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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

「Whoever knows?」

作者: 舵輪

市場の喧騒と雑踏。

ここは23XX年の日本。世界は荒廃し、日本にもスラム街ができている。

関東平野は砂漠化が進み、重要な都市から一歩出ればそこは不毛な地である。

ここはその昔から「新宿」と呼ばれている。

時代の変遷と共に、先進国だった日本の文明レベルは後進国ほどまで落ち、なんとかレベルを上げようと各地に様々な会社が管理する「発展的文明モデル都市」と言うものを国が作った。

人々の理想を集めたと言われるユートピアを体現したような街だ。

車や電車、バスは空を飛び、広告もホログラムで空中に投影されるほどだ。

ただ、その技術はスラムの一回り下のランクの繁華街にも使われているのだが。

東京都庁周辺の新宿南部の一部分もそのモデル都市に選ばれているため、電脳的で白を基調とした都市が展開される。

しかしその外に出れば、スラム街や昔の映画「ブレードランナー」に出てくるようなネオンのピカピカ光る繁華街といった所謂ディストピアのような光景が広がっている。

新宿のスラム街の闇市である「ノミのイチ」と呼ばれる日本最大の市場は今日も賑わっている。

南米系の血を継ぐ日本人青年のショウタ・プラッツはこの騒がしい市場を歩いていた。号外を配る少年から1部貰うと、一面には大きくこう書いてあった。

《プラッツコーポレーションの新興企業『プラッツインダストリー』、起業から3日で上場!》

だがショウタはその面を読むのもそこそこに次の面へと目を向けた。だが、


「特に面白い話じゃねえな。」


そんなことを言いながら、彼は今日の用事を済ませに向かった。


◆◆◆


---プラッツコーポレーション本社


「例の試作品は用意できたのか?」


「はい、社長。少し準備すれば稼働はいつでもできます。」


「そうか。ではこのプロジェクトもそろそろ大詰めか。」


「ええ、ですが量産には少し時間がかかりますので…」


「分かっている。まずは一体からだ。」


「はい。それでは準備させておきます。」


◆◆◆


空は夕陽で橙に染まっている。

繁華街のネオンも光り始め、もうそろそろ夜の街が動き始めようという時分である。

光が灯りはじめる繁華街を抜け、家に向かって歩いていく。


「いやぁー、随分遅くなっちまったな。」


予定が思ったより長引いたのである。

ここまで遅くなるとは予想していなかったので、タクシーも頼んでいない。

歩きながら夕飯を何にするか考えていた。

刹那、赤い光が眼前を掠める。


「うわっ!目が、見えねえ!」


視界を奪われるも、無骨な機械音が迫ってきている事だけは感じ取れる。

このままでは死ぬ、助けが来るとは思えない。

そんなことを長々と考えている暇はなかった。

次の攻撃が来る。勘ではあったがなぜかそう確信できた。

人間は窮地に陥ると一時的に体感時間が長くなると聞いたことがある。

これがそうなのか。

必死の思いで身体をよじって赤い光をかわす。


「クッソォ、俺はこんなとこで死ぬわけにはいかないんだよぉ!」


一矢報いるだけで良い。

俺は拳を握りしめ、ヤツがいるであろう方向へと突き出した。

重厚な金属にひ弱な拳が当たる音が響く。

どこまでも運命は俺を見放したみたいだ。

そんな時、俺の鼓膜にある音が響いた。

それはバイクのブレーキ音だった。

そしてすぐに、俺のパンチとは比にならないような重厚な音がした。


『-重大な損害を確認、システムを停止します。』


ガスが排気される音と共にその機械音は止まった。


「あ、ありがとう。」

「これも仕事だ、気にしないでくれ。」


そう言って俺の救世主は去っていき、目がはっきり見えるようになった頃には俺は夜の闇の中で1人取り残されていた。

その夜闇を家に向かって歩く。

スラム街の中にあるあばら屋が俺の住まいだ。

俺はこのスラム街で改造屋をやっている。

家に着き、テレビの国営放送のチャンネルをつける。

この受信料を払わずとも全てのチャンネルが見られるテレビが俺の改造屋としての初仕事だった。

俺には弟がいたが、あいつがある病気に罹って以降はあいつが死んでも会うことはなかった。

俺の父はプラッツコーポレーションという大企業の社長をしているが、最近軍事産業に手を出したらしくCEOを「R」と言う男に任せたプラッツインダストリーという新興企業ができていた。

社長の息子なのになぜスラム街で暮らしてるかって?

