技で打て、心で斬れ
練習の翌日。
廊下を歩いていた蓮に、咲がふと目を留めた。
「……あれ、朝霧くん?」
彼は、わずかに足をかばうように歩いていた。
近くにいた結愛と玲奈も、すぐに気づいた。
「足、どうしたの?」
「まさか……前の練習で、何かあった?」
朝霧は少し間を置いてから、静かに答える。
「……ちょっと打撲しただけ。大丈夫だよ」
「試合、出られるの?」
咲が心配そうに訊いた。
「時間もあるし、なんとかなるさ。今回はちょっと……思うところもあるし」
その一言に、三人は一瞬、何かを飲み込むように黙り込んだ。
(……そんな顔、するんだ)
(……痛くても、出るって……)
(……やっぱり、放っておけない)
そして――本番、当日。
「1年・進学コース代表、朝霧 蓮!」
「2年・総合コース代表、狩野 隼人!」
場内アナウンスが響く。
剣道トーナメント、素人の部・決勝戦。
予選、準決勝を勝ち上がってきた朝霧と狩野が、再び対峙する。
「よう、陰の王。今日こそ“終わらせて”やるよ」
「……」
試合開始。
一合目――狩野の鋭い打突。
蓮は、痛む右足をかばいながらも体捌きで受け流す。
(やっぱり……足が、動きにくい)
二合目――
狩野が、素人の部では禁じられている**“突き”**を打ち込んできた。
観客席がざわめく。
「突きは禁止だろ、素人の部で……!」
「先生の死角か!?」
胸に打ち込まれ、蓮は一瞬よろめく。
だが、面の奥の瞳は、まったく濁っていなかった。
「終わりだ、“陰の王”!」
狩野がさらに突きを放とうとした、その瞬間――
蓮の竹刀が鋭く動いた。
狩野の突きを正確に“打ち落とし”、そのまま返すように面を打ち抜く。
「――一本!」
会場がどよめいた。
試合後。
面を外した蓮は、静かに息を整えていた。
狩野は信じられないような表情で立ち尽くしている。
「てめっ……足、怪我してたんじゃ……」
「……それでも、勝てる」
その言葉が静かに響いた。
審判が勝者を告げる。
「決勝戦、朝霧 蓮の勝利!」
観客席。
咲、結愛、玲奈――三人は、それぞれの思いを胸に見つめていた。
(足、痛かったはずなのに……)
(なのに、あの技……)
(すご……いや、かっこよすぎでしょ)
“陰の王”――
そう呼ばれた少年は、力でも威圧でもなく、
技と心で勝利を掴んだのだった。




