5 改造
それからというもの、レオニード殿下の指示の下、私の改造が始まった。
最初の1日目は、城の中を案内されながら、セーラ様との差異を指摘されるだけだった。レオニード殿下から特に悪い点を指摘されたりはしなかったが、良い点も全く無いとの事だった。
2日目、3日目も、セーラ様の仕草のコピー。引き続き指摘の嵐だった。曰く、「歩き方がぎこちない」だの「鞄の開け方が違う」だの……延々と続く。褒められる事など殆ど無いに等しく、ひたすら怒られるばかりだった。
4日目から5日目になってようやく、「まぁまぁ似てきてはいる」とお褒めの言葉を頂いた。
6日目も仕草のコピー。珍しく、怒られる事無く、褒めて貰えた。人格の破壊と再生という、客観的に見て酷い事をされているのだが、なまじレオニード殿下の外見が良い為か、私はちょっと、嬉しい気分になってた。そういえば、あのクソ実家では、まともに褒められた事など無かった気がする。
7日目からは、セーラ様のコピーを続けながら、少しずつ、勉強も始めた。レオニード殿下曰く、こうする事でセーラ様の仕草を真似しながら、同時に一般常識も覚えてほしいという事らしい。
「見てくれだけの人形はいらない。アマビエ、お前には本物の貴族令嬢のセーラになってもらう」
レオニード殿下はそう言って、私に対して発破をかけた。勉強は楽しかったし、それなりに努力もしたので、めきめきと賢くなっていった。それが意外だったのか、レオニード殿下やハティさんは、少し驚いていた。
「大体のスペア品だと、この辺りで音を上げて、更に人格まで腐っていると、城の貴重品や男に手を出したりするんだが、中々やるじゃないか」
「わたくしに、他に行く場所などありませんもの。ここを追い出されては困りますから」
「……ところで、お前宛に、父君からの手紙が来ているが、読むか?」
レオニード殿下は、私の実家の紋章入りの封筒を手に持っていた。
「必要ありませんわ」
私はあっさりと言う。どうせ、中身は王家の内情をスパイせよ、とか、金を送れだとか、ろくでも無い内容に決まっている。読むだけ時間の無駄だ。
「寂しくは無いのか?」
「わたくしはシュヴァルツ家など知りません。わたくしはセーラですよ?」
私の答えに満足したのか、レオニード殿下は封筒を持って、どこかに行ってしまった。今のは、正解の答えで良かったのよね?
8日目になると、城の中にも少しずつ出入り出来る様になった。一応私の扱いとしては客人扱いなので、無下にされる事は無かった。
そして9日目以降はセーラ様のコピーと並行して、ダンスやマナーレッスンが始まった。これも最初は酷い有様だったが、レオニード殿下やハティさんに指導を受けて、少しずつ上達していった。
***
そして少し時間が飛んで1ヵ月目。ダンスやセーラとしての生に慣れてきた辺りで、ついに夜伽。
自分の名前を一切呼ばれず、セーラ、セーラと求められるのは、私は所詮代用品なのだと改めて分からされている様で惨めになった。これが一番しんどかった。初めから、レオニード殿下の事は、私がクソ実家から逃げる為の鍵としか思っていなかった私も、似たようなものだが。
……それにしても、この胸の痛みはなんだろう。
レオニード殿下に情が湧いているのだと自覚したのは、それから半年ほどたった後だ。流石に、何度も何度も、あの人と肌を重ねていると。嫌でも自分の気持ちに向き合わなくてはならなくなってしまう。
……全く、私が、男の人に惚れてしまうとは。
そう、自嘲しつつも、レオニード殿下が見ているのは、アマービエ・シュヴァルツではなく、セーラ様なのだと思うと、とてつもなく苦しくなってしまう。まったく、面倒くさい女だ。我ながらそう思う。
あれ……?私の名前って、アマービエだったっけ? アマビエ? アマショウグン? 何故だろう。自分の名前なのに思い出せない。