始まりは、テスト後の約束
期末試験、最終日。
教室には、やり切ったという静かな高揚感が漂っていた。
午後のチャイムが鳴り、最後の答案用紙が回収される。
「ふぅ……なんか、思ったより書けたかも」
早乙女玲奈が小さく伸びをしながら、手のひらをパンと叩いた。
「うん。今回、全体的に落ち着いて解けた気がする」
黒瀬結愛も、珍しく手応えを感じたように静かにうなずく。
「……せんぱいと一緒にやったところ、やっぱり出てました。
すごく助かりましたっ!」
志賀楓がほっとした表情で蓮の方を向く。
「みんな、結構できたっぽいな」
「蓮くんが試験前に付き合ってくれたおかげ。説明わかりやすいんだもん」
姫川咲が笑いながらそう言って、蓮の机の上にメモを置いた。
「はい、ありがとうメモ。まとめたノートの清書版、プレゼント」
「……なんで俺のノートよりきれいなんだよ、それ」
「ふふ、気持ち、気持ち」
彼女たちは、各々の手応えを噛みしめながら――
試験を終えた達成感のなかで、自然と笑い合っていた。
⸻
放課後、昇降口。
蓮が靴を履き替えていると、にぎやかな足音が近づいてくる。
「おつかれ、蓮くん!」
「せんぱーいっ!」
「……おつかれさま」
彼女たちが、それぞれのタイミングで集まってくる。
その自然な流れに、蓮も少しだけ笑った。
「試験終わったら、ちょっとだけ騒ぎたくなるよね」
「じゃあファミレスでも行かない? 軽く、打ち上げって感じで」
「いいね、それ。ちょっとくらいなら……」
「せんぱいはどうですか? ……付き合ってくれますか?」
「行こうか。せっかくだしな」
⸻
ファミレス。
夕方前の店内は空いていて、4人と1人のテーブルがすんなり確保できた。
ドリンクバーのトレーを並べながら、話題は自然と“夏休み”へ。
「来週、駅前で花火大会あるらしいよ。行かない?」
「浴衣とか、着ていった方がいいのかな……暑いけど、雰囲気は出るし」
「うわ、それはもう“夏って感じ”ですね!」
「せっかくだし、みんなで行けたらいいな。……ね、蓮くんも」
ふと投げかけられた咲の視線に、蓮はうなずいた。
(そういえば――来年は受験だ)
(今年が、“自由に遊べる最後の夏”なのかもしれない)
⸻
帰り道。
駅へ向かう坂道の途中。
姫川咲が、蓮の隣にふと並んだ。
「ねえ、蓮くん。……今年の夏、きっと忘れられない時間になると思う」
「どうして?」
「受験生になる前の、最後の夏休みだから。
思い出、ちゃんと作っておきたいの」
そう言って咲は、足元を見ながら小さく呟いた。
「……私、ちょっとだけ勇気出す夏にするね」
それは“誰に”とは言わなかったけれど、
蓮には――十分に伝わる言葉だった。




