2 殿下
果たして、その日はやってきた。
胸元が大きく開き、少しズレれば、隠しておかねばならない部分が見えてしまう上着。少し足を開けば下着が見えてしまうミニスカートという、扇情的な衣服に身を包んで、私達姉妹は、視察に来た皇子に、夜、謁見した。
「娘達です」
馬鹿親父が平伏しながら、私達を紹介する。
「レオニード殿下、本日はお目通り叶い、恐悦至極に存じます」
他の姉妹達と一緒に、私も平伏する。
「うむ。大義である。表を上げよ」
顔を上げた先には、つまらなそうな顔をした青年がいた。
年のころは私と同じくらい。
金髪金眼、長身で引き締まった身体。そしてワイルドさを感じる髭。整った顔立ちをしているが、どこか油断できない雰囲気を感じた。
「して、レオニード殿下……本日は娘達に殿下の接待を命じておりましてな……。よろしければ、楽しんでいただければ……」
「侯爵閣下」
馬鹿親父の言葉を遮ったのは、レオニード殿下の脇で控えていた女性だった。
レオニード殿下よりも少し年下くらい。護衛騎士なのか、金色の髪をショートヘアにした、鎧を着た美しい女性が、皇子の前に立つ。確か名前はハティとか言ったか。先程、レオニード殿下がそう呼んでいた。あまり感情を見せない冷静な声色で、彼女は口を開いた。
「こういうのは、困ります」
私達の格好を見て、彼女は何かを察したようで、冷ややかな視線を私達に向ける。
「娘達も今日の為、準備してきたのです。どうか彼女達に恥をかかせないでやってください……」
「レオニード殿下は、今日はあくまで視察に来たのです。あなたの接待を受ける為に来たのではありません」
馬鹿親父と、しばらく応酬するハティさん。そんな彼女達を尻目に、レオニード殿下は私達を憐れむ様な、軽蔑する様な、そんな視線を向けてきた。
侮蔑のこもったレオニード殿下の視線に射抜かれて、私は何も言えなかった。そして同時に理解してしまった。
『あぁ……駄目か……』ダメ元ではあったが、こうも見事に断られるとは思っていなかった。断るとは言っていないが、あの目はそういう目だ。
こうなると、途端に自分が惨めに思えてくる。こんな頭の悪そうな格好をして、媚びる様な視線を送って。私は何をしているんだろう。
「貴殿の気持ちは分かったが、だがな……」
馬鹿親父へ何かを言いかけていたが、皇子の言葉が続く事は無かった。次の瞬間、私と彼の目が合った。
「……」
レオニード殿下は、私を食い入る様に見つめる。
……あ、あれ? これは、脈アリか? 何となく私へ向ける視線がねっとりしていた気がする。
「そこのピンク髪」
突然、レオニード殿下が私の事を呼んだ。姉妹の中でピンク髪は私しかいない。
「は、はい!」
思わず声が上ずる。ひょっとして、本当に脈アリか?
「お前と話がしたい。この後、寝室へ来い」
私は有頂天になった。どうやら彼は私の事を気に入ってくれたらしい! だが、なんだろう? この違和感は……何か引っかかるっていうか……まぁいい! このクソみたいな地から逃れられるかの瀬戸際なのだ。このチャンス、逃すものか。
小躍りしたくなる気持ちを抑えながら、私は平伏した。
「光栄でございます。レオニード殿下」
「殿下!」
ハティさんが諌める様に言う。だが、皇子はそれを無視して、私へ向き直る。
「良いな?」
「はい! もちろんでございます!」
レオニード殿下が席を立って去って行くのを見届けながら、私は内心でほくそ笑んだ。さて、これで第一段階はクリアしたと言えよう。後は寝室で色々やって……こちらは生娘だが、今夜はたっぷりサービスしてやろうじゃないか!