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静かな前夜

文化祭前日、夕方。

2年進学コースの教室には、ひとつの達成感が静かに満ちていた。


照明の位置、音響の出力、星座の配置──

すべてのチェックを終え、誰からともなく手が止まり始めた。


「……終わった、ね」

咲が静かに呟いた。


黒板には「展示完成」の文字と、打ち消し線の入ったタスク表。


「他のクラス、もうほとんど帰ったみたいだね」

結愛が外を覗きながら言う。


「私たちだけか。なんか、最後の仕上げ組って感じ」

玲奈が軽く肩を回す。


「……空、見たくないですか?」

楓がふと顔を上げた。


その言葉に、皆の視線が重なった。


「屋上、行こっか。ちょっとだけ風にあたりたいな」

咲の提案に、蓮は小さくうなずいた。



屋上


夜風が通り抜ける。


自販機で買った紙コップを手に、それぞれが柵に寄りかかったり、静かに座り込んだりしていた。


「……明日が本番、なんだよね」

咲が、空を見上げながらぽつりとこぼす。


「夏休み明けてから、ずっと準備でバタバタしてたけど……ようやくここまで来た」

結愛がそっと頷いた。


「短かったけど、濃かった。今なら胸張って“やった”って言える気がする!」

玲奈が笑う。


「私も……装飾、ずっと悩みながらだったけど、最後はせんぱいに見てもらいたいって気持ちだけで乗り切れました」

楓の頬が、少しだけ赤く染まっていた。


沈黙が、少しのあいだ、夜空に滲んだ。


「……みんなの想いは、ちゃんと届くよ」

蓮が、ゆっくりと静かに言った。


「展示も、演出も、それぞれの頑張りも。全部、きっと伝わる」


それは誰かひとりへの言葉ではなく、

この空間を一緒に作ってきた“みんな”への、真っ直ぐな言葉だった。



短い時間でも、本気で取り組んだ分だけ、

想いは積み重なっていく。


星を照らす光はきっと、誰かひとりのものじゃない。

みんなで灯したその時間にこそ、価値がある。

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