欠けた光を探して
放課後の教室。文化祭本番まであと3日。
姫川咲、黒瀬結愛、早乙女玲奈、志賀楓、朝霧蓮が各自の持ち場を確認しながら、静かに準備を進めていた。
「このライト、舞台横からも入れるときれいに星の輪郭出そう」
照明スケッチを確認しながら咲が独り言のようにつぶやく。
「脚本と解説、時間配分を少し短くして、区切りごとに一瞬暗転入れたい。星座の切り替え、目立たせたいから」
結愛がタイムラインを指で追いながら、蓮に向かって提案する。
「会場レイアウト、誘導経路と安全確認は先生に一応見てもらった。あと二案ぐらい残しておきたいけど」
玲奈はレポート用紙をめくりながら、隣で作業する楓に声をかける。
「装飾、今日の班で半分は終わりそうです。残りは明日朝イチで!」
楓が元気よくうなずく。
そんな中、蓮と結愛は壁際のホワイトボードに目をやっていた。
「……やっぱり、照明足りないな」
蓮がメモを指でなぞる。
「校内で使えそうなランプとスタンドはもう洗い出したし、市内も全部まわったけど…どこも在庫切れだった」
「……最後の望み、あそこしかないか」
蓮がふっと顔を上げる。
「旧演劇部の倉庫。体育館裏にまだ残ってるらしい。スポットライトがあればワンチャン」
「行ってみる価値はあるよね」
結愛がすっと立ち上がる。
咲が書類整理をしながらふと顔を上げた。
「……LiNeしてね。遅くなりそうなら、ちゃんと」
「うん。俺と黒瀬さんで行ってくる」
「こっちはこのまま準備続けるから。がんばって」
玲奈が資料を畳みながら手を振る。
「気をつけてくださいね。ライト見つかるといいなぁ……!」
楓も明るく背中を押した。
蓮と結愛は、少し風の出てきた校舎の廊下を並んで歩き出す。
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夜。校舎裏の旧倉庫。
懐中電灯を片手に、扉を開ける。中は薄暗く、ひんやりとしていた。
「……結構、古そうだね」
結愛が棚をのぞき込みながら呟く。
「でも、これ……」
蓮が奥の棚から持ち出したのは、脚付きのスポットライト。コードも無事で、見た目の劣化は少ない。
「ちゃんと動きそう。補強すれば、現役で使えるかも」
「ほんとだ……助かった」
結愛が心から安堵したように、静かに笑った。
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校舎裏の自販機前。温かい缶ココアを手に、二人は腰をかけた。
「なんか……夜にこうして一緒に準備してると、文化祭がやってきたって実感湧いてくるね」
「確かに。こういう時間の方が、あとで一番思い出に残るのかもね」
「うん……きっと、そうかも」
夜風が少しだけ肌寒くなってきた。
それでもふたりの胸には、ほんのりと温かい達成感が灯っていた。
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星の光は照明で作れる。
だけど、誰かと過ごした時間は、
それ以上にまぶしい記憶になる気がした。