表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/81

気づけば、まわりは

2年の1学期。

梅雨の晴れ間に、少し蒸し暑さが残る放課後。

“いつも通り”だったはずの教室が、ゆっくりと変わり始めていた。



【朝】


教室に入ると、姫川咲が俺の席までやってきた。

手に持っていたのは、以前ふたりで行った猫型ロボット展のパンフレット。

丁寧に付箋が貼られ、細かなメモまで添えられている。


「おはよう、蓮くん。……この前の展示会、まとめてみたの。

 また行けたらいいなって思って」


「すごいな、姫川さん。俺、こういうの整理するの苦手で」


「ふふっ、好きなことの話を、好きな人と共有できるのって……すごく幸せなことだから」


咲は穏やかに微笑みながらそう言って、少しだけ恥ずかしそうに視線を外す。


「次は、私が案内する番。楽しみにしててね、蓮くん」


その言葉に、俺は少しだけ胸が熱くなるのを感じた。



【昼休み】


「朝霧くん」


「黒瀬さん。買い物?」


「うん。ちょっと飲み物。……ねえ、前に話してた小説、読んだ?」


「読んだよ。なんか思ってた展開と違って、びっくりした」


「でしょ? あの静かな終わり方、すごく好きなの」


黒瀬さんは、話しながら少しだけ表情をほころばせたあと、

ふと、緊張したような、恥ずかしそうな顔を見せた。


「……さっき咲が“蓮くん”って呼んでて……なんか、いいなって思って」


一瞬、俺の動きが止まる。

結愛も、一拍おいて、小さな声で続けた。


「だから、私も……これからは、蓮くんって、呼んでもいい?」


「……もちろん」


そのやりとりは短かった。

でも、それは確かな“変化”だった。



【放課後】


「じゃーん! 今日のご褒美セット、設置完了~」


席に戻ると、俺の机の上にはカフェオレとプリンが並んでいた。

そして隣の席には、さも当然のように早乙女玲奈が座っている。


「これ、早乙女さん……?」


「そ。最近、蓮くんちょっと疲れてそうだったし、甘やかしたくなっちゃったんだよね~」


「……ありがとう。嬉しいよ」


「やったー、ちゃんと受け取ってくれた! ポイント加点!」


いつもの明るい調子。でも、その奥にある真剣な気持ちは伝わってくる。


「好きって言ってから、ちょっとだけ勇気出せるようになったかも。……次はもっと自然に言えるといいなって」


玲奈は少し照れたように笑って、それでも目は真っ直ぐだった。




【図書室】


放課後の図書室。

志賀楓は参考書を開いていたものの、視線はずっと窓の外に向いていた。


(咲さんも、結愛さんも、早乙女さんも……みんな、すごく自然に“せんぱい”と距離を縮めてる)


(私も、一度は勇気を出して……デートに誘った。ちゃんと、がんばったつもりだった)


でも、今日のみんなの姿を見て、はっきりと感じた。


(私、まだ全然届いてない)


(あのとき“好き”って言った。それだけじゃ、だめだったんだ)


本を閉じ、立ち上がる。


(せんぱい。次は、もう一歩――もっと私を見てもらえるように、ちゃんと動く)


その目には、静かだけれどはっきりとした決意が宿っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