目を覚ますと
なにもない、真っ暗な空間に一人の少年が眠っている。
まるで宇宙にたった一人でいる感じに上も下も分からない空間。
少年は体格は成人男性より少し小さい体格。
顔の幼さがまだ残っている事からして15~17ぐらいの年頃に見える。前髪が目元まで伸びてはいるが、目にはかかっていない程度の黒い髪色。
髪色とは逆に、透き通るような雪国の人ではないかと思うぐらいの白い肌。そして特徴のない顔立ち。
特徴がないというのは逆に整っているからだ。なのでこの少年はイケメンの類に入るだろう。
「ソラ…あなたには、こことは違う世界にいっていろんな経験をしてもらうわ。大丈夫、お母さんもあなたの歳の頃に行った事のある世界よ」
眠っているにも関わらず少年に話しかける声。
女の人の、少し高い声。その声は真っ暗な空間にこだまするように響く。
「楽しい世界よ?きっとソラも気に入ると思うの。その世界でいろんな人に出会って、いろんな事を経験して、それから帰ってくるか考えなさい…あっちの世界で暮らしていくのも楽しいかもね」
女の声はどこか楽しそうに話している。だが寝ている少年は目を覚まさない。
この少年はただ寝ているようには見えない。眠らされているというのがしっくりくるのだろうか?
「じゃぁねソラ」
その言葉とともに、真っ暗な空間からソラと呼ばれた少年は姿を消した。
まるでワープでもするかのように、『シュン』という効果音を立てながら。
「ん~」
一人の少年が目を覚ますとそこには真っ白な天井があった。
真っ白な天井。病院かどこかの天井かと思いつつもゆっくりと体を起こす。
「あら起きたの?もうちょっと寝ててもいいのよ?」
タイミングよく少年が起きたと同時に白衣を着た女の人が『ウィーン』と機械音をたてるドアを開けて入ってきた。
緑の肩まである髪に、透き通るような青い瞳で眼鏡をかけている女の人。
「あの…どうして俺はここで寝ているんですか?」
病院ではなく保健室のようなベットが3~4ある部屋を見回しながら白衣を着た女の人に聞く。
少年は自分の部屋のベットで寝ていた。だが起きたら知らないベットで寝ていた。そして知らない部屋。微かに消毒液やらの独特のにおいがする。
そして知らない女の人。
「あなたはこの学院の中庭に倒れていたのよ?」
頭に?を浮かべる。
白衣を着た女の人は、自分が学院の中庭に倒れていてそれをレナ・レインと言う女の子が見つけて知らせてくれたのだと言う。
少し開いた窓から風が頬を撫でる。その窓から外を見た…外は真っ暗で何も見えない。
「学院?」
少年は窓の外を見たまま、白衣を着た女の人に尋ねる。
「あら、おかしな質問ね……この学院に目的があってきたんじゃないの?」
「え、と…ちなみにどこの学院ですか?」
学院といっても色んな学院がある。学院も学校もあまり変らないのだがあえて学院と呼ぶのは雰囲気とかなのだろうか?
そんな事を考えながら白衣の女の人に聞く。
すると、驚きの答えが返ってきた。
「ここはイース大陸の中心にある国、レイズの魔法学院アテナよ」
「魔法!!」
目を丸くし驚く。魔法という言葉に。
少年は魔法なんてものは存在しないと思っていた。だが幽霊などは以外に信じるタイプだ。
しかし魔法学院という事は魔法が存在するという意味なのだろうか? 魔法を研究する学院とか言う意味なのだろうか?
「おかしな子ね、魔法なんて昔からある力じゃないの」
昔からある力。そんな物聞いたことがないぞ? と首をかしげる。
白衣の女の人の話では、ここはイース大陸という大陸の中心にある国レイズの魔法学院で、この世界には魔法は当たり前の物だと言う。
そもそも、少年の記憶ではイース大陸なんて大陸は知らない。ましてやレイズという国など聞いたこともない。もしかしたらあるのかも知れないが少年の頭にはない。
少年がいまいち理解してないようなので、白衣の女の人は魔法について説明する。
人には生まれた頃から魔力というのがあり、その力を使い生活、スポーツ、戦争、など様々な事に魔法は使われているらしい。
「あの…なんで俺はこの学院の中庭に倒れていたんでしょ?」
「本当におかしな子ね、それは私が聞きたい事よ?見た所あなたはここの生徒さんじゃない感じだし」
白衣の女の人は、少年の服装さっと見る。
ここの生徒の人は皆白と黒の制服を着ないといけないらしく、少年の今の格好は黒の長袖一枚に灰色のズボンと完全に私服だ。
「私はローラ、ローラ・セイント、とりあえず名前を聞かせてもらってもいいかしら?」
ローラと名乗る白衣の女の人は、少し茶色の混じった黒く湯気を出しているカップに入った液体を飲みながら聞いてくる。
少年はとりあえず名乗られたので自分も名乗る。
「俺ですか?ソラですソラ……あれ?」
少年の名はソラ。だが自分の名前しか思い出せない…目が覚める前までは、はっきりと覚えていたのに今は思い出せない。余計に混乱する。他の事はと覚えている、しかし苗字が思い出せない。
その事にローラは、なにか感ずいたような顔をする。
「え…と、とりあえずソラ君ね?もしかしたらあなた、異世界から来た人?」
「異世界?ここは俺のいた世界と違うって言う意味ですか?」
「まぁ、そういう事ね。昔にあなたのように名前しか思い出せないって言ってた異世界から着た女の子が居たのよ。その子となんだか似てるのよあなた。雰囲気なんてそっくりね」
「そうですか。 ここが異世界ってのは実感がないんですが、僕の知る限りイース大陸やらレイズ国なんて知りませんね。 実感はないんですけどね…」
ローラは飲んでいた液体を一気に飲み干し、ソラの顔をじ~っと見つめ何か考えている。
ソラのこれからの事だろうか?
