私たち、みんな
放課後の教室。
夕焼けに照らされた空間に、4つの影が揃っていた。
姫川咲、黒瀬結愛、早乙女玲奈、志賀楓。
普段はそれぞれの場所で過ごしている4人が、なぜかこの日、同じタイミングで教室に残っていた。
「……なんか、珍しいね。全員そろうなんて」
咲がそう言うと、他の3人も微妙に目を逸らす。
「べっ、別に……たまたまだから」
「プリント取りに来ただけだし」
「わたしは……せんぱいがまだいるかなーって……」
空気が妙に静かになる。
誰も言わない。
でも、みんなわかっている。
同じ人のことを考えていることを。
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「……ねえ」
結愛が先に口を開いた。
「昨日、朝霧くんと一緒に帰ってたよね? 咲」
咲は少し驚いた顔をしたあと、ゆっくりとうなずいた。
「うん。体育祭の写真、見せたくて……誘ったの」
誰も否定しない。
けれど、沈黙が落ちる。
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「……やっぱ、咲は強いな」
玲奈がぽつりと呟く。
「うちら、みんな誘ったことあるけど……あんた、タイミングも自然でさ。ちゃんと踏み出してて、ちょっと羨ましいわ」
「……わかるかも」
楓が静かに頷く。
「わたし、ずっと後ろから追いかけてきて……ようやく同じスタートラインに立てたと思ったのに、みんなもう先に進んでる気がして、正直、焦ってます」
その言葉に、咲はゆっくりと口を開いた。
「私、ずっと言おうと思ってて……でも、言えなかった」
「なにを?」
結愛が小さく聞き返す。
「……私、朝霧くんのこと、好き。……本気で、好きなの」
空気が、止まる。
誰も驚いていない。
それでも、心の奥がぐらりと揺れる。
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「……そっか」
結愛が目を閉じて言った。
「言っちゃったか。……じゃあ、私も言う」
咲の目を見て、結愛は静かに言葉を続けた。
「私も、好き。気づかないふりしてたけど……もう、無理だった」
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「……あー、もー」
玲奈が頭をかきながらため息をつく。
「しょうがない、言っとくわ。あたしも、かなり前から惚れてる。……認めるの、ちょっと悔しいけど」
その笑顔には、ほんの少し照れが混ざっていた。
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最後に、楓が小さな声で――けれど、はっきりと口を開く。
「私も……です。入学前から、せんぱいのことばかり考えてました。ずっと、ずっと……」
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沈黙。
でも、誰かが泣くことも、怒ることもなかった。
張りつめた空気の中で――ふと、結愛が口を開いた。
「……けっきょく、全員だったんだね」
「うん」
咲が苦笑する。
「みんな、言わなかったけど……」
「……見ればわかるよね」
玲奈が肩をすくめる。
「顔とか、態度とか。バレバレだったってことでしょ?楓はわざわざ入学前にバレンタインデー渡しに来るぐらいだし!」
「そう……ですね」
楓がぽつりと笑った。
「でも、ちゃんと口にしたのは、今日が初めてでした」
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「……バチバチになるの、やだな」
咲が小さな声で言う。
「うん。でも――」
結愛が続ける。
「誰も、譲らないよね」
「当然」
玲奈がにっと笑った。
「だったら、ちゃんと勝負しよ」
楓が拳を握る。
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誰かが「じゃあ、それぞれ誘おうか」と言い出したとき、
すでに誰も止める者はいなかった。
4人は、同時に一歩を踏み出そうとしていた。
それぞれの、“好き”の形を――ぶつけるために。