見ちゃ駄目だ!!
目線をレナからそむけて、今着ている制服の上着を脱ぐ。
(バサ――)
「ソラ…君?」
「いいから、それ羽織ったまま今すぐシャワールームかどこかに魔法水のある所に」
レナの姿を見て、俺は自分の制服の上着をレナの背中にかける。その理由は風邪をひかないようにするのも少しだけであるが、レナの制服が水で少しだが透けている事に気がついて隠すように着せたのだ。
レナは気づいていないのか?透けているという事に。
そんな俺達のもとに、皆がゾロゾロと集まってくる。
やばいな、これじゃぁレナがみせものになっちゃうじゃないか。
俺は調合室をこっそりと出て行くように少しブルブル震えているレナに耳打ちする。
レナは俺の言葉を聞き、制服を羽織ったまま、調合室を出て行く。 レナが出て行くまで皆を自分に注目させるように、何があったのか説明する。
後から来たキール先生にクラスの皆に説明したように、調合室を出て行ったレナの事をキールにも説明する。
「その、レインさんは、ビショビショになった制服を乾かしに、魔法水のある所にいきました」
「分かりました。あのままでは風邪をひきますから仕方ありませんね」
「すみません」
「ソラ君が誤る事はありませんよ。サイ君もわざとやった訳でもありませんしね」
「はい…」
(キーンコーンカーンコーン)
その後に、丁度チャイムが鳴り。今日の授業はすべて終わった。
あまり、目立たないクラスのキャラクター紹介。
名 フルウィン・ノーズ
性 男
M値1700
少し、青みのかかった黒い髪。ソラの髪のように、真っ黒ではない。
瞳の色は明るい黄色。少し、ソラより鼻が高くシャキッとしたイメージ。
Aチームのリーダーで、クラスマッチのクラスリーダーに選ばれる優秀な学生。
使う魔法は召喚系。M1600でイタチシリーズの風イタチ♀(シーリン)名の通り、風を自在に操るイタチの♀を召喚する。