幽霊
「はれちゃん、はれちゃん、聞いた? あの噂!」
期末試験の最終日を翌日に控えた夜だった。リビングで勉強していると静香が楽しそうに、それでいてどこか周囲を気にするように近づいてきて小声で言った。
「出たんだって…」
「出た? 何が出たの?」
決まってるじゃないの、ゆ・う・れ・い・よ、幽霊、と静香は楽しそうに言った。
幽霊! それは怖い。
晴花もいっぱしの女子高生である。怪談は得意ではない。
「それがね、すぐ近くなのよ。鱗ノ池公園。なんでもね、噂だと出るのは女の人の幽霊なんだってさ。白い服を着た長い髪の女の人が、池の中からすーっと出てきたんだって! 洋服には飛び散った血の跡があって、とても恨めしそうな顔で池に浮いていたんですって。なんでも彼氏に振られて首切り自殺した女性の霊だとか!」
そんな怖いものが近所に出たのか、恐ろしいことこの上ない!
晴花はしばらく公園には行かないようにしよう、と心に決めた。
「他にもあるのよ、もの凄い速さで公園を飛び回る白い影とか。それも女の人の霊じゃないかって、犬の散歩をしていた人が見たらしいの。目が血走っていて赤く光っていたって。風みたいにすごく早くて一瞬しか見えなかったらしいわ。絶対人間じゃないって、ターボばあちゃんみたいね! 先生にも話したら喜ぶかしら、ちょっと話してくる!」
静香はバタバタと父の書斎に飛び込んでいった。
台風一過、しんと静まったリビングで晴花はため息をついた。
「そんな怖い話をされたら気になって眠れなくなりそう…明日も試験なのに…」
いけない、いけないと首を振った晴花はペンを取って再び問題集へと向かった。
試験も終わってしばらく経ったある日、晴花は公園向こうの団地にあるブランコに座っていた。
キイキイと懐かしい音がする。
今日も真っ盛りの真夏日だ。
正面の団地の真ん中の階段の四階左側、そこが彼の家である。
母親と弟がひとりの三人家族のようである。弟は小さく、とても懐いているようだった。
あの夜、晴花は彼の後をついていって家の場所を知ることが出来た。
これでいつでも彼に会える。
あとはタイミングを見て話しかけるだけだ。
うまく話しかけられるだろうか。
ドキドキしながら手のひらを見る。
新しく用意したクッキーの缶。
今度は頑丈だから何があっても大丈夫。
晴花は彼の反応を想像して、不安半分に微笑んだ。
了
お読みいただきありがとうございました。
短編として書いた作品なので物足りないかも知れませんが、そのうちまた別エピソードを増やせたらなとも思っています。
ひとまずここまで、ありがとうございます!