選択の先にある夢
11月初旬。
進学コースの教室に、配られた1枚のプリントが波紋を広げていた。
《文理選択調査票》
――2年生からは、文系と理系に分かれる。
「……ついに来たな」
朝霧蓮は、小さくつぶやいた。
クラス内はざわついているが、どこか落ち着いた空気もある。
進学校であるこのコースの生徒たちは、多くが進路をある程度考えているのだ。
「よし……と」
蓮は迷いなく“理系”に丸をつけた。
(医者になりたい。それが、昔からの夢だ)
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「朝霧くん、もう決めてたの?」
そう声をかけてきたのは咲だった。
「うん。医学部志望。……目指してる」
「すご……しっかりしてるんだね」
咲は笑いながらも、自分のプリントにはまだ何も書いていない。
その様子を見ていた黒瀬結愛が、隣の席で小さく呟いた。
「私は文系。……法学部に進んで、弁護士になりたい」
蓮はそれを聞いて、ふっと微笑んだ。
「黒瀬さんなら、向いてると思う。冷静だし、言葉に説得力ある」
「……ありがとう。でも、そう簡単じゃないよ」
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昼休み。
蓮が廊下を歩いていると、玲奈が手を振って近づいてきた。
「蓮くんってさ、なんで医者になろうと思ったの?」
「……子供の頃、家族が病気してたのを見て。何もできなくて、悔しかった」
玲奈は少し驚いた顔で頷いた。
「そっか。ちゃんと“理由”があるんだね。あたし、数学苦手だから文系にしようかと思ってたけど……なんか、それだけじゃ決められないかも」
「苦手ってだけで選ぶと、後で後悔することもあるよ。やりたいこと、ある?」
玲奈は少しだけ目を泳がせた。
「……今はまだ、よくわかんない。でも、ちゃんと考えてみる」
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放課後、教室に残っていた咲は、未記入のプリントを前にペンを持ったまま、じっと考えていた。
その姿に気づいた蓮が声をかける。
「迷ってるの?」
「……うん。正直、数学も理科も得意じゃない。だから、文系かなって思ってたんだけど」
「でも、本当は理系に興味がある?」
咲は、少し驚いたように顔を上げた。
「……ロボット、作ってみたいの」
「ロボット?」
「うん。小さい頃から某猫型ロボットが好きで……あんなふうに、人を助けられるロボットを作ってみたい。……でも、私なんかにできるかな」
「できるかどうかじゃなくて、やりたいかどうか、じゃない?」
蓮は迷いなくそう言った。
「文理って、どっちが楽かで選ぶものじゃない。未来の選択肢を、自分で広げるために選ぶんだと思う」
咲は、ゆっくりと息を吐いてから、プリントに目を戻した。
「……じゃあ、私も、ちゃんと向き合ってみる。ありがとう、朝霧くん」
その声には、少しの不安と、それ以上の決意が混ざっていた。
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一人ひとりが、未来を見つめ始める。
文系か理系か、それは“分かれ道”ではなく、“進む道”の第一歩。
蓮も、ヒロインたちも、それぞれの一歩を踏み出そうとしていた――。