あんな父親と一緒に無機質な街に住みたくはないからだ。

父親との思い出にいい思い出があまりない。

特に、母が死んでからは。

俺はこのスラムの市場の喧騒や、人々が懸命に生きているこの雰囲気が好きだ。

だからこそ、このスラムで暮らしている。

しかし、さっきのあれはなんだったんだろうか。

たまたま命が助かったものの、死んでいたかもしれないと思うと頭身の毛も太るような思いだ。

まあ、スラムでは命のやり取りはたまにあることではある。

夜は特に気をつけなくてはいけない。

とりあえず軽く夕食でも食べて寝るとしよう。


◆◆◆


「アイザック、良い働きをしてくれて助かった。あとは各地で起こしたあの事案がメディアに取り上げられてくれると良いのだが。」


「とても良い出来ですから、問題はないでしょう。」


「ただ懸念は、ショウタのことだ。あいつがどこにいるのか。」


「彼に何かあるのですか?」


「いや、なんでもない。」


「それなら良いのですが。」


「引き続き計画を進めろ。」


「承知しました。クラスカ様。」


◆◆◆


朝が来た。

今日も客が来る前に準備を済ませておく。

基本的に改造屋の仕事は大きく分けて二つ、日用家電の性能向上、そしてもう一つが裏の仕事、兵器開発だ。

兵器開発に関してはどこかに流すわけではなく、自分で研究を進めているだけだが、その副産物として出たもので自分の研究に影響がなければ販売をしている。

俺が兵器開発をする理由はたった一つ。

俺の小さい頃からの夢、ヒーローになることを叶えるため。

それが絶望的であることは昨晩の出来事で思い知ったわけだが。

そして俺じゃないヒーローが助けてくれた。


"ヒーローは俺じゃない"


