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11『近況報告』

『樹介くんへ

 送ってくれた写真見たよ! 本当に可愛いねぇ。目がぱっちりで、髪の毛も真っ直ぐさらさらに見える! 肌もつやつやで、ほっぺをぷにぷにしたくなっちゃった。樹介くんが真央ちゃんのことをずっと見ていたくなる気持ち分かる気がする。私はもう真央ちゃんのファンだよ! 早く会いたいなぁ。


 私は今でもバイトをしてるよ。お母さんの保険で生活は少し楽になったけど、家の税金や生活費に当てるとやっぱりね……。お金は減り続ける一方だし、少しでも足しになればいいなと思ってる。

 そんな私の状況を察してくれたのか、近所のご飯屋さんは時給を千円にあげてくれたの。たくさんお客さんが来るわけじゃないから、少しだけ申し訳なくて。でも「いつも頑張ってくれてるから」って言ってもらえて、なんだかそれが嬉しくてさ。私の頑張りを見ててくれる人はいるんだなぁって。

 もちろん友達もそうなんだけど、こういう風に言ってもらえるともっと頑張らなくちゃなって気持ちになるね。


 この前、お父さんと一緒に病院に行ってきたの。ずっと塞ぎ込んでて、一日中布団を被ってる日が多くなっちゃってさ。

 どこに行けばいいか分からなかったんだけど、担任の先生に聞いたりして、精神科に行ってきた。精神科の先生は「お父さんはうつ病を患ってますね」って教えてくれた。きっとお母さんが死んじゃったから、精神的に参っちゃったんだろうね。

 お父さんは本当にお母さんのことが大好きだったから。そんな大切な人がいなくなっちゃったら、私だってお父さんみたいになるだろうなと思う。うつ病の治療はお薬でするんだって。毎日処方された薬を飲んで、定期的にカウンセラーの人と話した方がいいって先生が言ってた。

 カウンセリングを受けつつ、お父さんが話したいときは私が聞いてあげようと思う。毎日部屋にいるから声を出すのも億劫なのかなって思ったんだけど、私とは会話してくれるんだよね。もちろんお母さんがいたときとは全然違うけど。

 お母さん方のおばあちゃんがたまに来てくれるんだけど、おばあちゃんとは話さないんだよね。もしかしたら苦手なのかもしれないなって思う。お母さんのお母さんだし、会いにくいのかも。だから、なるべく来ないでって言ったの。私は大丈夫だし、お父さんも一生懸命頑張ってるからって。

 おばあちゃんは優しいから「何かあったら連絡してね」とだけ言って、それから殆ど来なくなっちゃった。ばあちゃんのことは大好きだけど、こればっかりは仕方ないよね。いつか元気になったお父さんと一緒に、おばあちゃんの家に遊びに行こうと思う!

 そこでお母さんの話なんかできたら素敵だよね!』




『木代花ちゃんへ

 真央ちゃん可愛いでしょ! 写真でも十分可愛いんだけど、僕の横にいる真央ちゃんはもっともーっと可愛いんだよ! 早く会ってほしいなぁ。


 木代花ちゃんお誕生日おめでとう! 今年はかなり遅れちゃった。本当にごめん! 試合の結果も一緒に報告しようと思ってたら、もうすぐ十一月になっちゃうね。

 この季節は僕と木代花ちゃんの誕生日だから、少し寒いけど心は温かいんだ! 離れていても、この日だけは繋がっているみたいな感覚になるよ。ずっと会えてなくても、文通をしてることで年に何回も会えてる気分になる。これは本当に木代花ちゃんのおかげ。ありがとう。

 それと、木代花ちゃんが大変なときに傍に居られなかったこと、本当に後悔してる。ごめんね。


 僕は今年、新人戦に出ることが出来たんだ! 今年やっとだよ。もう待ちくたびれちゃった。まぁ二年生だし、出てもおかしくはないかなぁとは思ってたんだけどね。先生から名前を呼ばれたとき、嬉しくて泣きそうになった。でも、この涙は優勝したときに取っておこうって、そう思ったんだ。

 ホームランをたくさん打って、速いボールをたくさん投げて、今年こそは勝つぞって気合入れてたんだ。

 でも三回戦で負けちゃった。一点差だったんだよ! 僕悔しくてさ。だって、今年はちゃんとバットにボールが当たったし、ピッチャーのときも相手から三振取ったし。今までの僕からしたらビックリするぐらい成長したの。だけど負けちゃった。どんなに頑張っても負けるときは負けちゃうんだね……。

 全国行きたかったなぁ。だけど、チャンスが無くなっちゃったわけじゃないんだよ! 来年は総体があるんだ。来年こそ絶対全国に行ってみせる!