前にソラと同じような女の子が着た時の事を思い出す。
そんな時、ローラが入ってきた時と同じうように、「ウィーン」機会音をたてながらスライドしてドアが開き、今度は女の人ではなく女の子が入ってくる。
腰の辺りまで伸びた綺麗な金色の髪に、ローラとは違い深い青色の瞳に、容姿はかなり整っていて美人の女の子だ。その女の子はソラの顔を見て、目を開き少し驚いている様子が分かる。
一瞬だがソラはその子に見惚れてしまった。それ程第一印象が綺麗という事だった。
「あ、起きてたんだ…大丈夫?」
いきなり声をかけられて、ハッと我に戻る。
そして自分を知っている感じの女の子を見てからローラに向き直り聞く。
「あの、ローラさんこの人は?」
「ん?この子はさっき話したレナさんよ?レナ・レインさん」
名前を聞くと、どこかで聞いた事がある名前だと思い、レナと言う女の子が誰なのか目を宙に向けて、記憶を探る…
そして、「あっ」とローラとの会話の中に出てきたことを思い出す。
「俺を見つけて、ローラさんに知らせてくれた子か」
パッと視線をローラに戻して確かめるようにして見る。それにローラも少し笑みを浮かべて言葉を返す。
「そうよ、レナさんたら今は平然としてるけどね、私の所にきた時はもう――――」
「先生!!そんな事より彼は誰ですか?ここの生徒なんですか?でも私服だし…」
勢いよくローラの話に割ってはいるレナ。
ローラの話を無理矢理変えて、恥ずかしかったのか顔が少し赤くなっている。その事にローラは残念そうな顔をして、レナの問いに答える。
「彼?彼は、えーとそうねぇソラ君て言うの」
「それだけですか?」
レナは不思議そうに見てくる。確かに名前だけというのは色々と疑問がある。自分がこことは違う世界からきたと言おうとしたが、「キッ」とローラにまるで黙ってろ、と言っているような目つきで睨まれとっさに何か理由を考える。
しかしそう簡単にパッと思いつくものじゃない。
ベタではあるが適当に答える。
「えと…実は俺今ちょっと記憶があいまいなんだ…だから」
こんなことを信じる者はそうはいないだろう。冷や汗がツーと頬から首に沿って流れる。
しかしソラの答えもウソは言っていない……。 苗字が思い出せない。それだけではあるが。
「そうなんだ」
こんなベタな答えを信じてしまったレナ・レイン。
ソラとローラは表情は崩さないが、内心「ほっ」と息をついただろう。
そして記憶が曖昧という嘘丸出しの答えを本気で信じたレナは、少し表情が暗くなって心配そうにソラを見つめる。
ソラはそんなレナを見て内心ですいませんと連呼していた。そんなレナを見て、ローラが困った顔をしているソラに助け舟を出す。
「レインさん。そろそろ寮に戻りなさい」
ローラは窓の外を見て言う。ここが学院だと言うのなら、こんな夜遅くにいるのはさすがにあれだ。
「分かりました…あのローラ先生。彼は…」
やはりまだ心配そうにレナがソラを見ながら、ローラに聞く。
ソラも自分がこれからどうなるのか少し不安になってきて、ゴクンと唾を飲み込む。
「ソラ君?彼にはちょっと聞きたい事があるから明日にでも学院長の所に連れて行くわ」
その後レナは帰り、ローラに「今日ソラは保健室に泊まっていきなさい」と言われ、今は保健室のベットに横になっている。
そして天井を見ながら色々考えていた。
(俺は何をしていたんだ?なんでこの世界に…。この世界はなんなんだ……魔法が存在する世界で、俺の居た世界とは違うのか?でも元の世界とはあまり変わらないしな。
俺これからどうなるんだ?元の世界に帰れるのかな?まぁ今日はいいや、なんか色々とありすぎて疲れた。
もしかしたら起きたら夢でした。なんて事になってるかも)
色々な不安。夢であって欲しい。 そんな事を思いながら襲ってくる睡魔に意識をゆだねて深い眠りに落ちていく。
読んでいただきありがとうございました。
なかなか投稿できないかもしれませんが、続けていきたいと思ってます。
感想、アドバイスなどお待ちしております♪