(4)学園生活開始
ナイトメア魔法学園。
男性8:女性2の割合で構成された魔法の名門学校。
偉大な魔法使いを何百名も卒業させてきたこともあり、王族や貴族の子息もこぞって通っている。
寮は四つあり、花のフィオーレ寮は女子寮、鳥のオルニス寮はスポーツの得意な男性寮、風のビエント寮は頭脳に優れた男性寮、月のトゥングル寮は魔力の高い男性寮となっている。
学年は5学年まであり、16歳から20歳までの生徒が入り乱れているのだ。
そしてメインストーリーの始まりは、現実からこの世界へ転生してしまった主人公がメア(デフォルトネーム)と名乗り、とある教師に拾われこの学園での生活をスタートさせる、というもの。
(今の私の状況と一緒!)
私は心の中でそう呟きながら急いでいた。
校舎内はゲームで見たまんまの作りをしており、西洋のお城のような内装に思わず足を止めて見惚れてしまいそうになる。
しかし私は何とかその誘惑に打ち勝ち、目的の場所へと辿り着く。
「も、モーリスせんせぇ……」
職員室の扉を開け、非常に情けない声で私は一人の男性の元へと足を進めた。
毛先が黒い白髪に、黒色の垂れ目。
真面目で厳格、それでいて生徒愛に溢れているという性格で、メインキャラではないのにも関わらず人気投票で上位に入る彼――モーリス・モノクロイド先生に、私は縋ったのだった。
「な、なんだいきなり。そろそろ次の授業が始まるのにこんな所にいていいのか?」
「せんせぇ……私、先生と出会ってどれぐらい経ちました?」
「一体どうした藪から棒に……」
そう。
この世界に来て路頭に迷いかけた主人公を拾い、この学園に入園させてくれたとある教師こそ、このモーリス先生なのである。だから苗字も貸りている。
そして私が知りたいのは、今メインストーリーでどれぐらいの時期なのかということ。
だから私は真っ先にモーリス先生を頼ったのだ。
「出会ってまだ数日しか経っていないだろう?」
「数日……」
確かに気温から察するに暑すぎもしないし寒すぎもしない……つまり春あたり。
そしてモーリス先生と出会って数日ということは、まだ新学期が始まって間もないということ。
つまりメインストーリーが始まってすぐ……16歳からスタートだということ。
「何かあったのか?」
一人で色々考えて黙りこくっていた私に、モーリス先生は心配そうに訊ねてきた。
私は慌てて弁明する。
「あ、いえ、そんなことないです。ただちょっと日付のチェックだけしておきたくて……」
「そうか。まあいい。何かあれば私に頼りなさい」
「せんせぇ……」
やっぱりモーリス先生は頼りになる。
現実世界からやって来た怪しい主人公を、情けだけで世話をしてくれるだなんて。
メインキャラじゃないのが嘘のようだ。
「いきなりすみません。ありがとうございました」
「ああ。次の授業に遅れないように」
「はい!」
私は一礼し、職員室を後にした。
(そうか……まだメインストーリーが始まったばっかりか。ということはイベントストーリーもまだ来ていない。つまりしばらくは学園生活が中心となる感じかな)
色々とメタなことを考えながら、私は廊下を歩いていた。
本当に色んな生徒が行き来している。
ゲームをしている際はモブとして描かれている彼らも、一人一人顔が付き、一人の人間として活き活きと活動しているのがわかる。
(私……本当に『マジナイ』の世界に来ちゃったんだなぁ)
最後の記憶が正しければ、私がトラックにひかれたことは確定だ。
それでまさか『マジナイ』の世界に来ることになるとは思いも知らなかったが……残業続きのOL生活をあのままやっていくのかと思うと、私はむしろこの『マジナイ』世界で第二の人生を始めたいとすら思えてきた。
(メインストーリーが始まったばかりということは、クライヴを除いてこれからメインキャラたちと出会っていくってことよね。ああ、楽しみだなぁ。とくに推しのネイトと出会えるのかと思うと、今から胸が高鳴る~!)
「ちょっとメア!」
と、一人これからのことにワクワクしていた私の耳に、まろやかながらも意志の強そうな声で名前を呼ばれた。
私がそちらへ振り返ると、そこには一人の女子学生が。
フワフワのクルミ色の茶色い長髪に、甘いチェリーピンクの大きな瞳。
特注なのか、制服には所々フリルがあしらってあり、それがよく似合っている。
彼女の名はアイネ・ハーティア。
私と同じ寮部屋の子で、いわゆるお助けキャラである。
まさかの人物の登場に、私はあわあわと慌てた。
「あ、ああ、アイネ……!」
「何をそんなに驚いてるのよ。早く教室に入らないと遅刻扱いになるわよ」
ツンッとした表情でアイネはそう言うものの、それはつまり私のことを待っていてくれたということである。
(さ、さすがツンデレお嬢様アイネ! お助けキャラにも関わらず、女性ユーザーからの人気が高いのも頷ける……!)
というかリアルで見るアイネがあまりにも可愛くて、私は思わずデレデレとした表情になってしまう。
しかもツンデレだ。そんなのご褒美でしかない。
「待っていてくれてありがとう、アイネ」
「べ、べつに待ってたわけじゃ……早く行くわよ!」
ツンデレのテンプレみたいなセリフを吐いて、アイネは私の手を握るとずんずんと進んでいく。
実際にゲームを進めていく時も、最初は頼れる人がモーリス先生以外におらず、不安になるのだ。そんなプレイヤーを導いてくれるのが、このアイネである。
最初は嫌味なお嬢様かと思いきや、意外と世話焼きで、庶民のことに興味があるというていでメアに何かと構ってくれるようになる。
(メインストーリーでもアイネの役回りは重要になってくるから邪魔しないようにしなきゃ)
私はデレデレとした顔でアイネに引っ張られながら、授業のある教室へと入るのだった。
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