01.力が欲しいか?の代償
鏡を見る。
長い白髪、翡翠の瞳、透き通るような白いスベスベプニプニなお肌。
そして凹凸は少ないながら、出るべき所と出てはいけない所をわきまえた体つき。
10歳そこそこと言う点を加味せずとも十分すぎるほど愛らしい整った顔。
十年、二十年後が楽しみな美少女……美幼女?の姿がそこに映っていた。
一つ問題が有るとするならば……俺の記憶が何者かに故意に捻じ曲げられていたりでもしなければ、その体に宿っている魂は紛れもなく三十路も後半に差し掛かったオッサンの物だという点であろう。
その目眩を覚えるような事実と悪夢のような現実に、もしやコレは夢なのではないかと現実逃避をしたくなる。だが、頭の中から響く声がこの鏡越しの存在が紛れもない現実なのだと突きつけてきた。
『どうだ!その身体は気に入ったか?ああ、言うまでもないぞ!デザインは紛れもなく俺の最高傑作だからな!気に入らないはずがない!』
やけに自信に満ちた陽気な声で喋るその声の主は現状の元凶にして諸悪の根源……そして俺の恩人?でもある存在の物だ。名前は聞き慣れない響きのもので、いまいち自信がないがサトウキョウスケ……だったかな?端的に言えば俺という存在の中に巣食う『寄生虫』のような物だ。
この辺りは魔術師……いや、錬金術師の管轄の話なのでしがない剣士だった俺に詳しい説明を求められても困る。まあキョースケ(発音しにくいしこれでいいか)本人の言葉を借りて説明するなら他の生物に寄生して乗っ取り、さらに他の生物を捕食して融合、自己改造、自己進化を繰り返していく存在……との事だ。
こうして聞くと俺の現状はかなりやばい状態に思えるかもしれないが……(いや、事実としてやばいが)自己の意識の消失という意味においてはひとまずの無事が保証されている。
と言うのもソレが俺たちが交わした『契約』だったからだ。
ことの始まりは半日前、このクソ田舎に偶然湧きやがったネームド級の魔獣との戦闘に破れ致命傷を負い、くたばりかけていた事に遡る。
それなりの、本当にそれなりとしか言いようのないうだつの上がらない冒険者だった俺が何の準備もなくネームド級に勝てるわけもなく、惨めに躯を晒そうとしていた時に俺はこの同居人と遭遇した。その時のキョースケの見た目はやけにデケえ蛆虫みたいなものだったが、眼の前の蛆虫は俺をこんな目にあわせた魔獣なんかよりも危険なものだと直感的に悟ったのを覚えている。
そしてその直後に脳へと直接響くような禍々しい声でこう問いかけられた……。
『力が欲しいか……?』
まるで御伽噺か三文小説のようなチープな問いかけだったが、目の前の存在がソレを為せるだけの何かを持っている事と同時にその代償は……あるいは死よりも恐ろしいものだという事を理解させられるだけの凄みがその声には宿っていた。
冒険者なんざ死と隣り合わせの職業だ。
野垂れ死ぬことだって有るだろう。
ソレは俺も理解していた。
だが、死を前に吊り下げられた蜘蛛の糸を無視してそれを受け入れられる程、俺は出来た人間でもなかった。
そして願った「力が欲しい」と。
そして、その結果が今だ。
「『力が欲しいか……?』の代償がTS幼女にされる事って有るか普通?!」
ダンッ、と。自分の中に留めて置ききれなくなった感情を吐き出すため、俺は思い切り地団駄を踏む。
『んなこと言ったってしゃあねえだろ?俺は異世界に転生するなら断然TS転生!白髪幼女派なんだからな!!』
「また解らんことを……!」
そんな俺の必死の訴えにキョースケはあっけらかんとそう返す。
こいつの言葉に任せていては話が進まないので、ざっくりと説明させてもらうが……キョースケは此処ではない何処かからやってきた存在で、なにやら神から世界の調律の役目が与えられる代わりに特別な力(寄生虫としての力らしい)をもらったとの事だった。ただその特別な力が本人の望むものとはかけ離れていた上に戦うのは怖いとこいつもこいつなりに途方にくれていた所、俺に出会ったとの事だ。
そして俺の身体に取り付き、命を永らえさせ、力を与える上に身体の主導権も奪わない事を引き換えに、外見はキョースケの好みに変更するうえ、キョースケに変わってキョースケの役目を俺が果たすという契約を持ちかけてきた。
そしてその条件を飲み込んだ結果が……今(白髪幼女)である。
うん、早くも後悔しそうだ。
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