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第20話 『演奏終了後』

な、長い一週間だったー。

 あれから、和希たちは他にも数曲演奏しコンサートは無事に終了した。

 そして、現在控室に戻った三人は演奏の感想などを言い合っていた。


「いやー、さすがうちと和希くんや、今回のチャリティーコンサートは大成功やったな」


 高野が満足そうに頷きながら言う。


「何を言っているのかな? あれは僕達スパノバのコンビの力だよ。キミはただ子供の様に楽しそうに自分勝手に演奏していただけじゃないか」


 高野の発言に対して斎藤が鼻で笑い飛ばす様に答える。


「誰が子供や、うちの超絶なテクニックに観客は引き込まれてたんや。アンタみたく泣きそうな顔してカチコチになってたやつとはレベルが違ったのが分かったはずや」


「誰が泣きそうでカチコチだ?! 高野氏の無茶なアレンジに合わせてあげた僕の即興のテクニックにこそ観客は酔いしれていたのさ」


「なんやと? まぁ、ええわ……。これからはトリオになるさかい、堪忍したる」


「はぁ? トリオ? おいおい、まさか高野氏は本気でスパノバに入る気なのかい?」


「そやで、だからよろしゅーな和希くん」


「ふふ……っ、冗談は止めてくれよ、僕と和希くんは相棒でコンビなんだよ? 高野氏、キミも聞いただろ、和希くんのその言葉を。キミの入る隙間なんてないんだよ」


「はぁ? アンタみたいな情けない相棒なんて要らんやろ。うちが和希くんと組むさかい、アンタはもういらんて」


「なんだと?! ま、まぁ、僕は大人だからね。どうしてもって言うなら入れてあげてもいいよ。自分が僕の後輩だってことを弁えてくれるならだけれど。当然僕の事は斎藤先輩って呼ぶように」


