体育祭ーぱん食い競争仁義なき戦い
昼過ぎの校庭。
続いて行われる競技は――女子パン食い競争。
走って吊るされたパンを口でくわえ、ゴールを目指す。
単純だが、スピードと跳躍とタイミング、そして――気持ちが問われる種目だった。
スタートラインに並ぶのは、進学・総合コースを問わず注目を集める4人。
姫川咲、黒瀬結愛、早乙女玲奈、志賀楓。
周囲からは「夢の対決」とささやかれ、応援席にはすでに異様な熱気が漂っていた。
「よーし、やったるわよ」
玲奈が腕をぶんぶん振って気合を入れる。
「……勝ち負けじゃないけど、負けたくはないかな」
結愛がそっとリストバンドを締め直す。
「きょ、今日こそ、先輩にアピール……!」
楓はぴょこぴょことジャンプしながら自分を鼓舞していた。
そして咲が、一歩前に出る。
「……みんな、頑張ろうね。でも――私は絶対、負けないよ」
その言葉に、3人がビクッと反応する。
「えっ、咲が一番気合入ってない!?」
「ちょ、なんでそんな真剣モードなのよ」
「ふふ、でも――私も負けません」
妙な空気で視線が交錯し、4人の間に火花が散った、その瞬間――
一斉に振り返って、観客席にいる蓮を見つめた。
「朝霧くん、見ててね!」
「……頑張るから」
「蓮くーん!」
「せ・ん・ぱ・い♡」
4人同時に声をかけられた蓮は、思わず肩をすくめる。
(な、なんか今日……怖いんだけど)
「位置について――よーい、スタート!」
4人は一斉にスタートを切った。
土を蹴る音が重なり、4人の影が一直線に並ぶ。
走りながら互いに視線を送り合い、パンに向かって一気に距離を詰める。
「譲るつもりないからね!」
咲が前傾姿勢で飛び出す。
「じゃ、正面からいくわよ」
玲奈も負けじと並ぶ。
「……ごめん、遠慮しないから」
結愛は低く跳び、先に一噛みを狙う。
「うわ、近い近いっ! でも絶対勝つんだから!」
楓は笑顔を保ちながらも全力で跳びかかる。
4人の頭とパンが入り乱れ、まるで乱戦のような様相に。
「きゃっ」「ちょっと」「押さないで」「それ私の!」
顔を近づけすぎて髪が絡まり、互いの額がぶつかり、誰が先に噛みついたのか分からない混戦の末――
「っ、くわえた……!」
「よっしゃ、取った!!」
「んぐっ……取れたけど、これ走りづらっ」
「せんぱい、ちゃんと見ててくれましたー!?」
パンをくわえたまま、4人が全速力でゴールを目指す。
息が切れて、足がもつれそうになっても――
その顔は全員、まっすぐだった。
ゴール後。ゼエゼエと息を吐きながら、4人はその場にへたり込む。
「……だ、だれが1位だったの……」
「も、もう分かんないけど……」
「……たぶん、私が一番かわいいって思われました!」
「うわ、言ったな」
笑いながら、息を整えるヒロインたち。
その様子を見ていた蓮は――少しだけ笑っていた。




