交差する想い
パーティー終盤。
甘いケーキの香りとともに、ゆるやかな空気が店内を包みはじめていた。
いくつかのグループは、会話の余韻を楽しむように座り込み、
時間の流れが少しだけ緩やかに感じられる。
その中で――朝霧 蓮の周囲には、なぜか“順番待ち”のような沈黙が漂っていた。
「ねえ、ちょっとだけいい?」
最初に声をかけてきたのは、早乙女 玲奈だった。
「うん、どうした?」
「ほんとは、もう少し早く誘おうとしてたんだよ。2人で……って」
「え?」
「でも、そのタイミングでパーティーの通知が来てさ。
それで、誘うのをごまかす感じになっちゃった」
玲奈は、いたずらっぽく笑って肩をすくめた。
「べつに深い意味はなかったんだけどね。けど、来てくれてよかった。……なんか、楽しかったよ」
「うん、誘ってくれてありがとう」
「ふふっ。じゃ、また後でね」
軽く手を振って離れていく玲奈の背中を見送り、蓮は小さく息をついた。
次に現れたのは、黒瀬 結愛だった。
「少しだけ、お話、できる?」
蓮が頷くと、結愛は人の少ない窓際へと視線を向ける。
「中学の頃、夜道で助けられたって話、したの覚えてる?」
「……なんとなく」
「助けてくれた人……多分、朝霧くんだったと思う。……前から気づいてたけど、なかなか言い出せなくて」
結愛は、少しだけ目を伏せたあと、まっすぐな視線を返してきた。
「――あの時、ありがとう」
蓮は小さく目を見開き、ゆっくりとうなずいた。
「……そっか。俺も、その話、聞いてから何となく思い出してた。名前も知らなかったけど……印象には、残ってる」
「言えて、よかった。じゃあ、戻るね」
やわらかな笑みを残して、結愛は静かに離れていった。
最後に現れたのは、姫川 咲だった。
「……少し、外、歩かない?」
「うん」
店を出ると、冬の空気が肌を冷やした。
イルミネーションが遠くでまたたき、二人は自然に並んで歩き出す。
「今年って、なんだか早かった気がするね」
「うん。春は、こんなに姫川と話すとは思ってなかった……」
「私も。最初は、ちょっと近寄りがたいって思ってたし」
「それは、よく言われるかも」
咲は笑って、蓮も苦笑する。
「でも今は……こうして話してて、自然な感じ。変だよね」
「……ううん、なんか嬉しいよ。こういうのも、悪くないって思えるから」
「うん。来年も、またこうして話せたらいいな」
蓮がそっと返すと、咲はほんの少しだけ頬を染めた。
3人との会話を終え、蓮は静かな帰り道を歩いていた。
(咲、結愛、玲奈――)
それぞれの言葉が胸に残っていた。
(なんか……3人とも、最近距離が近くなってる気がする)
(……気のせい、じゃないかもな)
冬の夜風が、蓮の頬をそっと撫でていった。