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6 上書

 幸い、私は上手くセーラ様を演じられている様で、レオニード殿下は、「お前はセーラじゃない」と否定して来る様な事は無かった。


 ハティさんが、私が耐えられなくなると予測した半年を越え、1年を越え、私はセーラ様を演じ続けた。そこまでくると流石に現状にも慣れてくる。それに、レオニード殿下への情だってますます湧いてくる。


 私の事をただの代用品としてではなく、ちゃんと私個人を見てくれる、優しい皇子様に見えてきた。と、いうより、元々の私の人格は完全に崩壊して、新しくセーラ様のそれに上書きされてきたのだろう。


 レオニード殿下と夜を共にする時も、レオニード殿下が喜んでくれる様に行動したし、実際喜んでくれた様に見えた。そんな日は決まってこう言われるのだ。「セーラ、愛している」と。それでこれ以上ないくらい幸せを感じてしまう。


 レオニード殿下が喜んでくれるなら、私は何でもしようと思えた。もはや、自分が元々、なんて名前だったかすら忘てしまっている。アマビコだっけ? アマビエだったっけか? まぁ良いか、どうでも。


「セーラ。少し話がある。ついてきてくれ」


 ある朝、レオニード殿下はそう言った。いつもの様な優しい顔では無く、真剣そうな面持ちで私を呼んだ。その雰囲気に私は、思わず、恐怖を感じた。


 1年間生活を共にして、この人が、美しい顔に似合わず、かなりおっかない人であるという事が分かっていたからだ。


「はい」


 私は、従順にそれに従った。今から行われるであろう会話の内容が、良いものでは無いという事は確信していた。


 連れていかれた先はレオニード殿下の寝室だった。レオニード殿下は私をベッドに座らせると、自分はその隣に座った。


「セーラ……いや、アマーリエ」


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 ……誰だ。アマーリエって。


 私はセーラ。私の名はセーラの筈だ。


「何を言っているのですか、レオニード殿下。私はセーラですよ……?」


「あぁ……そうだったな。セーラ」


 失敗したという顔をしているレオニード殿下。困っている顔も美しい。好き。


 同時に、この人が、邪神の如き本性を持っている事も、私は知っている。


 この1年の間、色々な事があった。


 まず、レオニード殿下の弟君が亡くなった。腹違いの、露骨に皇位を狙っている方だった。事故であっさりと、死んだ。レオニード殿下は弟君の死に心を痛めたふりをしていたが、私は知っている。


 黒幕は、彼だ。


 レオニード殿下は喜んで弟殺しを実行したのだ。


 他にも、公爵閣下も亡くなった。こちらは宴の後、帰り道で突然、心臓発作で亡くなられた。こちらも、王族の一門で、色々と王家の後継や政治について口を出す方だった。


 こちらも、黒幕はレオニード殿下だと思う。前に、執務をお手伝いしている時、フグの毒と、トリカブトの毒がそれぞれ入った小瓶を偶然、レオニード殿下の机から見つけた事がある。


 以前、勉強した内容に、フグの毒とトリカブトの毒をある調合で混ぜると、摂取から時間をおいて効果が出る毒を作り出せる、という話を聞いた事がある。彼は、それを使って公爵を粛清したのではないか。他にも不審な死を遂げたり、粛清された貴族が何人かいる。間違いなく、レオニード殿下はそれに関わっている。






























 ……あぁ、レオニード殿下。何てかっこいいんだろう。


 どうやら私は彼のカリスマに完全にあてられてしまったらしい。


 躊躇いなく平然と人を殺せる。しかも、自分が手を下す事なく、裏で手を回して人を殺す。実に王族らしい。この国は安泰だ。

 

 この胸の高鳴りを誰にも伝えられないのが残念でならない。


「レオニード殿下? どうされましたか?」


 心の中でハァハァと息を荒げつつ、あくまで私は上品に、首を傾げた。


「今から言う事は冗談ではない」


「……はい」


「良いか? 1度しか言わないからな?」


「……分かりましたわ。それでレオニード殿下、お話とは?」


「…………その……だ……」


 中々言葉の続きが来ない。そんなレオニード殿下もかっこいいのだが……あれ? 顔が青いような……?  緊張してるのかな? かわいいなぁ! もっと見たいなぁ! 好き!!!!


「シュヴァルツ候爵を粛清する事にした」


「は、はぁ……」


「彼は皇帝の血族ではないにも関わらず、中央の政治に口を出しすぎだ。娘であるお前が私のお気に入りだからと、調子に乗りすぎた」


「そう、ですか……」


 なるほど。確かにあの侯爵は調子に乗りすぎた。最近は正室の娘を送り込み、それを王妃にしよう! なんて放言しているらしい。


 退場が決定するのも当然だ。それに、その娘も性格が良くない女だと知っている。


 あれ? 面識もないのに、私は何故彼女の性格を知っているのだろう?


「それにお前はあの候爵の娘が嫌いだと言っていたろう?」


 そう言えばそうだった気がする。別にあの人と面識なんてない。私はセーラなんだから。でも、前にレオニード殿下から彼女の話を聞かされたら、何故か嫌な気分になったので嫌う事にした思い出がある。


 それはさておき、次に聞くべき質問は決まっていた。


「それで……今度はどうなさるおつもりですの?」


「彼を抹殺する」


「やはり……ですか」


 まあ、今まで通り、この国の暗部担当の家……確か、ナイトホーク家とか言ったか。彼らに任せれば大丈夫だろう。


「腐っても、候はお前の父だ。今まで通りというのは、色々と問題がある。……大変心苦しいが、お前とは別れようと思っている」


「!?」


「安心しろ。お前は今までよく尽くしてくれた。然るべき者に、引き合わせよう」


「レオニード殿下……」


 私の声が震える。それは、捨てられる恐怖か?  それとも、愛しい人と離れなくてはならない悲しみからだろうか? それとも両方が混ざりあって混沌としているのだろうか? 分からない。何故? 何故、レオニード殿下と離れねばならないのだ? 私はセーラだ。セーラなのに。


 レオニード殿下の事が、こんなに好きなのに。


「今まで……本当にありがとう。さようなら、アマーリエ」


 そう言って、レオニード殿下は私に口づけをした。私はされるがままになっていた。


 ……このままでは、いけない。


 このままでは、レオニード殿下に捨てられる。


 嫌だ! 


 嫌だ!


 嫌だ!


 私は、口を離そうとしたレオニード殿下を抱き寄せると、そのままベッドに押し倒した。


 レオニード殿下に、分からせなければならない。私が、セーラなのだという事を。


 レオニード殿下は驚いた顔でこちらを見ている。私が積極的になった所など見た事が無いからか、彼は明らかに混乱しているようだった。そのまま私は、彼を押さえつける。これでレオニード殿下には私の想いが伝わるだろう。


「レオニード殿下、おかしな事をいいますわね。私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです、私はセーラです」


「アマーリエ……いや、セーラ?」


「私、レオニード殿下を愛してますわ。狂おしい程に。私はアマーリエなんて名前ではありませんわ」


「……そうか……そうだな……」


「私、レオニード殿下の為ならなんでも出来ますわ。……こうしましょう。私セーラは、そのアマーリエさんというお方に似ているのでしょう? シュヴァルツ候爵にお目見えして、不意をついて討ち取ってご覧にいれますわ」


「それは……」


「その代わりに、見事候爵の首を持ち帰ってきた暁には、私をもう2度と捨てるなどおっしゃらないで下さい」 


「……」


「私、レオニード殿下の事が大好きなのです。どうか、御一考下さいませ」


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