認めたくないが痛感させられた事実だ。


「やってるか?」


「おう、今日はどんなご用で?」


「うちの掃除ロボットがぶっ壊れちまってな、直すついでに改造もしちゃって欲しいんだよ。」


「あいあい、すぐ終わるから待ってな。」


「いやあ、いつも早くて助かるよ。」


そんな話をしながら早速作業に取り掛かる。

修理が終わり、客を帰したその時だった。

耳をつんざく爆音がスラム街に轟く。

そして外からは叫び声。

何が起こったのか一瞬分からなかったが、外に出てすぐにその正体は判明した。

例の機械の放つ赤い光。

昨晩は目が見えなかったが今日は見える。

そいつは凶暴な姿をしていた。

まるであらゆるものに牙を向く機械の猛獣である。


「まだこっちに来るまで少し猶予がある、早く支度をして家を出ないと!」


俺は身を守るためにヒーローコスチュームとして作っていた強化装甲のダウンベストを取り出す。

グローブには閃光弾や音響弾などを発射できるガジェットがついたもの。

靴は衝撃吸収の機能のサスペンションを加えたもの。

それらを普段着のタイツの上にスポーツ用半ズボン、そしてパーカーという服装の上に着用する。

パーカーのフードを被る前に、ヘルメットの役割を果たせるキャップを被る。

その後、ワイヤーを射出できる装置のついたベルトをつける。

身体能力が足りずに思うように使えなかったが何かに使えるかもしれないのでつけておく。

ここまでコスチュームを作ったのになぜヒーローにならなかったか。

一つ目は、自分の顔を隠すものがないから。

この日本で普通の生活を送っている以上、ヒーローとして担ぎ上げられたりすると生活に支障が出るし、いつ狙われるか分かったもんじゃない。

二つ目は、この街が平和だったから。

プラッツコーポレーションが大きな力を持ち、街の治安を管理しているため犯罪も滅多に起こらなかった。

最後の理由、それは身体能力が足りなかったからだ。

ワイヤーの説明の時に言ったが俺にはこれを使いこなす身体能力がなかった。

それに昨晩のやつに対してのあのひ弱なパンチ。

戦えるわけがない。

せいぜいこの装備でできるのはコソ泥程度だ。

そうして外に出てみると、外では昨晩助けてくれた時にうっすら見えたヒーローらしき人に似た人たちが3人戦っていた。


「これで安心して逃げられる。」


そう振り返ると、目の前にあったのは赤く光る大きな一つの目のようなものを持つ機械の猛獣の顔だった。


「うっわぁぁ!くっそ!まずい!」


すると俺の声に気づいたのか3人のうちの1人がこちらにきた。


「大丈夫か!私が倒すから、安全なところに隠れていろ!」


そういって戦い始めたが、一体を倒した後にもう一体に不意を突かれて殺されてしまった。

その後、奴は簡単に屠れる獲物を見つけたと言わんばかりにゆっくりとこちらに近づいてくる。

俺は恐怖で声も出なかったが、いつのまにかグローブのトリガーを引いていた。

射出されたのはEMP弾。

運はまだ俺に味方をしてくれていたようだ。

EMP弾を喰らった奴はしばらく動けなくなった。

奴に近づけるチャンスは今しかないと思い、近くに落ちていた奴らの武装の残骸で赤く光る目と思しき場所に突き刺した。

奴はその場に倒れ、動かなくなった。

そうして奴の死体から何か使えそうなものはないかと探していると、そこにはあの殺されてしまったヒーローのつけていた仮面があった。

今にも電源が切れそうになっていたが、そこに映るのはプラッツインダストリーのロゴ。

しかし、その仮面が落ちていたすぐそばにある奴らの死体にもプラッツインダストリーの刻印がされていた。

俺はその仮面を頂戴し、スラム街の被害の軽微なところにある知人の家に向かった。


「大丈夫か!?なんか怪我してるし、どうしてそんなに息が切れてるんだよ。」


「あの爆音が聞こえなかったのか?」


「え?あの音はスラム街の開発をしている工事の音だから気にする必要はないって言われたぞ。」


「誰にだ!」


「ここらを管理してる警察だよ。」


「なんで警察まで…」


その後俺は彼に事情を説明し、家に住ませてもらうことになった。

ちなみに彼はプログラマーのエルヴィン。

基本的にずっと家にこもって何かしている。


「ほーん、じゃあお前はこれがプラッツインダストリーが暴走させてしまった戦闘用機械獣の隠蔽だと言いたいんだな?」


「多分そうだと思う。両方ともプラッツインダストリーのロゴが入っていた。」


「お前の父親の会社がそんなことするとはねぇ…。あの人だっていい人じゃないか。」


「そんなことないだろ。まあいい、設備を貸してくれ。改造がしたい。」


「貸してくれ?何言ってんだ、お前が勝手にうちに作ってったんだろ、好きに使えよ。」


「ありがとう、恩にきるよ。」


そう言って俺は地下にある改造用の作業場に向かった。

俺の周りで二日連続でこんなこと起こるか?

おかしい。

何かあるに違いない。

だから装備は万全にしておくべきだ。

戦うにしろ、逃げるにしろ。

そうして俺はあの仮面に俺のプログラムを書き込み、さまざまな機能を加える。

そして、ベルトに銃のホルスターをつけることにした。

奴は急所に攻撃を当てれば一撃で倒れることがわかった。

それならどこかから拳銃でも手に入れて撃ち込めばいい話だ。


「ありがとう、助かったよ。」


「おうおう、元からお前のもんだが役に立ったなら良かったよ。」


そう言うと何か思い出したように立ち上がり、何かをとりに行った。


「そうだ、ヒーローやるのかなんなのか知らねえけど、これやるよ。俺にゃ使う機会ないからな。」


そう言って彼が差し出してきたのは全身にフィットするタイツのようなスーツだった。


「こいつはな、身体能力向上ができるらしい。なんでも、ロックがかかってて使えないらしいがお前ならどうにかできるだろ。」


そう言って渡してくれたスーツを改造しに作業場に戻る。

このスーツの仕組みは難しく、慎重な作業が求められるためかなりの時間がかかってしまった。

そうして完成したコスチュームを日頃から身に纏うことにした。

同じような格好の人間は街に沢山いるので個人の特定は難しいだろう。

仮面だけは腰のベルトから下げておく。

こいつの表面はモニターになっているが、かなり丈夫で顔を守るために機能してくれるほどなのでちょっとやそっとでは壊れることはないだろう。

あの襲撃から一週間程経ち、家のあった場所に行ってみることにした。

もう機械獣も処理されているという話も聞いたので大丈夫だとは思うが、一応戦う準備はしておこう。


「いやぁ、流石にあれじゃ家は残ってないよなぁ」


「あんたも、ここら辺に住んでたのかい。」


と、老人に話しかけられる。


「ええ、まあ。あのときに都市側に逃げましたがね。」


「そうかい、そこにあったの 改造屋をやってた兄ちゃん。なんでも死んじまったんだとかなんとか。」


「えっ、そうなんですね。それは酷いですね。」


なんで俺が死んだことになってるんだ?

しかしそれなら都合はいい。

俺は今、エルヴィン以外の人間にとっては"存在しない"のだから。


「兄ちゃんも頑張ってくれよ。まだこの街は終わっちゃいないよ。」


その夜。

俺はスラムと高級都市の中間にある繁華街に向かった。


◆◆◆


「社長、実験的に配置したガーディアンたちはリヴェンジャーの処理を完了しました。」


「そうか、ショウタの発見もご苦労。あとはガーディアンがこの街を守るシンボルとなってくれるといいのだが。」


「きっとなり得るでしょう。ただ、それは我々の計画には含まれていない…」


「何か言ったか?…っ!」


社長室に銃声が轟く。


「残念ですが、あなたにはここで退場していただきます。社長。いや、クラスカ・プラッツ『元』社長」


「この瞬間から、俺が社長だ。父さん。」


「…!レイジ…!生きていたのか…っ!」


「もちろん、あんたがプラッツインダストリーのCEOに任命した「R」は俺だよ。だが病気が完治したわけじゃない。だから俺はガーディアン計画を昇華させるんだ。そして俺が計画の完成形になるんだ。」


