意外-黒瀬結愛
駅前の雑居ビルの一角。
蓮が待ち合わせに指定された場所を見上げると、『猫カフェ・にゃんのんびり』という可愛らしい看板が目に入った。
(黒瀬さんが猫カフェか……意外だな)
彼女のイメージからは遠い気がして少し戸惑っていると、ビルの入り口に見慣れた姿が近づいてきた。
「蓮くん、待った?」
黒瀬結愛は小さな手を振りながら近づいてくる。
普段より柔らかな素材の白いブラウスに、髪をゆるく巻いた彼女は、学校で見る姿よりずっと柔らかな印象だ。
「あまり待ってないよ。……今日は、ちょっと雰囲気違うね」
「うん。猫たちに嫌われないように……ちょっとだけ頑張ってみた」
照れくさそうに微笑む結愛の表情が新鮮で、蓮は胸の奥が少しざわつくのを感じた。
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店内に入ると、穏やかな音楽と、猫たちの気まぐれな足音がふたりを迎えた。
「猫カフェ、よく来るの?」
「実は初めて。前から気になってたけど、ひとりじゃちょっと……」
結愛はそう言いながら、そっとしゃがみ込んで猫に手を伸ばした。
「……あれ?」
だが、猫たちはなぜかするりと彼女の手を避けていく。
「あ……待って……」
普段落ち着いている結愛の、予想外の焦った表情に蓮は思わず吹き出した。
「黒瀬さんでも慌てることってあるんだ」
「え、だって……」
「いや、ごめん。でも、なんか可愛いなって」
「なっ……!?」
結愛は頬を赤く染めながら小さく抗議した。
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蓮は自然に猫を呼び寄せ、膝に乗せたり、撫でたりしていたが、
結愛は少し離れたところで静かに座り、じっと猫たちを眺めていた。
(意外と苦戦してるな……)
蓮はそっと立ち上がり、一匹の穏やかそうな猫を抱えて、結愛の隣に腰掛けた。
「黒瀬さん、この子大人しいから触ってみたら?」
「え、うん……ありがと」
結愛が緊張気味に手を伸ばすと、猫はすぐに喉を鳴らしながら彼女の膝に身を預けた。
「わ、蓮くん、見て……乗ってくれた……」
いつもより高めの声と、満面の笑み。
結愛がこんな表情をするのは初めて見る気がした。
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帰り道。夕方の街並みを歩きながら、結愛が静かに口を開いた。
「今日はちょっと失敗しちゃったかな……」
「いや、そんなことないよ。普段と違う黒瀬さんを見れて、嬉しかった」
「えっ……」
結愛は少し驚いたように足を止める。
「意外だったけど、なんかすごく可愛かったし」
「か、かわい……」
「うん。学校じゃ見られない一面が見れてよかった」
蓮の素直な言葉に、結愛は顔を真っ赤にしてうつむいた。
「蓮くんって……意外と、ずるい」
小さく呟きながらも、彼女の口元は緩んでいた。
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別れ際、結愛は蓮の背中に向かって少しだけ大きな声を出した。
「あの、また……行こうね?」
結愛の照れくさそうな微笑みを見送りながら、蓮はまたひとつ、自分の心が動いたことを感じていた。




