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「やぁ、久しぶりだね、レグリアス殿」

「ノーマン殿下、ご無沙汰しております。同じ学園に通っているのに、ご挨拶が遅れて申し訳ありません」

「僕は男爵子息で通っているので、挨拶は不要だよ。それより今日は少しうかがいたいことがあってね」


 普段は寮にて地味な生活をしているノーマンが、何故か休日に王宮へとやってきた。

 どうやら聞きたいことがあるらしく、少しだけ困ったような顔をしている。


「どうかされましたか?」

「実は昨日の放課後、忠告を受けていた公爵令嬢から接触があったんだよ。その件で少し聞きたくてね」

「もしかして、何か意味不明なことを聞かされましたか?」

「意味不明という訳ではないんだが、何故彼女がそれを知っているのかと思ってね」


 彼の悩みはズバリ、両親と髪や瞳の色が違うことだ。

 不貞の子などと噂され、それが嫌でこちらに留学してきている。

 ちなみに彼の祖父が我が国の元王子で、俺とは再従兄(はとこ)の関係になる。


「いきなり『こんにちは、ノーマン殿下』と話し掛けられて本当にビックリしたよ。僕は男爵子息として学園に通ってて、一部の人間しか正体は知らない訳だからさ」


 幸いにして周りには誰もいなかったので問題はなかったが、その後も彼女の意味不明な話は続いたという。


「何故正体を知っているのかと聞いても『気品は隠せません』としか言わないし、『貴方の悩みを知ってます。王宮の第五渡り廊下に答えがありますよ』って得意げな顔で言うしね。どう返答していいのか迷ったけど、取り敢えず上皇陛下の肖像画のことなら既に知っていると告げたんだ」


 両親に似ていないことを悩んでいた彼だが、実は俺の祖父である上皇陛下の若い頃に非常によく似ていたのだ。彼の祖父と俺の祖父は兄弟なので、それは不思議な話ではなかった。

 だが、彼の祖父は父似で俺の祖父は母似という真逆の色合いをしていた為、異国の地で彼がそれを知る機会は無く、唯一知っていた彼の祖父も既に鬼籍だったため、要らぬ誤解が生じる切っ掛けとなってしまった。

 だが、王宮には我が祖父の若き日の肖像画が存在していた。それが展示されていたのが、王宮東殿の第五渡り廊下だったという訳だ。

 初めて渡り廊下に足を踏み入れた彼は、祖父の肖像画を見た瞬間、その場から動かなかった。

 渡り廊下を俺達王族が通ることは殆どなく、白髪混じりの老いた祖父しか知らなかった俺も、まさかここまで似ているとは思わなかった。眉や唇の形、髪や瞳の色が本当にソックリだったのだ。

 お蔭で、彼と二人で肖像画の前で長い間佇むことになった。

 そしてその後。彼は祖父の肖像画を数枚借りて母である隣国の王妃様に送っており、不貞疑惑は何とか払拭されたとか。

 ちなみにこれら一連の騒動は俺の仕掛けだ。

 エリノーラの攻略ノートの写しから事情を知っていた俺は、そこが近道だと嘘を吐き、偶然を装って彼をその渡り廊下へ案内した訳である。

 いい仕事したな、俺。

 しかしエリノーラのやつ、もっと順序ってものを踏めよ。

 幾ら商会子息の攻略が上手くいかなかったからって、いきなり突撃するか?


「彼女はその後なんと?」

「驚いた顔で『え?どうして?え?』ってずっと繰り返してたよ。ねぇ、あの子何?君が教えた訳じゃないよね?」

「もちろん俺は何も言ってませんよ。彼女はちょっと変わり者で、美男子(・・・)の悩みを解決するのが趣味な令嬢なんです」

「美男子の悩み……?」

「憂いを帯びた美形を見つけてはその背後関係を調べて解決するのを趣味にしている善良な令嬢です」

「善良なの?」

「………害はないです」


 下心はあるけれど、そのネタで脅すようなことはしない。


「まぁ、あれです。美形を射止めるための努力は惜しまない女性です」

「それって本当に害はないの?」

「……えっと、その……無くはないけど、多分ノーマン殿は大丈夫かと……」


 実害があるのは、彼女に惚れた男とその婚約者だ。

 ノーマンがエリノーラに惚れなければ何の問題もない。


「そう言えば、君の元婚約者と聞いたけど?」

「性格の不一致で婚約は解消しております。今回のようなことが以前にもあったと思って頂ければ……」


 むしろ、宰相子息と騎士団長子息で上手くいったから、あちこちに手を出そうとするんだろうな。

 まぁ、それを俺がことごとく潰している訳だが……。

 今から思えば、宰相子息と騎士団長子息の二人についても邪魔すれば良かったと思う。

 そうすれば、彼ら二人も婚約者と仲良く出来ていただろうし。

 でも、気付いた時には彼女は彼らを攻略済みだった訳である。

 それに俺だって攻略対象の男がフリーなら邪魔はしない。

 だけど何故か、攻略対象の全員に婚約者がいるんだよな、この乙女ゲーム。

 貴族は大体において幼少期から婚約者がいるのが普通だから仕方ないとはいえ、略奪がメインの乙女ゲームって一体……。


「今後、ノーマン殿には近付かないように釘を刺しておきますので、ご安心下さい」

「頼むね。折角男爵子息として楽しく通ってるのに、今更バラされたくないしさ」


 困った顔でそう言ったノーマンは、そのままお茶を一杯だけ飲むと、寮へと帰っていった。

 それを見送り、俺はエリノーラへと今回の件について手紙を送る。

 俺からの手紙は無視される可能性もある為、彼女の父である公爵にも同様の手紙を送り、必ず令嬢本人から返事を貰ってくるようにと言付けて侍従を送り出した。

 数時間後、今後ノーマンには近付かない旨の謝罪が手紙で送られてきた。

 これで、乙女ゲームの攻略対象者に関しては一通り決着が着いた。一安心である。

 後は、卒業までに俺の新しい婚約者を見つけるだけであった。




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「憂いを帯びた美形を見つけてはその背後関係を調べて解決するのを趣味にしている善良な令嬢です」 「善良なの?」 「………害はないです」 「それって本当に害はないの?」 「……えっと、その……無くはない…
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