「そのためにもあなたは邪魔だ。だから消えていただきます。世間にはニュースで適当に誤魔化しておきますよ。」


「き、貴様ら…」


そう言い残し、プラッツコーポレーション当代社長の一生は幕を閉じた。


◆◆◆


「やっぱりここは治安悪いな。」


『そりゃここはこの日本の闇を集めて濃縮したような場所だからな。』


ここは日本のマフィアである、ヤクザの事務所である。

繁華街である歌舞伎町に来たのもこれが理由なのだが。

この組はプラッツインダストリーに深く関与しているらしく、何か情報が掴めないかと思ってきたのだ。

音を立てないように屋根をつたって窓から忍び込み、奴らのコンソールにエルヴィンが作ってくれたプログラムの入ったメモリを差し込む。


「2分くらいか。その間ここで待つかなぁ。」


そうして待っている間に仮面をつけ、機能を確認する。

便利機能もエルヴィンが改良してくれている。

しかしこの仮面、とてもいい。

まさに自分の思い描いたヒーローって感じである。

そんなことを考えていると、この部屋に向かう足音が聞こえてきた。


「そろそろか、まあもう終わってるんじゃないか?」


そう言って進捗を見ると、後30秒かかるようだった。


「マジか…、だいぶギリだな。最悪顔は見られねえが活動に支障が出る可能性があるからな。」


そうしている間にも足元は近づいてくる。

俺はフードを被り、いつでも出られるように準備を整える。

ドアが開くと同時にダウンロードが終わり、構成員の1人と鉢合わせになる。

奴はすぐさま俺に発砲してくる。

ただ、仮面のおかげで無傷と言いたいところだが、モニターになっていた部分は銃弾によって穴をあけられてしまった。


「まっずい!」


そうしてメモリーを抜き取り窓から飛び出す。

そのままワイヤーを射出し隣のビルに飛び移る。

つくづくあのスーツをもらっていてよかったと思う。

屋根に登る時もそうだが、動きの自由度がかなり増した。

俺は夜闇を駆け、追撃から逃げおおせた。


「こりゃもうダメだな。新しいのを探すしかないか?」


『いや、中の骨組みを利用して作れるだろ。』


「でも見た目が…、ヒーローっぽくないんだよな…。」


『この際見た目なんか気にするな。』


そう通信でエルヴィンと話し、エルヴィンの家に向かった。

家に戻ると俺は割れたモニターを仮面から外し、人の頭蓋骨のようになっている仮面の骨組みをもとに、折りたたみ可能な仮面を作った。

その仮面が折りたたまれている時には目を覆う形の仮面となっており、装着することで顔を全て覆うようになる。


「なんかいいデータはあったのか?」


「ありそうなファイルは発見したが…ロックがかかっててな。見られそうにない。」


「そうか…、どうしたもんかな。」


「とりあえず今日は寝たらどうだ。」


「ああ、そうするよ。少し疲れた。」


彼の使っていたモニターには、小さくリンゴのアイコンが点滅していた。


◆◆◆


「レイジ様、柳生会の事務所に侵入者との報告です。」


「何か盗られたのか?」


「それが…コンソールに何かしていたようで。」


「そいつの素性はわかるのか?」


「それが、仮面をつけていたので分からないとのことで。」


「ちっ、何か他に証拠はないのか。」


「奴のつけていた仮面はガーディアンのものを流用しているようです。発砲してダメージは与えたのことですが。」


「ロックはかかっているな?」


「ええ、もちろん。」


「ならば滅多なことがなければ大丈夫だろう。それと、俺のことはこれから社長と呼んでくれ。」


「承知しました。社長。」


◆◆◆


次の朝起きると、プラッツコーポレーションがニュースになっていた。


《プラッツコーポレーションの社長、クラスカ・プラッツ氏が辞職を表明し、後継の社長にプラッツインダストリーのCEO、「R」氏を立てました。》


「お前の父さん、社長辞めたな。」


「ま、まさかそんなはず!あいつは辞めるような人間じゃない!」


「じゃあなんで…」


「それがわからないから困ってるんだ。そもそも「R」って誰なんだ…」


「それもこれもあのファイルを解読してみれば何かわかるんじゃないか?」


「そうだな、いまはそれしか手がかりがない。」


改造部屋にあるパソコンにメモリーを挿す。

すると出てくるのは、IDとパスワードを要求される画面。

しかし、昨夜とは違うボタンが画面に表示されていた。


《社長親族用アクセス権取得》


そう書いてあるボタンをクリックすると、ポップアップが出てきた。

そこには、


《このタブは、なんらかの理由によりプラッツコーポレーションの社長が変わった時にのみ使用できる、社長の親族の方がアクセス権を取得するための機能になります。》


と書いてある。

その下に名前を入力してください。という場所があるので自分の名前を入力する。

すると、


《問い合わせ中》


と言う表示が出たのちに、


《アクセス権の取得に成功しました。》


と表示が出て様々なファイルが展開される。

その中の一つに、「クラスカ・プラッツに何かがあった時に読むこと.txt」と言うファイルがあった。

その中身を確認すると、


「これを読んでいるということは私に何かあって、ショウタに社長の権限が譲渡された、もしくは何者かに私が殺されたということだろう。もしショウタが社長となっているならば、プロジェクトのファイルに目を通し、その計画を進めること。もし、ショウタが社長でないとするならば、新しく社長となったものの野望を阻止してほしい。」


と残されていた。

そして、プロジェクトのファイルを見てみると、そこには市民を守るためのガーディアン計画、そして秘書のアイザックが密かに推し進めていたリヴェンジャー計画が記されていた。

