誘いたくて、恥ずかしくて
冬休み直前の昼休み。
進学コース1年A組の教室は、どこか浮き足立った空気に包まれていた。
クリスマスの話題があちこちで飛び交い、誰と過ごすかがひそかな話題になっている。
咲は、休み時間にペンをいじりながら、ちらりと隣の席の蓮を見た。
「ねぇ、朝霧くん。クリスマスって、なにか予定あるの?」
声をかけたあと、(自然だったよね?)と心の中で自問する。
「ん? いや、特には……」
蓮の飄々とした返答に、咲の胸が少しだけ弾む。
(ないんだ……!)
でも、誘おうとした言葉は喉の奥で止まった。
代わりに出てきたのは、
「へぇー……そっかぁ。べ、別に深い意味はないからね! なんとなく!」
という、変に力の入ったごまかしの言葉。
(何やってんの私っ……!)
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放課後、図書室。
結愛は、本をめくる手を止めて、静かに口を開いた。
「……クリスマスって、何か用事あるの?」
「んー、たぶん家にいるだけだと思う。特に決まった予定はないよ」
その答えに、胸の内がわずかに軽くなる。
(よかった……誰かと予定があるわけじゃないんだ)
でも、言えなかった。
「じゃあ、もしよかったら――」の一言が、どうしても出てこなかった。
(静かな図書室じゃ、タイミングが違うよね……)
そんな言い訳とともに、結愛はそっと立ち上がった。
「じゃあね、また明日」
言葉と裏腹に、心の中では(明日じゃダメなんだけど)と何度もつぶやいていた。
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帰りの昇降口。
靴を履こうとしていた蓮に、玲奈が声をかけた。
「……ねぇ、蓮くん。クリスマス、空いてる?」
「ん? うん、空いてるよ。何かあるの?」
「えっと……いや、その、別に決まってるわけじゃないけど……」
玲奈は視線を宙に泳がせ、何かを言い出しかけた――そのとき。
蓮のスマホが鳴った。
画面にはクラスのLiNeグループの通知が表示されている。
『1年進学&総合合同クリスマスパーティー、開催決定!』
蓮は画面を見たあと、少し笑って玲奈に尋ねた。
「もしかして、これのこと言おうとしてた?」
「えっ…あー、そうなんだよ!」
(ちが……いや、ちがわなくもないけど、違うよ!?)
「じゃあ、せっかくだし、行ってみようかな」
蓮が“参加”にステータスを切り替えるのを見て、玲奈はほんの一瞬だけ沈黙した。
(あー……じゃあもう、2人じゃないよね)
「う、うん、そっか……あたしも、行くね!」
口ではそう言いながら、心の奥ではため息をひとつ落とした。
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夜。
それぞれの部屋で、3人のヒロインがスマホを見つめていた。
咲:(2人きりで誘うなんて、やっぱり無理だったよね……)
結愛:(もう少し勇気出せば……でも、空気読めなかったかも)
玲奈:(結局、なにも言えてない。あーもう……!)
そこに飛び込んできた通知。
『朝霧 蓮がイベントに参加に変更しました』
3人は、それぞれの場所でその文面を見つめ、微妙な顔をした。
(……ちょっと安心)
(……でも複雑)
(……クリスマス一緒に過ごすことには変わりないよね?)
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――クリスマスイブ当日。
駅前のイルミネーションが街を彩り、人々の顔がどこか浮き立っている。
制服の上にコートを羽織り、マフラーを巻いた朝霧 蓮は、カフェへと向かって歩いていた。
(……誰が来るのか、なんとなく予想はつくけど)
その頬には、ほんの少しの期待が滲んでいた。
そして、同じ時間。
3人の少女たちもまた、髪を整え、コートを羽織りながら、そっと深呼吸をしていた。
(今日こそは、ちゃんと話したい)
(今度こそ、気持ちに近づきたい)
(“好き”に、もう少し踏み込んでみたい)
心が弾む。
けれどそれ以上に、揺れている。
それでも――彼に会いたくて、歩き出した。




