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校門にて

 2ブロック手前の電信柱の陰から校門の様子を伺っている。


 ぞろぞろと男子生徒が校門から吐き出されてくる。男子ばかりだと晴花は思った。

 それはそうだ、男子校なのだから。

 男子しかいないから男子校という。


 男子、私立女子高のエスカレーターで育ってきた晴花にとっては女子以上に接することの無かった生き物である。よく知る男子といえば父くらいだった。

 父が男子であるかどうかと問われたなら、精神面を度外視(どがいし)すれば違うといえよう。それほどによく分からないものであるのだ。ともすれば女子とてよく分からないのではあるのだが。。


 この距離では流石に様子はよく分からない。もっと近づく必要がある。

 晴花は人目を避けるように裏道を通って、学校の向かいにある公園を目指した。

 今日は晴花の学校の創立記念日、貴重な休みである。

 いつもなら家で勉強をしているところだが、期末試験も目前だというのに、あの時のことを思い出すと勉強にも手が付かなかった。何度か彼の顔を思い出そうとするが、それだけで頭に血が上ってしまう。

 何と言おうかシミュレーションを書き付けたノートを破っては丸め、ちぎっては捨てた。残骸(ざんがい)となった紙団子(かみだんご)がゴミ箱から(こぼ)れ出し、まるで ”こぼれイクラ丼" のようだと思った。ちなみに晴花はイクラが苦手である。


 結局、何もまとまらないまま部屋を飛び出して現在に至っている。

 日差しも強いから日傘が役に立った。日傘は良い。殺人的な直射日光を防ぐこともできるし、視線を(さえぎ)るのにも使える。白い傘はいささか目立つのが玉に(きず)ではあるのだが。


 公園の入口の陰から校門を覗き込む。校門から出てくる男子は左右へと散り散りに流れていく。時折公園へやってくる者達もいたが傘をすぼめつつ植木の陰にうずくまってやり過ごした。

 この学校には校門が二か所ある。もう一方は裏門でほぼ使われていない。だから正門だけ見ていればきっと彼は出てくるに違いなかった。彼の鞄には赤い線が入っていた。

 ネットで調べたところでは線の色は学年によって違う。今の一年生が緑、三年生が黄、つまり赤は二年生だ。二年生なら晴花と同じ年である。


 早く出てこないだろうか、出てきたらそれはそれで困る。

 ほかの男子と一緒だったら、そうでなくても周りの男子にも見られてしまう。どうやって話しかけようか、そんなことを悶々と考えながら校門を注視した。


 そのまま何時間そうしていたか、流れ出る男子はその数を減らし、ほぼ居なくなった。

 見逃してしまったのだろうか。そんなことは無いはずだった。まだ部活動の生徒が残っているはずだ。外側を回って運動部の様子でも見ようかしらと身を起こした時だった。

 右手に持った鞄を肩に背負い、眠そうにあくびをしながらあの青年が出てきた。


 どうする、どうする。

 頭の中をぐるぐる同じ言葉が駆け回る。

 そのうち、ひとりの小さな老人が頭の中で杖を二度突いた。頭が長い福禄寿(ふくろくじゅ)様のようだ。

 福禄寿様は「なになに難しいことは無い、ほれ近くにいってありがとうございましたというだけじゃて」と事も無げに言う。


「そうね、おじいちゃん。私頑張る」


 脳内の何だか分からぬ(じじ)(ささや)き一念発起、彼のもとへと駆け寄った、などということが容易く出来るのであれば晴花はそもそもこれほど苦労していない。

 なんと、彼と同じタイミングで集団も出てきてしまったのだ。

 当然近づくことなどできるはずもなく、そうこうしている内に青年は左の道の先へと小さくなっていく。

 晴花は急いでそのあとを追った。


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