体育祭ー騎馬戦
校庭中央。
全学年合同の体育祭、その中でも最も注目を集める種目――男子騎馬戦が始まろうとしていた。
応援席の女子たちが一斉に立ち上がり、スマホを構える。
騎馬戦は、男子たちのプライドと意地がぶつかり合うステージだ。
「おいおい、またかよ……」
「蒼馬たち、懲りねぇな……」
ため息まじりに交わされる声。
その視線の先――
蒼馬と古賀がペアで組んだ騎馬が、進学コースの一騎へと向かっていた。
古賀を騎馬の先頭に据え、蒼馬は騎馬の上からニヤリと笑いながら、声を放つ。
「なあ朝霧……これまでいろいろコケにしてくれたけどよ――」
続けて、古賀が土埃を巻き上げながら、叫ぶ。
「ぶっ潰してやんよ!」
正面に立つのは、蓮率いる進学コース騎馬。
上に乗るのは、親友の篠原 翼。顔には緊張と、ほんの少しの笑みが浮かんでいた。
「……っ!」
古賀が突っ込むその瞬間、蓮は静かに息を吸う。
そして――迷いなく、一歩前へ踏み出した。
「うおっ……!?」
蒼馬の騎馬が、真っ向から押し返された。
その力は、暴力的なものでも、腕力のゴリ押しでもない。
冷静に足場を読み、騎馬の軸を崩さず、“力の効率”だけで返す動きだった。
「な……なんで……!?」
蒼馬の目が驚愕に染まる――その瞬間。
上に乗る翼が、するりと身を乗り出し、蒼馬の鉢巻を掴んだ。
スッ――と空に舞う白布。
「これが……幼なじみパワーだ!」
――勝負、あり。
観客が息を呑む中、蓮は無言で鉢巻を審判に渡し、騎馬を下りる。
「……またかよ、蒼馬」
「相変わらず絡んでは返り討ち」
周囲は半ば呆れ顔。だが、その表情には一抹の爽快感も混ざっていた。
その様子を見ていた少女たち――
「……やっぱり、すごいね」
姫川 咲が、頬を染めながら呟く。
「もう安心して見てられるよね」
早乙女 玲奈は腕を組みながらも、目を細めていた。
「……また勝ってる。ほんと、化け物」
黒瀬 結愛はため息をつきながらも、どこか嬉しそうに微笑んだ。
「せんぱい、運動も得意だったの!?」
志賀 楓は、目をまん丸にして驚いていた。
やがて空気が落ち着きはじめた頃。
土に膝をついた蒼馬と古賀は、唇を歪めながら、蓮の背中を睨みつける。
「……覚えてろよ……」
その言葉に――誰も、応えなかった。
ただ風だけが、砂埃をさらっていった。