ガーディアン計画は、クラーク博士という研究者が主任を務めている。

そして、ガーディアンに記録させた俺の動向も記されていた。

俺は死んだことになっていると思っていたが実際あのガーディアンとやらに見られていたからクラスカには俺が生きていることが知れていたのか。


「あいつなりの正義感ってものはあったんだな。しかし、こうなってくると殺されたってことになるよな。」


これでいくつかの謎は解けた。しかし結局「R」が誰なのかはわからない。

しかもクラスカが死んだ今、リヴェンジャー計画が優先されるかもしれない。

それは止めなくてはいけない。

クラスカが計画の兵器利用を望まないということを書き記した書類もファイルになっていた。

実際あいつは世界に戦争をもたらすようなことは望んでいなかったらしい。

本当に平和のために使うつもりだったようだ。


「おい、ショウタ。プラッツコーポレーションがまたなんかやってるぞ。」


「なんだ?」


テレビを見てみると、ガーディアンをプラッツコーポレーションの広告塔として売り出し始めたとのことだった。


「おかしい、行動が早すぎる。何をそんなに焦っているんだ。」


「まぁ、とにかく昨日の夜のこともあるし、少し休んだらどうだ?」


「そうだな。そうするよ。」


そう言って俺は寝室へ向かった。


◆◆◆


「ガーディアンの公式発表は済みました。ここからどうします?社長。」


「俺にはもう時間があまり残されていないんだよ。そろそろ適合手術を始めてくれ。」


「承知しました。手術は3回に分けて行います。まずは第一回を行いましょう。」


「ああ、頼むよ。」


◆◆◆


『午前5:35頃から大型の機械獣が新宿2丁目付近で暴走中!至急、応援頼む!』


「うし、行くか。」


そう言うと俺は旧世代の大口径拳銃、DesertEagleをホルスターに突っ込み、ワイヤーを駆使しながら現場に向かう。

ガーディアンがプラッツコーポレーションの広告塔となってから二週間。

リヴェンジャーの引き起こす事件が度々発生するようになった。

それを受けて俺は警察の無線を傍受し、リヴェンジャーの処理に向かう活動を行っている。


『リヴェンジャーは2体、あまり目立つなよ。』


「了解、オペレーター。」


『いい加減エルヴィンでいいって言ってるだろ。』


「うるせー、こっちの方が気分が乗るんだよ。」


そう話しながら現場に到着する。

現場は散々な有様だった。

警察車両はボコボコにされ、そこら辺に警察官が何人も横たわっている。


「一仕事済ませて早めの朝飯と行こうか。」


そう言ってホルスターから拳銃を抜くとまずリヴェンジャーの急所に一発。

一体はそれであっけなく倒れる。

だがもう一体がこっちに気づいた。

ここからが大変なところだ。

幸いこの周辺は高い建物で囲まれている。

ワイヤーを建物の壁に刺して壁を蹴って飛び上がり、出来るだけ無駄のない動きで目を狙う。

しかし奴の武装が弾を弾いた。


「くっそ、見えてやがったか。」


『ショウタ、早めに片付けろよ。そろそろガーディアンが来ちまうぜ。』


「分かってるっての、すぐ済ませるからちょっと待ってろよ。」


ワイヤーをリヴェンジャーに突き刺し、そのまま武装が射線に入らないように引っ張り、もう一方の手で銃を構え撃ち抜く。

重々しく落ちる音が響き、リヴェンジャーたちは機能を停止した。


「もう慣れたもんだな。このくらいなら文字通り、朝飯前だ。」


『ガーディアンを乗せた緊急車両がそこから300m地点まで迫ってる。早く撤収しろ。』


「了解。」


そうして俺はビルを駆け上がり、街の空を駆けた。

そうしてリヴェンジャー駆除を始めてから行きつけとなった喫茶店へ向かう。


「マスター、今日のおすすめは?」


「養殖北海道産サーモンの塩焼き定食です。」


「おぉ!美味そうだなぁ。それにするよ。あとは、ナガサキのブラックを頼む。」


「承知しました。」


ここ100年だか200年の大規模な気候変動のせいで、日本の南の方は熱帯の気候となり、特に九州地方はコーヒーやカカオの名産地としてアフリカなどを筆頭とした名産地リストに名を連ねている。

俺のお気に入りは長崎県のブランド豆、ナガサキのブラックだ。

そうして俺はコーヒーを飲みながら朝食を食べ始めた。


◆◆◆


《この音声データが無事に君に渡っているといいのだが。大丈夫かね。まあとりあえず要件を伝えよう。これを聞いている時、私はこの世にはいないはずだ。そして、君はあの計画のプロトタイプだ。必然的に狙われる可能性が高い。プロジェクトのデータを探れば君のことはわかってしまうだろう。だから、君にアメリカへの旅券を用意した。このデータと同じファイルに入っている。それを使って逃げてくれ。奴も流石に外国へは干渉できまい。君まで巻き込んでしまうようなことになって申し訳ない。私の力不足だ。とにかく、自分の身を案じて最善の行動をとってくれ。よろしく頼む。》


そして彼は添付されている旅券を見て言う。


「はぁ、分かってないなぁあんたは。俺がそんなことで逃げ出すと思ってるのか?ショウタだって真実を求めてもがいてる。俺はあいつに出来る限りのことをしてやりたいんだ。まあ、そんなこと言ったってあんたはもうこの世に居ないんだったな…。」


そうしてあの晩ショウタを助けた「救世主」は、ラップトップを閉じた。


◆◆◆


次の日の早朝、ショウタがプラッツコーポレーションの機密ファイルを開くと急にタブが開いた。

そこには動画の再生ボタンがある。

それを押してみると、


《やあやあ、君が誰だか知らないがよくもやってくれたね。このファイルはうちの会社の機密情報だ。これを見ているということは、ファイルにアクセスできたということだが、なぜできたのか興味深いね。これは簡単に持ってかれると困るものなんだよ。ああ、自己紹介を忘れていたね。私は「R」。プラッツコーポレーションの社長だ。話を戻すが、このファイルの入ったメモリを私に返して欲しい。もちろんタダでとは言わない。これを盗み出しアクセスできるほどの技術を持った男だ。ぜひうちで働いてもらいたい。ということで今夜午後9時、プラッツコーポレーション本社ビルの屋上で待っているよ。》


