文化祭準備
―教室で決意、屋上で合流―
夏休みが明けた朝。
2年進学コースの黒板には、大きく《文化祭クラス展示決定会議》と書かれていた。
担任の掛井が手短に説明を済ませると、クラス代表の姫川咲が前へ出る。
「みんな意見ありがと。──今年の展示は体験型プラネタリウムに決定だよ!」
わっと拍手が上がり、担当割りが読み上げられる。
役割:星座解説・脚本 担当:黒瀬 結愛
役割:演出・誘導MC 担当:姫川 咲
役割:制作統括 担当:早乙女 玲奈
役割:機材&全体ディレクション 担当:朝霧 蓮
咲が補足する。
「装飾は1年の有志が合同で手伝ってくれる予定です。後で合流して打ち合わせします」
蓮は席でうなずきながら、配布資料にメモを走らせた。
(ここまでは順調――問題は機材の確保だ)
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昼休み、蓮が機材リストをまとめて廊下を歩いていると、陽キャの笑い声が響く。
「おいおい、進学さんはまたお堅い展示っスか? こっちは生ステージで客を湧かせるんで」
停学明けの桐谷蒼馬と古賀が、総合コースの舞台設備の前で調子に乗っている。
「音響も照明も俺らが先に全部予約。地味星空は影で頑張れって!」
嫌味を残して去る二人。
蓮は表情を崩さず、手帳に走り書きした。
【照明・アンプ:代替ルート要】
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放課後、蓮は屋上に向かう。
そこにはクラス代表の咲・結愛・玲奈、そして装飾班代表として参加した1年生の志賀楓が待っていた。
「蒼馬たち、ステージ機材を独占する気みたいだね」
玲奈が腕を組む。
「照明がなければ星の演出が弱まる」
結愛が冷静に指摘する。
蓮は資料を開いた。
「理科準備室に古い投影ランプが残ってる。
音響はポータブルアンプを借りるか、市内でレンタルしてもいい。
僕が交渉と代替機材のリストアップを担当する」
咲が嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあ、私は先生方への申請書を書く。早乙女さんは制作工程をまとめてくれる?」
「任せといて! 装飾のサイズも決めて図面作るね」
楓が元気よく手を挙げる。
「装飾素材は1年で集めます! せんぱい、必要な色の布とかリボンとかリストください!」
蓮は皆のやる気に小さく笑った。
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屋上の柵越しに茜空。
咲が穏やかに口を開く。
「2年生が実質最後の文化祭だから…みんなと成功させたい」
結愛が夕日を映す眼鏡を押さえる。
「星空は静かでも、私たちの本気を照らせば一番輝くはず」
玲奈は拳を突き上げた。
「機材取られたくらいでへこたれる私たちじゃないってとこ、見せつけよう!」
楓はツインテールを揺らし、瞳を真剣に輝かせる。
「1年でも力になります! ぜったい成功させたいです!」
蓮は胸の内で静かに決意する。
(まだ誰を選ぶか、答えは出ていない。
けれど、この文化祭は“全員で成功させる”――まずは、それが俺の責任だ)
夏の終わりと秋の始まりが交差する風が、五人の背中を押していた。




