陰キャが“また”1位ってマジ? 陽キャたちのざわめき
「朝霧蓮、また1位だったってよ」
その一言が、総合コースの教室に火をつけた。
「は? また? あの地味なやつ?」
「マジで? 前回だけじゃなかったの?」
「しかもさ、これで3回連続1位なんだって。進学コースでも上位層はざわついてるらしいよ」
――ざわざわ。教室が騒がしくなる。
彼らの中で、朝霧蓮は“昨日ちょっと騒がれた進学の陰キャ”だった。
確かにテストで1位を取ったとは聞いた。でも、それは「たまたま頭が良かった奴」という認識に過ぎなかった。
……それが、本当に常勝の1位だったと知った瞬間。
空気が変わった。
「うわ、蒼馬が昼に絡んでた相手って、マジで超格上じゃん……」
「ていうか、咲ちゃんも黒瀬さんも話してたし……なにあの人、全部持ってんの?」
――自然と視線が教室の隅へ集まる。
「……チッ」
その中心にいる桐谷蒼馬は、わずかに眉をひそめ、苛立ちを押し殺すように舌打ちをした。
(地味な癖に、1位を“当然”みたいな顔していやがって……)
(咲も、黒瀬も、早乙女も……あいつに興味持ち始めてる?)
(――ふざけんなよ)
プライドが、焦りに焼かれていくのを感じていた。
•
一方その頃、進学コースの教室でも異変は起きていた。
朝霧蓮――1位の常連。
だが、彼の周囲は静かだった。生徒たちは遠巻きに見ながら、ひそひそと話す。
「ほんとにまた1位なんだ……。こっそり努力してるんだね」
「ていうか、あの無口さが逆にかっこよくない?」
「しかも昨日、姫川さんと黒瀬さん、話しかけてたんでしょ? やば……」
騒がれているのは自分のことだと、蓮もわかっていた。
だが、彼はただノートをめくり、数式を解く。
「蓮〜、めちゃくちゃ人気出てんじゃん」
と、陽気な声がかけられる。
総合コースからわざわざやってきた、唯一の親友・篠原 翼だった。
「1位連続記録更新中、さらに三大聖女に接触済み。なのに本人は騒がずモブ演技継続……これ、狙ってやってたら悪質だぞ?」
「……やってない」
「やってるだろ絶対」
蓮はため息をひとつ。
注目を避けたくて、努力も存在も隠してきたというのに。
•
その日の放課後。
蓮が下駄箱で靴を履き替えていると、ひょいと隣に現れた金髪。
「……朝霧くん、だよね?」
早乙女玲奈。聖女三人のひとり。
ギャル風だが、瞳には真っ直ぐなものがある。
「また1位、すごいじゃん。……ずっと狙ってたの?」
「別に。やれる範囲でやってただけ」
「ふーん。謙遜か本心か、どっちかはまだわかんないけど……」
玲奈は、軽く笑った。
「やっぱさ、最近ちょっと気になってるんだよね。あんたのこと」
「……そうか」
素っ気ない返事だったが、玲奈は全く気にした様子はなかった。
「でも、成績だけじゃわかんないよ。人間って、もっと色んな面があるでしょ?」
その言葉を残し、玲奈は去っていった。
•
翌日。
朝のホームルームで、体育教師が告げる。
「リレー、2組の代走が必要だ。朝霧、お前走れるか。名簿順だ」
一瞬、教室がざわつく。
「え、朝霧って運動できるの?」
「うわ、足引っ張らなきゃいいけど……」
蓮は立ち上がり、ただ一言。
「……了解です」
その背中を、咲、結愛、玲奈が同時に見つめていた。
そして、何かが始まる気配だけが、静かに教室を満たしていた。