そう言って動画ファイルは消えた。

一度再生されたら消えるようにプログラムされているらしい。


「奴の正体を知るまたとない機会だな。もちろん働く気なんてないがな。行ってみるしかない。」


そうして携帯のリマインダーにその予定を登録し、朝食を食べに向かった。

その夜、あと1時間ほどで予定の時間となる時刻となった。

支度をしてプラッツコーポレーション本社ビルのある新宿の中央に向かう。


『気をつけろ、流石にお前を何事もなく帰してくれるはずはない。』


「そうだろうと思ってるよ。各種弾の補充は十分だ。」


そうして新宿の中央に向かうとそこには多数のガーディアンが警備をしていた。

侵入者を早急に見つけるためだろう。

俺たちの住む新宿の東側は人が住めるようになっているが、中央から見えた北西側は完全な工業地帯と化していた。


「こんなでけえ工場なんか作って、何するつもりだ…?」


『つい数日前までそんなものなかったはずだが…。これはさっさと対処しないとまずいかもしれないな。』


「見えた、あれが本社ビルだ。堂々とビカビカ光る看板なんか掲げやがって、悪趣味だな。」


そうして俺は本社ビルの屋上に向かった。

そこには例の「R」が佇んでいた。


「随分と早かったじゃないか。君か?うちのデータを盗んだのは。ん?もしかして君が軒並みうちのリヴェンジャーを壊してくれた犯人かい?」


「だったらなんだ。」


「いやいや、関係はあると思っていたが同一人物だとは思わなくてね。」


「それよりあんた、その仮面を外したらどうだ?」


「それは君にも言えることじゃないか。兄さん(・・・)。」


「!?ま、まさかお前!そんなはず!」


「声を聞いてすぐに分かったよ。あんたは俺の兄さんだ。仮面なんか付けてたってわかるんだよ。」


「お前…!お前がレイジという証拠は!」


「これでいいかい?」


奴が仮面を外すと、そこにはいつから見ていないのか分からないが、それでも昔と変わらない弟の顔があった。


「兄さんなんだとしたら全て辻褄が合うよ。そうかそうか、兄さんだったのか。」


「なんでお前が生きてるんだ…。死んだはずなんじゃ…!」


「延命はしたが病気は治っていないんだ。だが俺がガーディアンとなれば生き延びられる。それだけの話だ。」


「そうか、そりゃ別に人に迷惑はかけてねえな。だが、リヴェンジャーに関しては別の目的があるんだろ。」


「ああ、あれは「選別」だよ。この新宿で生きるに値するもの以外を排除するためのものだ。父さんの全ての人を守るっていう考えは甘すぎたんだ。まあ、発案は俺じゃない。賛同はするけどね。」


