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私の戦いはこれからだ-志賀楓

新しい制服の襟を整えながら、志賀 楓は校舎裏の木陰でひとり、春の風に吹かれていた。


(やっと、先輩に会えた)


中学の時からずっと、憧れていた“朝霧 蓮”。

ほんの少し話しただけなのに、あの人が描く絵が、あの人の静かな背中が、ずっと忘れられなかった。


(ちゃんと話せた。……ううん、ちゃんと“笑って”話せた!)


自分の中では、小さな勝利だった。


けれど――その直後。


(あの三人)


先輩のところに現れたのは、同じ学年の女子三人。

それぞれ違う雰囲気で、でもどこか“近い”。

まるで、当然のように朝霧蓮に話しかけて、まるで“当たり前のように隣にいる”。


(……そうだ。わたし、知らなかっただけだ)


先輩のことなら、何でも知ってると思ってた。


でも――


(先輩には、こういう人たちがいたんだ)


ヒロインズの顔を思い浮かべる。

一人は清楚で真面目そうな子。

もう一人は落ち着いた空気の中に知性を感じさせる子。

そしてもう一人は、明るくて、感情がストレートに出る子。


(それぞれ、ぜったいに強い気持ちを持ってる)


あの一瞬。三人の目に宿っていた――視線。

ただの警戒じゃない。

“譲れない”という感情すら滲んでいた。


(負けない、って思ってた。入学すれば、近づけるって。……でも、きっとわたしが思ってたより――遠い)


だからと言って、引くつもりはなかった。


(――ここからだ。まだ始まったばかり)


先輩の隣に立つには、もっと近づかなきゃいけない。

この三人の気配を知って、それでも、諦めないって決めたんだ。


(わたし、まだ“志賀 楓”をちゃんと見せてない)


制服の裾を握って、楓は小さく深呼吸した。


(ここから、一歩ずつ)


その決意とともに、彼女は再び昇降口へと向かった。


春の光が、少女の後ろ姿を静かに照らしていた。

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