昔も今も、変わらない僕ら
体育祭が終わった翌日の放課後。
グラウンドの熱気はすっかり消えて、校舎には静かな風が吹いていた。
中庭のベンチ。
そこに、3人の影が並んでいた。
朝霧蓮、八神翼、そして、咲坂花音。
「おつかれ、アンカー」
翼がペットボトルを投げてよこす。
朝霧はそれを片手で受け取り、キャップを開けた。
「おまえ、マジで速かったな。ビビったわ。……いや、正直、ちょっと惚れた」
「……やめろ」
「んふふ、惚れたんだ」
からかうように笑うのは、花音。
制服の袖をたくし上げて、麦茶をストローで啜っていた。
「でもほんと、蓮があんなに前に出てくるの、久しぶりに見た気がする」
「……そうかもな」
蓮は麦茶を一口飲んで、空を見上げた。
•
「覚えてる? あのときのこと」
ぽつりと花音が言った。
「小学校のとき。ほら、図工の道具取りに戻ったとき、私たち三人で遅れたやつ」
「あー、あったな。蓮が先生に“代わりに謝っとくから”って言って、黙って前に出たやつ」
翼がうなずく。
「しかも、花音が転んで膝すりむいたのに、タオルと水ボトル持ってたし。あれ、いつ用意してたんだって感じだったな」
「ほんと……蓮って、昔からそうだよね」
「……何が?」
「黙ってるけど、誰かが困ってると、必ず動くの。あのときもそう。
先生に怒られるのがイヤとかじゃなくて、私たちが困ってたから動いたんでしょ?」
蓮は何も言わなかった。
でも、ほんの少しだけ視線が外れたのを、花音は見逃さなかった。
•
「今回もさ、そうだったよね?」
「……なにが」
「リレー。蓮って、別に勝ちにこだわるタイプじゃないのにさ。
誰かのために、本気出した感じがした。違う?」
「……」
朝霧は返事をしなかった。
ただ、ほんの少しだけ口元が緩んだ気がした。
「お、図星か?」
翼が茶化す。
「いや、でもさ。俺ちょっと嬉しかったんだよな。蓮が“勝ち”に向かって走ってるの。
目立つの苦手なくせに、誰よりも前に出てるの、ちょっと……かっこよかった」
「……そっか」
蓮はぼそりとつぶやき、立ち上がる。
「じゃあ、俺、図書室寄って帰る」
「はーい、マイペース」
花音が笑って手を振る。
翼も軽く手を上げて見送った。
•
蓮の背中が校舎の角に消えたあと。
しばらくして、花音が静かに言った。
「……変わってきたね、蓮」
「うん。でも、いい変化だと思う」
「誰かのこと、好きになったのかな」
「……それは、まだわかんないかもな」
風が吹く。
放課後の陽射しが、やさしく校舎を染めていた。




