表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/85

君に向ける、この視線-朝霧蓮

気づいていた。

ずっと前から、きっと――気づいていたんだと思う。


でも、それにちゃんと向き合うのが怖かった。

誰かを傷つけるかもしれないこと。

変わってしまう日常のこと。

そして――自分自身の気持ちに向き合うことが。


咲、結愛、玲奈。

そして、楓。


彼女たちはそれぞれの形で、俺に“気持ち”を伝えてくれた。



咲は、公園のベンチで、やわらかい日差しの中で――

ほんの少し強い声で、まっすぐに言ってくれた。


「今の私は、“誰かに助けられたから好き”なんじゃなくて――

 朝霧くん……蓮くん自身が好きなんだよ」


そう言ったときの咲の目は、真っ直ぐだった。

そばにいられればいい――そう思ってた彼女が、

「それじゃ届かないって、気づいちゃったんだ」って。

そして――


「負けたくないって、思えるようになった」


咲は、確かにそう言った。



結愛は、図書室のあと、静かなカフェで――

ゆっくりと言葉を選ぶように話してくれた。


「言わなくても伝わるって思ってた。

 でも、それは変わるのが怖かっただけだった」


「私は朝霧くんのことが好きです」


その言葉は、少し震えていて、だけど強かった。


そして、帰り際。

彼女は俺の前で、そっと足を止めて言った。


「次は、もう少しだけ踏み込んでみる。

 そのときは、“私のこと”を、もっと見てほしい」


今のままじゃ足りない――そう言い切った彼女の背中は、静かだけど確かだった。



玲奈は、いつもよりテンション高くて、

遊園地で元気にはしゃいでたけど――それが逆に不自然だった。


「……あれね、全部、緊張のせい」


そう言って笑ったあとに、彼女はちゃんと伝えてくれた。


「私、蓮くんのことが好き。

 冗談じゃないよ。本気。……こういうときこそ、ちゃんと伝えたくて」


ふざけるようで、ふざけきれない。

玲奈は、そういう子だ。


帰り道、ちょっとだけ恥ずかしそうに言ったあの言葉が、今も耳に残ってる。


「じゃあ次は、“いつもの私”で好きって言うから」


それはきっと、“本当の自分を見てほしい”っていう、

玲奈なりの覚悟なんだと思う。



そして、楓。


彼女だけは、まだ言葉にしていない。

でも、それが悪いとか、遅れてるとか――そういうことじゃない。


再会して、数ヶ月。

彼女はまだ、俺との距離を測ってる最中なんだと思う。


だけど、あの日。

全身で勇気を振り絞って、誘ってくれた。


「今日は、“せんぱいにかわいいって思ってもらう日”にしたかったんです」


照れながら、でもどこか誇らしげに、そう言った楓を――

俺は、今でもちゃんと覚えてる。



4人の想いが、俺に向かっている。


選ぶこと。

選ばないこと。

どちらも誰かを傷つけるかもしれない。


でも、向き合わずにいたら、もっと傷つけてしまう。


だから、ちゃんと――

俺も、考えようと思う。


誰の隣にいたいのか。

誰の言葉が、自分の心を一番揺らしたのか。



日常は変わらないように見えて、

でも、もう同じには戻らない。


少しずつ、答えを出すために。

俺は、彼女たちを――もう一度、ちゃんと“見る”。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