第3話 見合い当日
その日は、数か月に一度行われるビルラード王国の西域への偵察部隊を出す日でもあった。秘密裏に『ディナーレ』より西のアルテア王国郊外のサントスという街まで行って、情勢を探って来るというものだ。
人数は六名。いつもこの人数で行く。何か事件に遭遇しても解決できる最少人数の精鋭だった。
だがクレッグ・ロゥは、頭を抱えていた。
昨晩、大姫(この場合、第一王女レジーナを指す)にとんでもないことを言われた。
「一緒に逃げて!! 結婚させられるの!!」
クレッグの心は、痛んだ。
クレッグが騎士見習いの頃から、鍛錬場の方にいうも視察に来ていた大姫がご結婚!! 憧れ……仄かに恋もしていたが……。
まさか……向こうも、同じ気持ちでいてくれていたとは……。
だが、こちらはただの平民!! 貴族ですらない!!
あちらは王族で、王妹だぞ!! 凛凛しく美しい男装の姫君だぁ……
嬉しくもあり、困り果てたクレッグは、部下の一人の夜食に強めの下剤を投下した。
そして隊長の権限で、朝日が昇る前に出発した。
▲▽▲
「レジーナ姫のお支度はまだですか?」
銀の森の三賢人の一人が、立会人としてビルラード王国の王宮に来ていた。
10の刻の約束だが、もう一刻は過ぎている。
城内では、密かにレジーナ姫探しがされていた。
大掛かりには出来なかったのは、魔法を操る一族と、その元締め(神殿の神官)がいたためである。
見合いの相手である、エル・ロイル家のミルドランは、城に吹く風から情報を得て直ぐに、「嫌われたようですね」とポツリ……。
何処の王女だってなれない身分を自分から手放すとは……。
ミルドランは、正直に言ってレジーナに興味を持ってしまった。
だが、彼の拾った風の噂は絶望だった。
▲▽▲
「では、レジーナは城には居ないのだな!? カタリナ」
カタリナは頷く。
(なんで、昨日の内に気が付かなかったのだろう……)心の中で自問した。
「取り合えず、今日はお前が若長のお相手をしなさい」
カタリナはポカ~ンとしてしまった。
「あたくしがお姉様の代わり?」
「これ以上若長をお待たせできぬ」
カタリナは、シグリット夫人の「あと小半時だけお待ちを!!」の声と共に支度部屋に連れて行かれ、誕生日の時に作ってもらったドレスを身につけ、髪をまとめられて、リボンで結び、靴を履き替えてミルドランのもとへ連れて行かれた。
うすい灰色の髪と瞳の美丈夫な青年がそこにいた。
歳は、レジーナと同じだという。
肩の下まで伸ばした髪を、後ろで結び、上質な上着を着ていた。
上質というだけで、真新しいわけでもなさそうだ。
ミルドランも、見合いの相手が急に13歳の少女になって戸惑っていた。