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第9話 『政治家と会う』

 咲から資金援助の約束をしてもらってから次の日の放課後、俺は再び国木田くにきだ家を訪れていた。


「本当に、私なんかをメインシナリオライターとして雇って頂けるのですか?」


「はい、しかし当社の関連企業となる新ブランドのゲーム会社としてですが、いかがですか?」


 国木田さんのお母さん、国木田久美子くにきだくみこさんが不安そうに問いかける。

 その話し相手は俺ではなく、咲の専属執事である安藤あんどうさんだ。


 やっぱり、久美子さんを説得するのは大人ではないと無理だ。


「確かにお話を作るのは得意でしたけど、私にはなんのキャリアもないのです。いきなり新ブランドのメインシナリオライターなんてとても……」


「では、試しに短編を一作お作り頂けないでしょうか? それの評価で今後を決めるという事で。もちろん報酬はお出しいたします」


「えぇ、それは構いませんし願ってもないお話ですけど本当によろしいのですか?」


「はい、ジャンルと文字数、期限などは指定させていただきますが構いませんか?」


「お願いします。しかし、どうして私にそこまで……」


「正直、私には貴女の才能などは分かりません。しかし、新ブランドの代表は氷室和希ひむろかずき様です。彼が国木田様に類稀な才能があると仰いました。私共の会社が出資するにはそれで十分なのです」


