輝く星、堕ちた星
文化祭二日目、昼。
快晴だった空は、徐々に薄雲が広がり始めていた。
校内には人の熱気がこもり、どの教室も賑わいを見せていた。
進学コースの展示、「星降る教室」は、今日も行列ができていた。
「……こんなに来てくれるなんて、ほんとに」
咲がパンフレットを抱えながら、そっと漏らす。
「昨日より長い列かも……」
結愛がガラス越しに外を見ながら、眼鏡を押し上げる。
「やばいね~、これ。なんか、有名店みたいなことになってない?」
玲奈が肩をすくめながら、笑った。
「すごい……! みんな頑張ったから、ですよねっ」
楓がきゅっと拳を握った。
蓮は、展示室の隅で配線とライトをチェックしながら、静かに胸を撫でおろしていた。
(ここまで来た……。あとは、無事に最後まで)
その頃、校舎の裏手。
人気のない物陰に、蒼馬と古賀、そしてその取り巻き数人が集まっていた。
「……なんだよ、あの盛り上がり」
蒼馬が不機嫌そうに舌打ちする。
「俺らのライブの方が絶対派手なのに。何であんな地味な展示が……」
古賀も顔をしかめる。
「なぁ、ちょっといたずらしてやろうぜ」
蒼馬が不穏な笑みを浮かべた。
「配線、ちょこっといじってやりゃいいんだよ。
音止めてやりゃ、あいつらの展示なんか終わりだろ」
取り巻きたちは顔を見合わせたが、誰も強く反対できなかった。
「さっさとやろうぜ。誰も見てねーよ」
蒼馬が歩き出した、その時。
「待て」
低く、鋭い声が飛んだ。
振り向けば、そこには文化祭実行委員の生徒たちと、担当教員が立っていた。
「何をしている」
教員の声が冷たく響く。
「べ、別に……」
蒼馬が慌てて取り繕うが、遅かった。
「言い訳はあとで聞く。とにかく来い」
教師に腕を掴まれた蒼馬と古賀は、抵抗する間もなく連れて行かれる。
その様子を、通りがかった生徒たちが目撃していた。
「……あれ、蒼馬じゃね?」
「何してたんだろ、また問題?」
ざわざわとした声と、スマホを構える気配。
誰も彼らを止めようとはしなかった。
ただ、冷めた視線が突き刺さるだけだった。
その知らせは、すぐに蓮たちの耳にも入った。
教室裏にいた友人の翼が、息を切らして飛び込んでくる。
「なあ、聞いたか? 蒼馬たち、また捕まったってよ!」
咲が手を口元に当てて、驚いた顔をした。
「また……?」
「今回は、かなりマズいっぽいよ」
篠原が小声で言う。
「配線、いじろうとしたらしい」
結愛が表情を引き締める。
「うわぁ……懲りないってレベルじゃないじゃん」
玲奈が苦笑しながら腕を組んだ。
「でも、展示には……」
楓が心配そうに言う。
「大丈夫だよ」
蓮は静かに断言した。
「俺たちの展示は、誰にも壊させない。
ちゃんと、最後まで届ける」
その言葉に、皆がうなずいた。
咲は、そっと微笑んだ。
「うん。私たち、ちゃんとやってきたもんね」
結愛は目を細め、
「結果はどうあれ、私たちのやったことに誇りを持てる」
と静かに言った。
玲奈は肩を軽くすくめながらも、
「勝ち負けじゃないけど……やっぱ勝った気分だわ」
と笑った。
楓もきゅっと拳を握りしめた。
「“来てよかった”って思ってもらえるように、最後まで頑張ります!」
蓮は、皆を見渡しながら、心の中で小さく呟いた。
(誰かを蹴落とすんじゃない。
誰よりも、前を向いて歩くために――)
そしてもう一度、天井に広がる手作りの星座を見上げた。
あの光は、誰にも消せない。
妬みや焦りに呑まれることなく、
まっすぐ前を見ていた俺たちは、
ほんとうに、少しだけ
星に近づけた気がした。




