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第6話 『サッカー』

 サッカーが始まってすでに15分ほど経過していた。

 そして、俺は今ボールを蹴ってドリブルで相手を翻弄していた。


「だ、誰か氷室君を止めて!!」


「メグミ、抜かれないでっ!!」


 可憐な少女達と一緒に汗を流すのって気持ちがいいね!

 それと悔しそうなセリフも心地よい。


「「氷室君、頑張ってーっ!!」」


 そして女子からの黄色い声援も心地よい。

 皆に良い所を見せたくて少し張り切ってしまう。

 俺が前世で最も得意だったミドルシュートをお見舞いする!!


 ボールを相手のゴールにシュゥゥゥーツッ!!


 俺の蹴ったボールはキーパーが触れる事もなくゴールネットに突き刺さる。

 やったぜ、これで1点リードだ。


 しかし、この体すげー軽いし、脚力とスタミナもある。


「「「キャー、氷室君すごーい!! かっこいい!!」」」


 女子達も大興奮である。


「あれで始めてとか嘘でしょ……?」


「テクニックもスピードもレベルが違う」


 俺はこれでも前世の高校でサッカー部だったのだ。


「さぁ、ドンドンいくよーっ!」


 俺はもう完全に調子にのっていた。

 いやー、高校生ライフ楽しいぃぃぃぃっ!


「次は絶対止めてやるんだから!!」


「さ、三人よ、三人氷室君にマークに付いて!」


 あはははははっ、サッカーってやっぱり楽しい。

 それに、時折だけれども少女達の柔らかな体が接触するも合法! なんて素晴らしいんだ。

 そんなこんなであっという間に昼休みは過ぎていった。


◇ ◇ ◇


 そして放課後、俺は昼休みに無双しすぎてサッカー少女達に嫌われたかな? なんて思っていたが……。


「か、和希くん、また明日ね!」


「サッカー部入らない? 男子はプレイできないけれどマネジャーとか」


「それ名案!」


「うん、またね。残念だけれども部活には入らないよ。それじゃぁ、また明日ね」


 なんだか随分仲良くなっていた。

 昼休み終了後、俺も名前で呼んでくれとお願いしたら照れながらなんとか呼んでくれるようになった。


「和希くん、またねー」


「今度一緒に遊びに行こうねー」


 などと他の女子との関係も良好だ。

 うんうん、転校初日としてはなかなかいい感じではないだろうか。もともとこのクラスの雰囲気が良かったというのもあるが有り難い事である。


「和希っ!」


 廊下を歩いていると、ふと呼び止められる。

 振り返ると俺の恩人である西宮咲にしのみやさきがいた。


「ごめんなさい、和希……今日、様子を見に行ってあげられなくて」


 咲は俺を心配してくれていた様だ。


「うん、大丈夫だよ咲。ありがとね、心配してくれて。クラスの皆、優しいしなんとか馴染めそうだよ」


 俺は笑顔で今日の出来事を咲に報告する。

 でも、咲は少しだけ複雑な、面白くなさそうな表情を浮かべていた。


「そう、よかった……」


「咲の方はどうだった?」


 すると咲は少し目を伏せがちに話す。


「私の方はいつも通りよ。特にこれといった出来事はなかったわ」


 咲のその表情が気になったのでそっと手を握ってみる。


「和希……?」


「大丈夫、俺は咲とずっと一緒にいるよ」


 特に意味はなかったがなんとなく俺は彼女にそう言ってあげたくなったのだ。


「うん……ありがとう」


◇ ◇ ◇


 私の名前は西宮 咲。

 

 和希が私と同じ高校学校に転校してきてから既に二週間がたっていた。

 和希は既に1年3組で中心人物となっており、休み時間は常に大勢に囲まれて過ごしていると言う。

 学校でも珍しい男性で、カッコよく、優しいという事で知らない人はいないくらい有名人だ。

 

 実際に私のクラスでも和希は既に人気だ。類稀なその容姿や、柔らかな雰囲気。人によって態度を変えたりせず、誰にでも優しさや暖かさを持って接しているので当然と言えば当然なのだが。  

 彼の周りには私とは違い常に人が集まっていた。


 そんな彼の誰にでも優しい態度に私は、少し、いや、かなり焼きもちを焼いていた。

 でも、それと同時にそんな浅ましい自分が嫌いでもあった。


「咲、今日は嬉しそうだね。何かいいことあった?」


「ううん、でも、和希が人気者で私も嬉しいなって」


 そう、人気者の彼は今は、今だけは私だけの物なのだ。

 二人で並んで手を繋いで安藤が待っている車がある駐車場まで歩く。

 すごく短い時間だ、たった五分程度のその時間だが十分に私を満たしてくれる。


「和希、これからもずっと一緒にいてね」


「うん、これからもずっと一緒だよ」



 そう、彼と私はずっと一緒だ、これからもずっと、ずっと、ずっと、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと。

 誰にも渡さない、お爺様にも、お母様にも。


 初めてだったのだ、私と対等に接してくれる同年代は。

 私に近づいてくる人間は私ではなく常に私の家を、西宮財閥を見ている。

 しかし、和希だけは違った。彼だけは西宮財閥とは関係なく咲として、一人の女の子として私を見てくれているし、そう扱ってくれる。


 彼は孤独だった私があの日見つけた希望なのだ、唯一私を理解してくれる人なのだ、私の大切な友達。

 そして、誰よりも愛しい人。


 それに一緒にお風呂にも入って裸の付き合いもしたのだ、もう婚約したと言ってもいいだろう。

 うん、そうだ、和希は私の婚約者。間違いない。


 あぁ……、私が西宮財閥の会長になったあかつきには彼をずっとそばに置こう。

 誰にも触れさせない私だけのそばに。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 超!エキサイティン!! [一言] ニコニコ顔で読んでいたのですがまさかの最後でびっくりしました でも嫌いじゃないぜ!
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