水しぶきの向こうで
夏休み中盤、抜けるような青空の下。
「ひゃっ、つめたっ!」
海辺に響く声。
砂浜を走る足音と、水を蹴る音。
そこは、高校の有志が集まった日帰り海水浴イベント。
進学コース・総合コース・学年の壁を越えて、友人たちが誘い合った形で自然と規模は広がり――
蓮もその一員として参加していた。
──そして、彼女たちも。
姫川咲は、薄い水色のワンピース型の水着。
大人びた印象の黒瀬結愛は、モノトーンのシンプルなビキニにパーカーを羽織って。
早乙女玲奈は元気なオレンジ色のビビッドなスポーティ水着。
志賀楓は、白にピンクのフリルがついた控えめなツーピースで、顔を真っ赤にしていた。
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「せんぱいっ! こ、これ、似合ってますか……?」
「うん。すごく似合ってる」
「…………やっぱ無理です、タオル巻きます!!」
楓はタオルを頭から被って逃げていく。
その姿に、他のヒロインたちが笑いながら追いかける。
「もう、楓ちゃんってば可愛い」
「……それ、咲もわりと似たようなことしてたよね」
「え、うそっ!? わ、わたしは…日焼けが心配だっただけでっ!」
「そういうことにしとこっか」
結愛と玲奈が、からかうように見合って笑う。
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「蓮ー、スイカ割りやんぞー!」
砂浜から翼が呼んでくる。
「おーい、蓮ー! ヒロインズも一緒にやろーぜー!」
「ちょっと!? “ヒロインズ”って何よ!」
玲奈が突っ込みを入れながらも、しっかり目立つ位置へ向かっていく。
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休憩中。
日差しを避けるためにパラソルの下で冷たいジュースを飲んでいると、
ふと、咲が隣に腰を下ろした。
「……ねえ、蓮くん」
「ん?」
「今日、来てよかったって思ってる?」
「……ああ。思ってるよ。すごく」
咲はそっと笑った。
「なら、よかった」
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夕方。
太陽が傾きはじめる頃、全員で小さな花火を囲む。
線香花火を見つめながら、
結愛がぽつりとつぶやいた。
「……夏って、いいね」
「うん。あっという間に終わっちゃいそうだけど、忘れられない」
咲がうなずく。
「せんぱい。今日、わたし……すごく楽しかったです」
「……俺もだよ」
4人が静かに笑い合い、蓮もその中心でゆるく息を吐く。
火花が、最後の一滴のように落ちる。
──その時、それぞれの胸の中に、ひとつの“覚悟”が灯っていた。




