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育成機関・養生研究所

 せっかく制服から練習着に着替えたというのに、ケンタはリオの指示によりふたたび制服に着替えるよう言われた。そして「鞄持って5分後に正門に集合」と有無を言わさず部室に放り込まれ扉を閉められる。

 正門まで遠いため、着替えも急いで済ませて校門まで走って行くと、そこにはすでにリオがいた。リオはケンタに「遅い」と言って校外へと足を進める。何も言われないケンタは、しかしそれに続くしかない。


 校門近くのバス停で数分バスを待ち、そのまま乗りこむ。15分くらいだろうか。軽快に走るバスから降りると、ケンタはリオにネクタイを引っ張られた。そんなことしなくても逃げないのに、と思ったが、言葉が10倍20倍になって、その上平手か拳か膝のどれか、または全部が返ってくるのがわかっていたので口を閉ざす。さすがに付き合いも1カ月になると学んだ。

 バス停からさらに数分歩くと、リオは大きな施設の門をくぐった。よく来ているのか、躊躇いがまったくなかった。ケンタは門扉の横にある看板の文字を読む。


(イクセーキカン・ヨージョーケンキュージョ…?)


 何とも読みにくいゴロである。ケンタは首を傾げるも、ネクタイから離れないその手に引きずられまいと足を進めた。少しでも気を抜けば首が締まる(物理的に)。

 ケンタはその建物を上から下まで眺めた。外観からは3階建てのように見える。ケンタとリオが入り口に立つと、自動ドアがなんの抵抗もなく開いた。


「あらリオちゃん、こんにちは。今日は予定入ってなくない?」

「こんにちは。ちょっとありまして…今日は誰ですか?」

「マナさんよ」


 受付嬢とも顔なじみなのか。リオは軽く話しかけてから礼を言い、迷いなく建物の奥に向かった。ケンタもそれに続く。




 1階の奥まった部屋。そこでリオはぴたりと足を止めたので、ケンタもそれに倣う。扉の上には「第2講義室」と書かれている。

 リオはそこの扉を、なんの前触れもなく横にスライドさせた。ノックも何もあったものではない。完璧なノーモーションにケンタは意味もなく焦った。


「あれ、リオ。どしたの?」


 広くも狭くもない講義室。しかし中には2人しかいなかった。その2人の視線が集中するも、リオは気にせず中へ入る。するとホワイトボードの前に立つ女性が声をかけてきた。

 こげ茶色のショートヘアをピンでおさえた女性は、眼鏡の奥の瞳を丸くしている。若く見えるその人は、いきなり現れた人物が見知ったものであると知ると表情を和らげ、次いで首を傾げた。


「えぇ、ちょっとこの馬鹿をどうにかしたくて、お力を借りにきました」

「先輩ひどい!!」

「だまれ、不摂生者」


 リオはケンタに一瞥をくれると、再び立っている女性に向き直った。


「マナさんに言われたように、先日部員に1週間の食事の内容を書かせたんですけど、この馬鹿があまりにもひどくて…」

「どれどれー」


 リオが差し出した用紙に、眼鏡を直しながら女性…マナは眼を通す。下に目線が行くにつれてその瞳は剣呑になって行く。


「……」

「どう思います、この馬鹿の食事事情」

「ないわー。なんなのこれ…最近の高校生ってこんなものなの?日本の行く末は絶望的ねー…」

「こいつと一般の高校生を一緒にしないでください」


 思い切り眉をしかめたリオに、マナは「ごめーん」と軽く返した。なんかひどい。

 ケンタはこれ以上言われる前に、と先ほどのように弁明を試みた。


「で、でもコンビニ弁当は添加物が少ないのを選んいでるし…」

「文字の羅列が少ないからって、添加物が少ないとは限らないわよ」

「え……?」


 マナの言葉に一体どういうことなのかとケンタは首を傾げる。その顔が少し青ざめているのは、自分の常識を覆されたからだろうか。


「じゃ、じゃあどうしたら…」


途方に暮れているようなケンタに、マナは数回頷いた。そしてリオをもう一度見る。


「なるほど?それでこの子の食生活改善のためにここに来た、と…どれだけ役に立てられるかわからないけど、協力はしましょう。でも、今日の主役は彼女の指導だから、リオの連れて来た子の役に立つかは分からないわよ?」

「いえ、こっちも急でしたから。そちらの都合に合わせます」

「そう?ならありがたいわ。それじゃぁ適当に座って。ところで彼の名前は?」


 マナの促しに、いまだ名乗っていなかったのだとケンタは慌てて口を開いた。


「ケンタです」

「ケンタ君、ね。私はマナ。この研究所の所員よ。そしてこっちに座っているのはサクラさん。旦那さんが警察官で不規則な生活をしているから、どうしたら助けられるかって今日は来たの」

「はじめまして、サクラです」


 ぺこりとお辞儀すると、栗色の長い髪がさらりと揺れた。やわらかいほんわかとした雰囲気を醸し出している。ケンタは一瞬、同じ女性でも先輩とは正反対だなぁと


「ぐふぉ!!」


 思った瞬間、ケンタの鳩尾にリオの肘が綺麗に入った。


「せ、先輩、いきなりなんなんですか…!!」

「なんか、失礼なこと考えている気がしたから」

「はいはい、そこ。さっさと席について頂戴、始めるわよー」


 マナがぺしぺしと教壇を叩くので、ケンタとリオはようやく席に着いた。

 むすーとしているリオにサクラが苦笑したところで、マナの講義が始まった。

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