フレンド
ミリは今日も幼稚園に向かう。息子であるユウタロウのお迎えの時間だからだ。
しかし道の角を曲がる瞬間、彼女は咄嗟に立ち止まり、踵を引いて身を隠した。
(ワコちゃんのおばあちゃんに捕まると長くなる)
そう思い、反対側の道からゆっくり歩いた。
昨日のことであった。
「セラちゃんがほぼ毎日のように家に遊びに来ているのよ。セラちゃんのお母さん、あまり言葉が通じなくて……、ユウタロウくんのお母さんからちょっと言ってくれないかしら。毎日は私もちょっと疲れるから、たまに来て欲しいなと思って」
セラ自身に言えば通じるだろうに、と思ったが。
「あ、そうですか。言ってみます」
「言葉が通じないんじゃねぇ」
ワコのおばあちゃんはこう言って帰って行った。
そこでミリは、セラの手を引く母親に話しかけた。
「ワコちゃんのおばあちゃんがそんな風に言ってたけど」
「うん。でも、セラはワコちゃんと毎日会いたいって言うの。セラはワコちゃんが特別なフレンドだと言って聞かないのよ」
「じゃあ、どうしようもないのね」
「いくら言い聞かせてもダメよ」
「そう」
ミリは大学留学のために日本に来てから十年後、同じ会社で知り合った人と結婚して東京に住んでいる。
一方、セラの母親は夫が日本で働く韓国人で、韓国から来たばかり。日本語があまり上手くなかった。
ワコの母親はキャビンアテンダントとして国際線で働いている。仕事中は、おばあちゃんがワコの面倒を見ていた。
しばらく静かな時が過ぎ、3月3日のことだった。
ミリがユウタロウを迎えに行った帰り道に、一つの群れが出来ていた。同じ組の女子、約12人の群れだった。
その先頭にはワコのおばあちゃんが立ち、子どもたちを引率して歩いていた。
全員を家に招いて、おひな祭りをするらしい。
もちろん、おばあちゃんのすぐ後ろには、セラとワコが手を繋いで歩いていた。
その後、ユウタロウも幼稚園を卒業して小学校に行ったが、この二人と同じ学校になることはなかった。
周りには小学校が何校かあって、選んで入ることが出来るからである。
またそれから十二年が過ぎ、ミリはバス停でセラの母親にばったり会った。
セラはアメリカへ行って、英語を学んでいると言った。
ミリはみんな大きく成長したんだなと思った。
「ユウタロウくんも大学でしょう」
「うん、行ってるよ」
「私は仕事しているのよ」
彼女は明るく、普通に話した。
二人は同じバスに乗って、別の場所で降りた。