「「えぇ?! 和希くんが?!」」


 俺と二人で今まで黙って話を聞いていた、涼子と久美子さんが親子そろって驚きの声を上げる。

 あと、自分でも思うのだけれども俺が代表で本当に大丈夫なのだろうか? 高校生なんですけど。


 一応、方針としてはゲームのジャンルは俺が決めるがシナリオなんかには口出しするつもりは無い。

 西宮にしのみや財閥のゲーム制作部署からプログラマーなんかの人材は派遣してくれる事が既に決まっている。彼らの給料ももちろん予算のうちに入っている。

 あぁ、精神がゴリゴリ削れる。


 ただ、イラストレーターの派遣は断って置いた。理由としてはイラストレーターは久美子さんのシナリオに合う人を選びたかったと言うのがある。


「シナリオの作成にはこちらのノートパソコンをお使いください。それでは後日またご連絡させていた来ます」


 安藤さんがそう言って話を切り上げる。あんまり長居するのも悪いしね。

 それに久美子さんの体調は未だに万全ではない。シナリオ制作も無理をさせない様に気を付けなくては。


「あ、あの本当にありがとうございます。短編シナリオはできるだけ早く仕上げるように頑張ります」


 そう言って頭をさげる久美子さん。続いて娘である涼子も安藤さんに頭をさげる。


「有難うございます!」


「ふふっ、国木田様を雇用したのは私どもではありませんよ。ここにいる代表の和希様でございます。それにシナリオの方は体に無理のないようにお願いします」


「そ、そうでした。ありがとね和希くん、私頑張ってみるから」


「はい、どういたしまして。そしてよろしくお願いします」


 そう言って俺と安藤さんは帰り支度を始める。


「それじゃぁ、アパートの前までだけど送るね。お母さんは休んでてね」


 どうやら、涼子は俺たちを見送ってくれるようだ。 

 アパートの前までなので本当にすぐの距離だけど涼子は、ちょこちょこと歩いて俺の後を付いてきた。


「あの、和希くん、本当にありがとね。お母さんも働く場所が見つかってすごい喜んでた」


「うん、どういたしまして」


「どうして、和希君は私たちの事を助けてくれたの? ただのクラスメートなのに……」


 その問いに俺は少しだけ考えてから答える。


「んー、涼子が可愛いから助けたいって思っちゃったんだ」


「か、可愛い?! わ、私そんなに可愛くないよ。小学生の頃から男子にブスって言われてたし……」


「あぁ、男子って好きな女の子とか、可愛い子に意地悪くしたくなるからね。きっとそれだよ」


「えぇ、そうなの?! 和希君も昔はそう言うこと有ったの?」


「ううん、俺は好きな子や、涼子みたいに可愛い子には笑っていてほしいかな」


「そ、そうなんだ、和希君はやっぱり優しいな、物語の王子様みたい。何かお礼がしたいけど知っての通り、私の家貧乏だから……お礼しか言えなくてごめんね」


 涼子は俯きながらぼそぼそと喋った。

 俺は彼女の華奢きゃしゃな体を優しく抱きしめた。

 こんな可愛らしい女の子を抱きしめてもセクハラで訴えられないなんて本当にいい世界だ。


「か、和希君?!」


「お礼。涼子からも抱きしめてほしいな」


「う、うん」


 涼子は恐る恐る俺の背中に手を回して抱きしめ返してくれた。

 彼女の小さく柔らかな体から暖かな温もりが伝わってくる。それにやっぱりいい香りもする。


「はぅ、これじゃぁ私がお礼してもらってるみたいだよ……」


 本当にこの子は可愛いなぁ。


 そんな俺たちの様子を安藤さんは何も言わずに優しく見守っていてくれた。

 多分だけれど、咲にも報告しないで黙っていてくれるだろう。


◇ ◇ ◇


 国木田家の帰りの車で俺はこれからの事を考える。

 久美子さんを雇えて本当によかった。あんな才能の塊を逃すなんてもったいないからね。


「和希様、イラストレーターの募集はいつでも出せる状態です。西宮財閥関連企業としてかなりの応募数が予想されますがいかがいたしますか?」


「うーん、最初はやっぱりイラストをみてから決めたいです。その中の良さそうな人は実際に合ってみて決めたいと思います」


 俺の鑑定は実際に相手に触れないと発動しないからこういう時に困る。


「畏まりました」


「あと、俺の事は和希って呼んでください。様はいりません」


「そうは参りません、和希さまは零細とは言え企業の代表ですから」


「安藤さん、零細は余計ですよ」


「ふふっ、これは失礼しました」


「一応、選考方法ですが一次は今まで書いたイラストを数枚、二次が久美子さんの短編に合うイラストを線画でいいので一点、そして最終選考として面接をしたいと考えています」


「畏まりました」


「それと今日は付き合ってくれてありがとうございました」


「いえ、これくらいの事なんでもありません、もし感謝されるのであれば咲お嬢様に」


「そう……ですね。咲には借りがあるから早く返せるように頑張らないと」


「それはそうと、和希様、この後のご予定はお有りでしょうか?」


「予定ですか? いえ、特には……」


「実は、お会いしていただきたい方がいるのです」


 安藤さんが俺に合わせたい人って誰だろう?

 もしかして、お子さんとか? そういえば、安藤さんの子供の話は聞かないな。

 いや待てよ、咲の両親と言う可能性もあるか。


「ふふっ、そう警戒しないでください。私の古い友人です」


「安藤さんの友人ですか? 俺なんかが会って大丈夫でしょうか……」


「えぇ、和希様は占いが大層お得意と聞き及んでいます。クラスでも大人気だとか」


「はい、確かに占いみたいな事はやっていますけど……」


 クラスでちょっと占いが得意な俺を友人に会わせたい? うーん、安藤さんを疑いたくないけれど何かあるのではと勘ぐってしまう。いや、確実に何かある。


「実は友人がこれからの人生について悩んでいまして、何かのきっかけにでもなればいいと思ったのです」


「そうですか……まぁ、暇なので安藤さんがどうしてもと言うのであれば会いますよ」


 安藤さんには色々お世話になっているし、これからもお世話になるだろう。だから俺がこの話を断るのは不可能。


「有難うございます。和希様、私は貴方の人を見る目には一目置いているのです。どうか力をお貸しください」


 俺、そんなに安藤さんの信頼を得られるような事なにかしましたっけ?

