新学年、新入生
4月。
校門前で、生徒たちが足早に昇降口へと向かっていた。
新学期――二年生のスタートの日。
進学コースは少数精鋭。原則としてクラス替えはなく、教室には見慣れた顔が並んでいた。
朝霧 蓮が教室に入ると、すでに咲・結愛・玲奈の三人が席についていた。
「おはよう、朝霧くん」
咲が手を振る。柔らかい春色のカーディガンがよく似合っていた。
「おはよ、朝霧くん」
結愛は、机の上にノートを広げながら静かに笑う。
「蓮くん! 今年もよろしくね!」
玲奈は元気に手を振ってくれた。
「……ああ。変わらないメンバーで、よかった」
蓮がそう返すと、咲が微笑んだ。
「文系・理系は一部授業の時だけ別れるけれど…共通授業は一緒だしね」
「去年は色々あったから……今年は、もっといい年にしたいね」
玲奈の言葉に、三人とも静かに頷いた。
⸻
そのころ、隣の教室――総合コースのHR教室では、篠原 翼が名簿を見ながら、わかりやすく嘆いていた。
「また、花音、蓮とも別クラスかよ〜。くぅ……!」
「だから進学コースと総合コースで違うって何度言わせんのよ」
一ノ瀬 花音がツッコミを入れる。
「まぁ、今年もよろしくね、翼。向こうは向こうで楽しいことありそうだしさ」
「うー……はいはい。俺もがんばりますよーだ」
⸻
始業式。
新入生たちが並ぶ体育館に、在校生たちも整列する。
「……あっ」
咲が、前の壇上を見て小さく声を漏らす。
「もしかして、あの子……」
真新しい制服に身を包まれた一人の少女が、壇上へと上がっていく。
その名は――志賀 楓。
勝ち気そうな表情に、清楚な雰囲気。だがその中にはどこか覚悟のようなものが宿っていた。
《新入生代表・志賀楓さん、よろしくお願いします》
マイク越しのアナウンス。
「……やっぱり、バレンタインのときの……!」
玲奈が少し焦ったように囁く。
「本当に入学してきたんだ……!」
結愛も視線をそらしながら、複雑そうな表情を浮かべた。
「しかも、新入生代表……」
咲もぽつりと呟いた。
壇上の楓は、深呼吸してからマイクの前に立った。
「新入生を代表して、誓いの言葉を述べます――」
その声は、澄んでいてはっきりと聞こえる。
けれど、咲・結愛・玲奈、それぞれの心は落ち着かないままだった。
(あの子……ただの後輩じゃない)
(なんだろう、この感じ。すごく、強敵な気がする)
(私たち、気を抜いてる場合じゃない……)
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新学年、春。
進級したばかりの教室で、そして新たに加わったライバルの登場に――
ヒロインズそれぞれの胸に、小さな焦りと、新たな決意が芽生えはじめていた。
(今年は、もっとちゃんと向き合う。好きって気持ちに)
暖かい日差しの中、物語はまた一歩、動き出す。