1 転回
唐突に闇深い話を書きたくなりました。いつも以上に悪趣味な展開、設定マシマシですので自己責任で閲覧お願いします。
【あらすじ 媚びを→媚を、気に入られれて→気に入られて】 よくある話。
とある侯爵がいた。彼は好色家として知られていて、妻の他に、多くの女性に手を出していた。
貴族令嬢から、メイドや遊女にいたるまで一通りの身分の女は抱いたが、特に好んだのは、敗北した政敵の娘であった。
まったく悪趣味な話。
暗闘の末、政争に勝利した侯爵は、和解の条件として、彼らの娘達を人質兼妾として差し出させた。
無論、まともな扱いなどされるわけがない。それは、候爵が彼女達を徹底的に凌辱し、屈服させ、どちらが勝利者かというのを、彼女達の家族に見せつける為の嫌がらせだった。
何人か、こうした侯爵の悪趣味な性癖の犠牲になった娘はいたが、私、アマーリエ・シュヴァルツの母もそうした『敗者』側の人間だった。
何度も何度も、候に凌辱されるうち、彼女は私を妊娠した。
出産後、生まれた私を世話しているうちに、母親は絶望と育児の疲労のあまり鬱になり、衝動的に首をくくったらしい。気の毒な事だ。
母の顔など覚えていないが、とりあえず、私を生むまで自死を実行しなかったのは、理性の勝利だといえよう。
ま、それはいい。
問題は、そうした不憫な女性達から生まれた、私達きょうだい達が、例外なく、悪い待遇を受けているという事だろう。
いや、理屈としては分かる。側室と言っても、殆ど奴隷の様な扱いの女から生まれた子が、まともに扱われるわけがない。理屈では分かるが、納得は出来ない。
母と私達が受けた仕打ちの不条理と、母の絶望を思うと、やりきれない気持ちになってくる。
私には同じ様な境遇の姉妹がいる。私のきょうだい達は皆女で、馬鹿親父は「人質や政略結婚に使える! 」と、喜んでいた。あれには間違いなく、人の心が無い。
その異母姉妹達も皆揃って性格が悪く、母のいない私は、いつもいじめられていた。
私はそろそろ限界だ。いいかげん、ボロい離れに、幽閉同然に、いじわるな血の繋がらぬ母親達ともども姉妹で入れられ、父や正室の娘や侍女達、更には同じ様な境遇の異母姉妹達に媚びへつらいつつ、きつい労働に従事させられたり、固いパンを食べる生活にはうんざりしてきている。
「……」
1日の労働を終え、粗末な食事を終えて、私は窓から見える星空を眺めながら、このクソみたいな環境から逃げる方法を考える。
この離れは、住み心地はお世辞にも良いとは言えないが、この窓から見える星空だけは好きだった。
逃げ出すだけなら、すぐに出来る。だが、後ろ盾が何もない少女が、1人でこの世界で生きていく事は、とても難しい事も理解している。良くて場末の娼婦にでもなるか、最悪のたれ死ぬのがオチだろう。
1つだけ、アテがあった。
近々、この地に、この国、カタスト帝国の第1皇子、レオニード様が視察にやってくる。私達姉妹には、当日、彼の『接待』が命じられていた。
この日の為、色々ときわどい服が支給されている事から分かる様に、接待というのは……まぁ、『そういう事』である。
姉妹皆で、そういう服を着せられて、皇子に媚びへつらって腰を振って……。考えただけで反吐が出る。
だが、もしここで皇子に気に入られれば……。正室は夢のまた夢にしても、愛人ぐらいにはなれるかもしれない。
「……やってやる」
決意を新たにする。
皇子に気に入られて、私はこのクソみたいな環境から逃げ出すのだ。
「待っていて下さいね……皇子様」
自慢では無いが、これでも容姿には自信がある。ショートヘアの美しいピンクブロンドの髪に、髪と同じ色の瞳。豊満では無いが、出る所は出て、締まった所は締まった肉体……。別に、娼婦の真似事をしたって構わない。とにかく皇子を籠絡してしまえば……。