「そんなことが許されるわけねえだろ!」


そう言って俺は殴りかかる。

しかし、いとも容易く避けられてしまう。


「俺はもうガーディアンになりつつあるんだよ。兄さんみたいな常人じゃ勝てない。」


そこから長い戦いが始まった。

殴りかかり、避け、そしてまた攻撃する。

その繰り返しだった。

そのうちに、俺の体力の限界が来る。

強い雨も降り始めた。

ついに俺はレイジの攻撃を受け、後ろに倒れた。


「なんだ、持ってるんじゃないか、銃。なんで最初から使わない?弟だと思って命のやり取りができないのかい?」


そう言ってホルスターから俺のDesertEagleを抜き取り、俺の心臓に向けて弾丸を放った。

そのまま銃をビルの下に投げ捨て、俺の首を掴んでビルの外に落とそうという体勢に入った。

意識がもう途切れそうになり、ビルから落とされるその時にレイジはこう言った。


「このまま野垂れ死ぬ兄さんにカッコいいヒーローネームをつけてやるよ。俺の作る秩序への反逆者、レネゲイド。じゃあね、あの世で父さんと仲良くしてなよ。」


そこで俺の意識は途切れた。


◆◆◆


降りしきる雨の中、俺はプラッツコーポレーション本社ビルに向かっていた。

俺が着いた時、そこには雨に打たれても動かず倒れたままのショウタの姿があった。

貫通はしていなさそうだが胸を撃ち抜かれている。

もう助からないかもしれない。

それでもまだ生きている可能性に賭け、俺は彼を病院に連れて行った。

他のガーディアンは俺に見向きもしない。

まあ、当たり前のことだが。

俺は、ガーディアンのプロトタイプなんだから。


◆◆◆


「終わったぞ、アイザック。」


「そうですか、それはよかった。」


「まあどうせ奴は生きてるからな、死体が見つからなかった。空白の予定を俺のスケジュールに入れておけ。そこで仕留める。」


「それより、手術はどうしましょう。」


「決戦までに2回目は済ませたい。この強さなら3回目はまだ平気だろう。」


「承知しました。それではすぐに取り掛かります。」


◆◆◆


目が覚めた。

白い天井、ここはいつも寝ているエルヴィンの家ではない。

所々痛む体をゆっくり起こしながら辺りを見渡す。

体の色々なところに包帯。

ここは病院か。

確か最後の記憶は心臓に銃で弾丸を撃ち込まれたところまで。

だがなぜか生きている。

なぜなのだろうか。

防弾のベストと言っても、大口径の弾を止められるとは思っていなかった。

そう考えていると病室のドアが開き、エルヴィンが入ってきた。


「意識が戻ったようだな。あの日から一週間経った。どうする?奴を止めるのか?」


「もちろんだ。傷は?」


「ある程度までは急速治療で治ってるが、あまり無理すると死ぬ。」


「分かった。準備を始めよう。」


そういって俺たちはスーツの改良、ガジェットの強化を始めた。

その間もリヴェンジャーの駆除は行う。

軽いリハビリと更なるトレーニングを兼ねてである。

そして母の命日である一週間後、決戦の日を迎えることとなる。

今日の夜、なぜか奴のスケジュールに例の屋上での空白の時間がある。

そこを狙うこととなった。


「ほらよ、こいつはDesertEagleのHawkカスタム、俺の自信作だ。」


「イーグルなのにホークってなんの冗談だよ。」


「まあいいだろ、ユーモアがあって。ほら持ってけ!」


「お、おう…。」


「勝ってこい!」


「ああ!」


そして俺はプラッツコーポレーション本社ビルの屋上に向かった。

激しい雨の降るこの前のような夜だった。


「なあレイジ、今日は母さんの命日だぜ。」


「来たか、やはり生きていたな。」


「生憎な。俺は行きすぎた秩序に抗うrenegade(レネゲイド)だからな。こんなとこで死んでるわけにはいかねえんだよ。」


「まあいい、来ると思っていたよ。そのためにここに空白のスケジュールを入れたんだから。」


「はっ、母さんの命日だからか?それとも俺が来るのを見越してたってか?」


「ああ、そりゃもちろん。」


「御託はここまでだ。今回は手加減しねえ。」


そうして戦いは始まった。

戦いは苛烈を極めた。

手加減しないと言ったものの、やはり弟であることが頭をよぎり、フルパワーで戦うことができない。

そうこうしているうちに俺は追い詰められていた。

奴のカスタムされたGlock17の銃口は俺の頭を向いている。

その時、


「お前を助けるのは2度目かな?」


空から1人のガーディアンが現れた。

だが普通のガーディアンとは見た目が微妙に違う。


「まさか!「救世主」!」


「気づいたか、今回も助けてやろう。」


そう言ってレイジを攻撃する。

しかし、レイジが腕を振るい仮面を叩き割られてしまう。


「くっ、まずいな。」


「おっ、お前!エルヴィン!」


「ははっ、バレたか。」


「俺をあの時助けたのはお前だったのか!」


「友達を放っておけないだろ?だから今もここにいる。」


「お前…、まさか父さんの言っていたプロトタイプか?ちょうど始末しようと思っていたところだ。丁度いい、自分から来てくれるとは。再会に喜んでいるところすまないが、お前は違う。」