 新人戦の後に定期テストがあったんだけど、ちょっと点数が悪くってさ。お母さんに見せたら「下がりすぎじゃない?」って言われちゃった。試合が近かったから、家に帰っても勉強してなかったんだよね。それがテストに出ちゃって「あーあ」って感じ。

 お父さんに「塾行ったら?」って言われたから、僕は塾デビューを決めたんだ! 初めて塾に行ったら、なんか学校みたいでわくわくしたんだけど、学校が終わってまた学校かよって思ったら気分が下がっちゃう。でも成績が悪くなっちゃったからしょうがないよね。頑張って成績上げるぞ!

 あ、塾の中のクラスは真ん中のクラスになったよ。一番上のクラスの方が良かったんだけどなぁ。クラスを上げることも目標にするね!』




『木代花ちゃんへ

 夏だね! 暑いね! 僕は今夏休み中だよ! 冷房がないと溶けちゃいそうなぐらい暑いよね。そんな中でも真央ちゃんは僕より元気で、夏バテせずに毎日たくさんご飯を食べてるよ!

 

 ついこの前中学校に入学したのに、気づいたら最高学年になってたよ。制服もなんだか小さくなってきちゃって、僕は成長してるんだなって思う。身長はクラスで後ろから二番目なんだ! 入学したときは真ん中だったのに、いつの間にか高くなっちゃった。

 木代花ちゃんに会ったとき、僕だって分かってもらえないんじゃないかって少しだけ怖くなった。でも、逆にビックリしてもらえるのかなって考えたらわくわくするよね。木代花ちゃんも美人さんになってるんだろうなぁ。会える日がもっと待ち遠しくなってきちゃった。


 一学期に総体があって、今年も試合に出させてもらえたんだ! 新人戦は負けちゃったから、今年こそってみんな気合入れて練習を毎日頑張ったんだ!正直本当にキツくて、今すぐ辞めたいって何度も思ったよ。でも、やっぱり僕は野球が好きなんだよね。とっくの昔に野球の虜だったんだ。

辞めなさいって言われたとしても、僕は絶対に辞めない自信があるね。それぐらい好き!

 結果的に、試合は一回戦敗退。僕の家族も後輩も、クラスメイトだって応援してくれたんだけどね。こんな結果で本当に申し訳ないよ。途中まではいい勝負で、いける! って思ったんだけど、九回表でホームラン打たれちゃってさ。そこから巻き返すことはできなかった。

 ホームラン打たれちゃったら、もうどうしようもなくって。悔しかったけど、あのホームランは圧巻だった! 気持ちいいくらい高く上がったんだよ! おもわず「わぁぁぁ」って言っちゃった。相手のチームには全国行ってほしいなぁ。


 今年も全国に行くっていう夢は叶わなかった! 僕はもう行けないんじゃないかって思うけど、ここで諦めたら何も叶わないからね!だから僕はこれからも言い続けるよ。僕は絶対に全国に行ってみせる! まだ高校の三年間が残ってるし、高校でもダメだったら大学があるし!

 でもまずは高校だね。全国に行くためには強い学校に進学しないといけないから、受験勉強も頑張らないと。真央ちゃんが「お兄ちゃん悲しいねぇ。真央ちゃんがよしよししてあげる」って言って僕の頭を撫でてくれたんだよ!僕はその言葉だけで十分なぐらい胸がいっぱいになって、思わず真央ちゃんを抱きしめちゃった。

 真央ちゃんのおかげで元気も出たし、全てのテストで満点を取れるぐらい頑張るよ!それが応援してくれたみんなへの恩返しかなって。何も返してあげることが出来ないけど、せめて強い高校には進学したい。そうしたらみんな喜んでくれると思うんだよね。僕はみんなの喜ぶ顔が大好きだし、そのためなら一二〇パーセントの力が出せるはず。

 自分のこと過信しすぎかな?でも、自分の可能性は自分が一番信じてあげないとダメだと思うんだよね。その気持ちが強ければ強いほど、夢が叶う確率だって上がるんじゃない? どれだけ神様がイタズラをしてきても、思いの強い方が勝つ気がする! 木代花ちゃんも神様に負けないぐらい自分を信じてほしいな!

