君に向ける、この視線-朝霧蓮
気づいていた。
ずっと前から、きっと――気づいていたんだと思う。
でも、それにちゃんと向き合うのが怖かった。
誰かを傷つけるかもしれないこと。
変わってしまう日常のこと。
そして――自分自身の気持ちに向き合うことが。
咲、結愛、玲奈。
そして、楓。
彼女たちはそれぞれの形で、俺に“気持ち”を伝えてくれた。
⸻
咲は、公園のベンチで、やわらかい日差しの中で――
ほんの少し強い声で、まっすぐに言ってくれた。
「今の私は、“誰かに助けられたから好き”なんじゃなくて――
朝霧くん……蓮くん自身が好きなんだよ」
そう言ったときの咲の目は、真っ直ぐだった。
そばにいられればいい――そう思ってた彼女が、
「それじゃ届かないって、気づいちゃったんだ」って。
そして――
「負けたくないって、思えるようになった」
咲は、確かにそう言った。
⸻
結愛は、図書室のあと、静かなカフェで――
ゆっくりと言葉を選ぶように話してくれた。
「言わなくても伝わるって思ってた。
でも、それは変わるのが怖かっただけだった」
「私は朝霧くんのことが好きです」
その言葉は、少し震えていて、だけど強かった。
そして、帰り際。
彼女は俺の前で、そっと足を止めて言った。
「次は、もう少しだけ踏み込んでみる。
そのときは、“私のこと”を、もっと見てほしい」
今のままじゃ足りない――そう言い切った彼女の背中は、静かだけど確かだった。
⸻
玲奈は、いつもよりテンション高くて、
遊園地で元気にはしゃいでたけど――それが逆に不自然だった。
「……あれね、全部、緊張のせい」
そう言って笑ったあとに、彼女はちゃんと伝えてくれた。
「私、蓮くんのことが好き。
冗談じゃないよ。本気。……こういうときこそ、ちゃんと伝えたくて」
ふざけるようで、ふざけきれない。
玲奈は、そういう子だ。
帰り道、ちょっとだけ恥ずかしそうに言ったあの言葉が、今も耳に残ってる。
「じゃあ次は、“いつもの私”で好きって言うから」
それはきっと、“本当の自分を見てほしい”っていう、
玲奈なりの覚悟なんだと思う。
⸻
そして、楓。
彼女だけは、まだ言葉にしていない。
でも、それが悪いとか、遅れてるとか――そういうことじゃない。
再会して、数ヶ月。
彼女はまだ、俺との距離を測ってる最中なんだと思う。
だけど、あの日。
全身で勇気を振り絞って、誘ってくれた。
「今日は、“せんぱいにかわいいって思ってもらう日”にしたかったんです」
照れながら、でもどこか誇らしげに、そう言った楓を――
俺は、今でもちゃんと覚えてる。
⸻
4人の想いが、俺に向かっている。
選ぶこと。
選ばないこと。
どちらも誰かを傷つけるかもしれない。
でも、向き合わずにいたら、もっと傷つけてしまう。
だから、ちゃんと――
俺も、考えようと思う。
誰の隣にいたいのか。
誰の言葉が、自分の心を一番揺らしたのか。
⸻
日常は変わらないように見えて、
でも、もう同じには戻らない。
少しずつ、答えを出すために。
俺は、彼女たちを――もう一度、ちゃんと“見る”。