 俺はクラスメートを鑑定くらいしか心当たりがないのだけれど……。


 いや、待てよ……。


 そういえば、俺が咲の屋敷でお世話に張り始めてから2週間ほど相手に触るたびに鑑定が発動していたから屋敷に勤めていた使用人にどうしてここで働いているのか訪ねまくってたな。


 それで、『貴女は営業部の方が向いている。屋敷じゃなくて本当はそっちで働きたかった? なら安藤さんに頼んであげるよ』とか『本当はマーケティング部がよかった? そっちより、人事部の方が向いてるよ。』とか言ってた様な……。

 それから、しばらくして屋敷の使用人の入れ替わりが確かに激しいなとか思ってたんだ。


 さらに、さらに、安藤さんから『彼女は信用できる人間か?』とか『彼女は他の企業のスパイなのではないか?』みたいに相談される事があったから鑑定して答えてたんだけれど……。


 どう考えても、コレが原因かな?!


 いや、確かにスパイを見つけるとか特殊部隊っぽくてカッコいいし楽しくてついついやっていたけれど……。 『安藤さん、あの女性は南波留なばる財閥から派遣されてますよ』とか『あの女の人は信用できません、そのうちこっちの情報を売りますよ』とかやってたわ。


 鑑定が楽しすぎてやりすぎてしまったという事だろう。

 その後、彼女らがどうなったかは知らないけど罪悪感が……。ちなみに鑑定内容に嘘はない。


 でも、これからは自重しよう。



◇ ◇ ◇


 そんな事を考えていると車は高そうな料理店に到着する。

 車の中で着替えて今の俺はスーツ姿になっている。そう、とても高そうなスーツ姿に……。

 執事服以外も俺に合う服が一応あったんだな、でも、高級すぎて普段は着れないわ。

 今度普段着買いに行こう……。


 そして中に案内され豪華な装飾の個室に案内された。


 椅子に座って中でしばらく待っているとドアがコンコンっとノックされる。


「安藤様、氷室ひむろ様。お待たせいたしました、ただいま永渕えいぶち様が到着されました」


 ウェイトレスが俺たちにそう告げる。

 どうやら安藤さんの友人が来たらしい。


 安藤さんが、分かりました。と答え、俺はア、ハイっと言って軽くお辞儀をしておいた。

 なんかお値段が高そうなお店だと緊張しちゃうんだ。庶民だからしょうがないね。


 ドアから数人の黒服を着た女性たちが2、3人入ってきた、その後をスーツを着た50代くらいの男性が、そしてさらに後ろに黒服が数人……。


「おぉ、久しぶりだな、安藤さん」


 そう声を上げたのスーツを着た50代くらいの男性だ。


「えぇ、お元気そうで何よりです」


 そう言って二人は握手をする。


「それで……彼が?」


 50代くらいのスーツの男性が俺に視線を向ける。俺は慌てて椅子から立ち上がり挨拶をする。


氷室和希ひむろかずきです。本日は夕飯をご一緒させていただくことになりました。安藤さんにはとてもよくして頂き、お世話になっています」


 スーツの男性が感嘆の声をあげる。


「ほぅ、これはこれは……。聞いていたよりずっと男前だね」


「有難うございます」


「それで、君は占いがとても得意だとか。是非私を見てほしいと思うのだけれどもいいかね?」


「はい、俺などでよければいくらでも……」


「うむ、では頼むよ」


 そう言って、俺と安藤さん、そしてスーツの男性はテーブルの席に着く。黒服の女性たちは入口に立っている。


 俺を絶対逃がさないつもりだ……。

 それに俺は一人、心の中でごちる。


 ――おいしい料理くってからじゃねーのかよっ!! せっかちすぎだろ、このおっさん。こっちはさっきから待たされて腹減ってんだけど。


 もちろん、そんなことはおくびにも出さない。


「あの、手を出してもらってもいいですか?」


「あぁ、もちろんだとも」


 そうして俺は中年男性の手を取った。その瞬間に彼のステータスグラフが頭の中に流れ込む。


「――あれ? 重森しげもり? 職業、政治家?」


 あれれー? さっきのウェイトレスは永渕えいぶち様って言ってなかったっけ? どういう事?

 職業が政治家ってなにー?! 安藤さんの友達じゃなかったの?!