そのまま奴は銃の照準をエルヴィンの足に合わせ、撃ち抜いた。

エルヴィンは、必死の抵抗とばかりに投げナイフを一本投げてビルから落ちていく。

しかし、無情にもそのナイフは叩き落とされ、地面に突き刺さった。


「てめえ!」


「邪魔者はいらないんだ。消えてもらわなくては。」


そこから戦いは激化した。

使えるものは全て使って立ち向かう。

もう手加減はしない。

奴はエルヴィンを傷つけた。

グローブからガジェットを発射し動きを封じて攻撃をする。

確実に効いてはいるはずだ。

DesertEagleも残弾数に気をつけながらチャンスには打ち込む。

だがこれはことごとく避けられる。

それでもこの一撃は当たれば致命傷になるということがわかる。

だから攻撃を続ける。

どれだけ戦っただろうか。

相手は格上であるためかなりギリギリの戦いである。

ついにその時はやってくる。

隙をついて奴を押し倒し、銃口を頭に突きつける。


「ここまでだ。お前の野望は。」


「前より強くなったようだね。でも、俺にはまだ策がある。」


「そんなこと言ったって、俺の1発でお前は死ぬ。」


「はははっ、まだ引き金を引いていないところが甘いと言ってるんだよ。アイザック!最後の手術を始めろ!」


「承知。」


俺は何かを感じ取り、後ろに下がった。

すると地面から奴を掬うように謎の椅子が現れ、複数のアームが奴の体に何かし始めた。


「これでお前は俺には勝てない。せいぜい楽しみにするんだね!」


「社長、すみませんね。」


「なんだと?アイザック?」


「あなたの計画が達成されることはありません。私のあなたへ送る最後のゲームです。楽しんでください。」


「まさかお前っ!」


するとアームが何かを取り出しそれを奴の体に取り付けていく。


「くそっ!やめろっ!こんなとこでっ!」


椅子からは奴の悲痛な叫び声が聞こえてくる。


「ガーディアンなんかよりよっぽどいいものになれますよ、社長。」


アイザックはそう言って逃げようとする。

それを逃さず俺がアイザックに強酸弾を撃ち込むと、彼は痛みにのたうちまわり、そのままビルから落ちて行った。

だが機械は止まらない。

そしてそのまま施術は終わり、中からおよそ人間だったとは思えない怪物が現れた。


『オマエ…オ…マエ…!ユル…サナイ!』


巨体から伸びるアームが俺に襲いかかる。

銃をどこに打ち込んでもほとんど効果のないその化物は、自分の運命を呪い暴れ回っている。

俺は奴の攻撃を避けつつ各種の弾で攻撃を加える。

しかしそのほとんどが意味をなさなかった。

唯一効いたEMP弾も、数秒で対応されてしまった。

もうDesertEagleの弾は残っていない。

攻めあぐねて悩んでいる時、不意に奴は俺の上に飛び上がり、その巨体で俺の上にのしかかった。

スーツのおかげで骨折などはしなかったものの、この前の傷が開き、猛烈な痛みが俺を襲う。


「ぐあぁぁぁぁ!」


必死に頭を狙う攻撃を避けるも、防戦一方となりなかなか攻撃に転じることができない。

もうダメかと思い、顔を横に向けたその時。

目に入ったのはエルヴィンが最後に投げたナイフだった。

必死の思いでナイフを掴む。

最後の望みとばかりに俺は奴の弱点と思しき首のケーブルにナイフを突き刺し切り裂いた。


「これでおしまいだぁぁぁ!」


『グオゥァァァァ!!』


大きな断末魔ののち奴の目から光が消え、そのまま横に倒れ動かなくなった。

そのまま俺はふらふらと立ち上がり、そのままよろめきながらビルの縁まで歩いて、堕ちた。

やけにうるさい音が聞こえる気がした。

雨のせいなのか、それとも別の何かか。

だが俺の戦いはこれで終わった。

そう思いながら俺は重い瞼を閉じた。


◆◆◆


「顔が…あつぅい…あぁ…絶対に許さ…ない…。プラッツ…コーポ…レーションが…終わった…今…時代は…混沌を…極める…だろう…。私が…その…先駆者と…なる…のだ…。」


そう言って顔に大きな傷を造った男は這っていった。

この時から、新宿は秩序の街から混沌の街へと変わっていく。


◆◆◆


《プラッツコーポレーションがまたも社長を変えました。後任の社長は…。》


報道はいつもと変わらず流れ続ける。

昨日の事件は大きなものであったため、もちろん報道のネタとして上がっている。


《こちらは、昨夜のプラッツコーポレーション本社ビル屋上をとらえた映像です。屋上では謎の怪物と謎の人物、その名も「レネゲイド」が戦っている様子が見て取れます。また、プラッツコーポレーションは最近多発していた機械獣の騒動にも関与していたようで、その討伐も行っていたレネゲイドはこの街のヒーローと言えるでしょう。また、現場付近ではプラッツ元社長の息子、ショウタ・プラッツさんとその友人、エルヴィン・クラークさんが死亡しているのが確認されました。》


あの喫茶店にショウタの姿はなかった。

この時間ならいつもはいるはずだが。


「毎日日替わり定食を朝ごはんに頼むお客さん、今日は来ないのですかね。」


そうして何事もない日常が流れていった。

あの事件から一ヶ月が経った。

プラッツコーポレーションという秩序管理機関を失った新宿の街には犯罪が増え、警察組織の腐敗が問題となり、再構築されるなど大きな変化が起こった。

そんなある日だった。

街の液晶という液晶にある男が話す映像が映った。


《ごきげんよう諸君、私の名はスカルド。私とひとつゲームをしよう。今から、この新宿にプラッツコーポレーションの実験の被験者となった凶悪な死刑囚たち4人を放つ。争い、罵り、お互いを蹴落としあって生き残ってくれ。ルールはない。法律でさえこのゲームは止められない。それでは、楽しんで。》


そう言って映像は途切れた。


「どうすればいいんだ!」


「そうだ!この街にはレネゲイドがいるじゃないか!」


「レネゲイドは本当に助けてくれるのか?」


「でもここしばらく姿を見てないぞ!」


街の人々はそう言ってパニック状態になる。

そんな中目元だけを隠す仮面を顔全体を隠す画面に切り替えながら彼は言った。


「つくづく悪趣味なゲームをしやがるよ奴は。」


彼の相棒はこう返す。


『まったくもって同感だね。』


「うし、行くか。あいつを止めに。」


『行くのはお前だけだけどな。』


「来てくれりゃいいのに。」


『この足じゃ無理だっつーの。』


「確かにそーだな。」


そう言って空を駆けて行く彼を見てある人は言った。


「ありゃまさかレネゲイドじゃないか!?それにしても…あいつの正体は誰なんだ?」


それに対して新宿の人々は皆言う。


「Whoever knows?(そんなの知ってるわけねーだろ?)」


そして、


「来たか。動きがないから死んだかと思っていれば…。生きていたようだな。」


「もちろん、だって俺はお前みたいな悪に立ち向かうrenegade(レネゲイド)だからな。」


戦いの火蓋は切って落とされた。

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