静かに騒がしい、試験前の午後
7月初旬。
梅雨明け間近の空は、どこか焦ったように曇っていた。
教室内もいつもとは違う雰囲気に包まれている。
――そう、期末試験直前。生徒たちのテンションは微妙に低い。
「うーわー、やばーい、範囲広すぎじゃない? これ、寝ずにいけってこと?」
早乙女玲奈がプリントを仰ぎながら机に突っ伏す。
「……出るところだけ覚えればいいと思うけど」
黒瀬結愛は冷静に資料をチェックしているが、指の動きはいつもより速い。
「せんぱい、ここはこの公式、使うんでしたっけ……?」
志賀楓が手元のノートをめくりながら、小さく蓮に尋ねる。
「ここは例外パターンのやつ。去年も出てたから、確認しといた方がいい」
「わ、わかりました! さすがせんぱい……!」
大げさに感動しながらノートを写す楓の手は、いつになく真剣だった。
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(……なんか、いつもより視線が多い気がする)
プリントを確認していると、ふと斜め前から優しい声がした。
「蓮くん、この範囲もう終わった?」
振り返ると、姫川咲がノートを開いてこちらを覗いていた。
「うん、たぶん一通り。確認する?」
「ありがとう。……一緒に見てもいい?」
(“一緒に”って……今、勉強の話だよな)
そう自分に言い聞かせながら、隣にノートを広げる咲に頷いた。
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放課後。
日直を終えた蓮が荷物をまとめていると、再び各ヒロインが自然に集まり始めた。
「ねえねえ、試験終わったらさ、どっか遊びに行かない?」
玲奈が口火を切る。
「夏休み最初の土曜、ちょうど予定空いてるから……花火大会、どうかな?」
咲がそっと続けると、
「それ、いいかも。……人混み、苦手だけど、蓮くんが一緒なら、がんばれる気がする」
結愛がぼそりと加わる。
「せんぱい、夏のイベントって、意外と混むので……前もって準備、必要ですよね?」
楓も少しだけ前のめりに意見を出す。
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(……来年は受験。だから、今年が自由に過ごせる最後の夏)
それぞれが自然と口にする「夏」の言葉に、教室の空気がゆっくりと変わっていく。
期末試験という現実に押されながらも、
その先に待つ“かけがえのない時間”を、誰もが心のどこかで感じていた。