 しかも男性の政治家となればかなり有名な人なんじゃないか?


「ほぅ……私を知ってるのかね?」


 やべっ、思わず声に出してしまった。


「ハ、ハイ……。テレビで少々……あははっ」


「そうか、若いのに感心な事だ。それでどうかね?」


 なんとか誤魔化せたか?


「えっと、政治家としてですよね……そうですね、貴方はとても決断力のある方です。そして人を引っ張っていく力もある。それに真っすぐ、自分を貫く心もお持ちのようです。それと同時に、周りの期待に答えられるか常にプレッシャーを感じているのではないでしょうか?」


 と、ここまで言った所でこのおっさんの顔色を窺っておく。

 特に変化はないようだけれど少し驚いている様にも見える。


「ふむ、続けてくれ」


「はい……率直に言いますと、貴方はリーダシップもあり天職は、総理大臣……です。外交関係も円満に築けると思われます。そんな貴方にも弱点はありsnsなどのネット関係での広報活動は控えた方がいいでしょう」


「なるほど、確かに私はそっち方面は疎いからな」


「そして貴方は少し誤解されやすいタイプの人間のようです。そばに置くなら広報を得意としてる人を置くと今以上の信頼や支持を得られるでしょう……。あの、こんな所でどうでしょうか?」


 そう言って俺は男性から手を放す。本当は一瞬触ればいいんだけど、プレッシャーで忘れてた。


 このおっさん、真剣な顔になるとなんか怖いよ!


「なるほど……。そうか、私の天職は総理大臣か……。くくっ、そう言ってくれたのは君で二人目だよ、ありがとう」


「い、いえ、たいした事は何も……」


「安藤さん、今日の会計は私が持たせてもらって構わないかね?」


「はい、重森様が望まれるのでしたら」


「そうか、感謝するよ。和希君と言ったかね? ここのお店は私の一押しのお店なんだ。是非その味を楽しんでほしい。では、私はここで失礼させていただくよ」


「はい、重森様。またお会いしましょう」


「あぁ」


 そして安藤さんと重森さんは軽く会話して、その後、重森さんは部屋を出て行ってしまった。数人の黒服の女性たちを引き連れて。

 その間俺はポカーンとしていた。


「あの……安藤さん、こんな感じでよかったのでしょうか?」


「えぇ、十分です。あの方には背中を押す何かが必要でしたから」


 そういって安藤さんは少しだけ嬉しそうに笑っていた。


◇ ◇ ◇


 政治家、重森重蔵しげもりじゅうぞうは考える。


 あの、氷室和希と言う青年はおそらく手を握る直前まで私の事を知らなかった。だがその後、どうやって私が政治家であり重森と言う名前であることを知ったのだろう。


 店を予約した永渕えいぶちと言うのは私の秘書の名前だ。

 おそらく彼は私を最初永渕と間違えていたのだろう、それで恐らく声に出してしまった。そう考えるのが自然だ。


「超能力か……」


 安藤さんからは人を見抜く目を持っていると聞いていたが実際に会ってみるととんでもない青年だった。

 まずそのルックス、今はまだ少し幼さが残るが成長すればあれになびかない女はいないだろう。そして、人の本質を見抜くあの能力……。


 きっとそれが明るみに出れば彼の平穏な日々は終わりを告げるだろう。


 そこまで考え、いったん思考を止める。

 私は何も気づかなかった、それがいいだろうっと。


 重森はスマートフォンを取り出し秘書である永渕に電話をかけることにした。


「永渕か? 私だ。広報関係に強い人材をさがしてくれないか? きっと私の力になってくれるはずだ」


 そして重森はさらにそれとっと続ける。


「私は、男性初の総理大臣を目指すことにした。その方向で今後の事を話し合いたい」


 電話からは秘書の永渕が感激する声が聞こえる。やっと決心してくれましたかと。

 そして秘書との電話を終えた重森は車中からふと外の景色を眺める。


 総理大臣に向いてるっと言われたのはずいぶん久しぶりだ。

 そういえば……母さんの墓参りしばらく行ってなかったな。

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