 もちろん、僕はそれ以上に木代花ちゃんのことを想ってるけどね』




『樹介くんへ

 そろそろ入試本番が近づいてきたね。私は正直合格できるか不安。公立高校じゃないといけないから、絶対に失敗はできないの。みんなは併願したり推薦もらったりで、私の何倍も可能性があるんじゃないかって羨ましく思っちゃう。

 それでも私は、今出来る全てのことをして絶対に合格を勝ち取るよ! 樹介くんの手紙を読んで、私も私の可能性を信じることにした。やれば出来るんだぞって、私は私に証明したい。それに、樹介くんが想ってくれてるって思ったらすごく心強くて、今だったら何でも出来ちゃうんじゃないかって思うの!

 私たちまだ中学生だからね。なんだって出来るんだって信じないとね!


 最近、ふと思い立って家で習字をやってみたんだ。授業以外でやるのは久々で、少しだけ緊張しちゃった。いつもはしないんだけど、今回は墨をすって作るところから始めたんだ!

 なんか心が無になるっていうか、自分好みの濃さに調節できるのって楽しいよね。固い墨と硯の擦れる音が心地よくて、ずっと聞いていたくなっちゃった。筆に墨をつけて半紙に書くときの気持ちよさ、樹介くんにも体験してほしい! じわっと墨が滲んでいくのも芸術だよ!

 でもね、思った以上に下手で笑っちゃった。私ってこんなに字が下手だっけ? もっと上手だと思ったんだけどなぁ。だけど、これも私らしくて良いのかもしれないね。これからも時々やろうと思う!


 お父さんはあれからも定期的に通院してるよ。カウンセラーさんと話す頻度も結構多くて、家から出れないときは電話でお話してるみたい。私が帰ってくると、嬉しそうに会話内容を教えてくれるの。お母さんが亡くなってから一年経って、本当に少しずつだけどお父さんの症状は良くなってきてる。それでも、稀に部屋に引きこもっちゃうときがあって。そういうときはそっとしておいてる。私だって誰とも話したくないときぐらいあるからね。お父さんのバランスの取り方を私が邪魔するのも違うし。

 あ、そうそう。この前バイトが早く終わった日にね、家に帰ったらお父さんが玄関まで来て「おかえり」って言ってくれたの。おかえりなんて言われたの久々で、それだけで泣きそうになっちゃったのに、夜ご飯まで作っておいてくれたんだよ! すごくない?

 私が「どうしたの?」って聞いたら、「先生にやりたいことはどんどんやってみな」って言われたらしいの。それで料理してみたんだって。ミートパスタだったんだけど、今まで食べた中で一番美味しくて、私食べながら泣いちゃった。だって帰ったらご飯があるなんて思わないじゃん!

 それに、お父さん笑ってたの。私の食べる姿を見て、「よかった!」って。お父さんの笑顔なんていつ振りだろう。私はこれを見るために頑張ってたんだなって。笑顔のおかげで疲れなんて吹っ飛んじゃった! 頑張ってよかったなぁ。


 先週、クラスメイトの秀一くんから告白されちゃってさ。正直告白なんて初めてされたからどうすればいいのか分からなくて。そもそも秀一くんのことはクラスメイトとしか見てなかったから、困惑したっていうか。

 でも勇気を出して告白してくれたんだからちゃんと答えないとって思って、考えるために数日貰ったの。私は秀一くんと付き合えるのかな? とか、好きになれるのかな? とか。

 だけどどれだけ考えてもそういう関係になった未来が想像できなくて。もちろん良い人だし、優しいから迷ったよ。付き合ったら好きになるんじゃないかって。仮に付き合ったとして、放課後も休日も遊ぶどころか会うことすら厳しいんだよね。それじゃあ申し訳ないなって思って、昨日断って来た。

 秀一くんは残念そうにしてたけど、「私を好きになってくれてありがとう」って伝えたら「俺はこれからも好きでいていい?」って言ってくれた。私のことを好きでいてくれる人がいるんだって思ったら、なんか嬉しくなっちゃった。

 私は「応えられないけど、それでもよかったら」って伝えた。少し酷かったかな? だって、私は秀一くんのことを好きになることはないなってそのとき思ったの。



 告白されて気づいたんだけど、私、樹介くんのことが好き』





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