「何が先輩や、しょうがないからアンタをうちが使ってやる。うちの寛大な心に感謝するんやで」


「何が使ってやるだ、あんなアレンジをバンバンぶち込んできてっ! 演奏を壊さない様に対応するのがどれだけ大変だったと思ってるんだ」


「先輩なら大目に見ろや。それにあっちの方が盛り上がるやろ」


「何が盛り上がるだ、盛り上げたのは僕だ!」


「うちや!」


「僕だ!」


「なんや?」


「なんだい?」


「やる気か?」


「そっちこそ」


 二人はそう言って取っ組み合いを始めてしまった。

 和希はそんな二人をみて、演奏終わったばかりなのに体力あるなぁ……なんて思いながらため溜息をついた。


 そんな時に控室のドアをコンコンとノックする音が聞こえた。


「はーい」


 和希が返事をするとスタッフの人が入ってきた。


「氷室様のご友人の方がお目見えになっています。お通ししても大丈夫でしょうか?」


「友人ですか? はい、大丈夫です」


 和希がそう答えるとすぐに、花束をもった東間雫あずましずくとその後ろから東間聡あずまさとる、そして二人の妹である東間すずかが控室に入ってきた。


「あ、あの、演奏凄かったでしゅっ!! こ、これお花、よかったら……」


 雫は盛大に噛んでいたが和希は大人の対応でスルーする。

 それよりも、和希は作詞担当になる事をお願いしている雫が演奏を聴きに来てくれていた事を嬉しく思った。


「三人ともありがとう。コンサートに来てくれて本当に嬉しいよ」


「和希くん、本当に素晴らしいコンサートだったよ、姉さんなんて涙流してたくらいなんだから」


「さ、聡、余計な事は言わないでっ!」


「すーちゃんも、かじゅきお兄ちゃんのお歌とってもよかった。また聞きたい」


 すずかは和希の腰のあたりに抱きついた。


「ありがと、すーちゃん」


 和希はスズカの頭をなでなでする。


「すずか、和希くんは男性なんだから抱き着いちゃダメだよ」


「そ、そうよ、うらやま……じゃなくって、セクハラで訴えられちゃうんだよ」


「せく、はら? すーちゃんよくわからない……けど、ごめんなさい」


 聡と雫に叱られてしょんぼりしながら、和希から離れるすずか。


「あはは、すーちゃんは可愛いから大丈夫だよ」


 和希はそんなすずかと目線を合わせて頭を撫でた。


「和希くん、キミはやっぱりすずかを少し甘やかしすぎだよ」


 聡は頭を軽く押さえながら呟いた。

 そんな聡を見て和希はにっこりと微笑む、それから雫に向き直り今度は真剣な表情で、しかし声色は穏やかに言葉をかける。


「それで、雫さん。コンサートを聞いてどうだったかな? 作詞、やってみたくなりましたか?」


「え、えっと、その……」


 雫は和希にそう問われしどろもどろになってしまう。

 そして、作詞と言う単語に反応したのか取っ組み合いの喧嘩をしていた、斎藤と高野が突如喧嘩を止めて雫を見た。


「へぇ、そちらの女性が和希くんが作詞をお願いしたいって言ってた子か」


「なんや? 作詞は和希くんがやるんとちゃうんか?」


「まぁ、その辺は色々あるんじゃないかな。まぁ、僕は編曲とかをやらせてもらえればいいからね」


「ふーん」


 雫は皆に視線を向けられてますます言葉が出なくなってしまう。

 そんな雫の様子に和希は断られるのではないかと若干焦りを覚える。

 しかし、それでも和希は雫が話してくれるのをじっと待つ事にした。


「え、えっと、本当に和希くんたちの演奏が……すごくて、私なんかが歌詞を担当していいのかなって……」


 雫は真っすぐに和希の目を見る事が出来ずに視線が泳いでしまう。


「そうですね……俺は雫さんの歌詞じゃないとダメだと思っています。貴女の歌詞がいいんです」


 和希ははっきりと雫の目を見て言い放つ。

 その発言に雫は電気で痺れたような錯覚を覚える。


「で、でも、私って普段からポエムとか書いている様な痛い女で……」


「そんな事関係ないです。雫さんがこの前書いてくれた歌詞、本当にすごいと思いました。雫さんの歌詞がいいんです、だから力を貸してください、お願いします」


 和希は雫に頭を下げる。


「そ、そんな頭を上げて、和希くん! わ、わかったよ、私、やってみる……でも、ダメだと思ったらいつでも言ってね、その時はすぐに降りるから……」


 和希は雫の両手を握ってぶんぶんと振って喜びを表す。


「本当?! 断られたらどうしようってずっと思ってたんだ! よかったっ!! そういえば、斎藤さんと高野さんには雫さんの書いた歌詞をまだ見せてなかったね」


 そう言うと和希は興奮冷めやらぬ様子で鞄から以前に雫が書いた歌詞の紙を取り出す。


「なんや、うちは歌詞の良し悪しはよう分らんけど、どれどれ……」


「キミはそう言うセンス無さそうだもんな」


「なんやと、斎藤だって無いやろが」


「斎藤さん、国語の成績2ですもんね」


「和希くんそれは言わない約束だろ……?」


 和希の言葉を聞いて高野はふふんっと鼻を鳴らす、逆に斎藤はふて腐れたような表情をした。


「すみません、でも、とてもいい歌詞に仕上がってるので見てください」


 和希の出した歌詞を斎藤と高野は覗き込むように見た。


「ふむ、曲名は『again』か」


「ほぉー、なんか元気の出る歌詞やな。……いや、正直驚いたわ、うちでも分かる、これは心に訴えかける様ないい歌詞や」


「まぁ、和希くんの専属メイドの、河内氏から聞いた話だと和希くんの才能を見抜く目は異次元のレベルって事だからね……雫氏の才能も生半可な物じゃないって事なんだろう。そう、僕と同じようにね」


「何言うてるんやこいつ……」


 若干、呆れた様子の高野をよそに斎藤と高野の両方から思わぬ高評価を貰い雫はアワアワとしてしまう。


「そ、そんな私なんて全然たいしたことないです。和希くんがテーマをくれたから簡単に作れただけで……」


「いや、これだけの歌詞や。作るの大変だったのとちゃうの?」


「それが15分ほどで作ってくれたんですよ。すごいでしょ?」


 和希が少し自慢げに答える。


「15分?! それは……すごいな」


 斎藤が思わずと言った感じに驚きの声をあげる。


「スパノバにはうちを含めてバケモンレベルの才能が集まりつつあるな。斎藤を除いて」


「おい……まぁ、それは良いとして雫氏が歌詞を担当してくれるなら心強い。よろしく頼むよ」


「うちももちろんええで、よろしゅーな雫ちゃん」


「は、はい、よろしくお願いしましゅっ」


 雫はまた噛んでしまうも、背中を高野にバンバンと叩かれながらペコペコしている。


「なんや、雫ちゃん緊張してんのか? かわええな、まぁうちもスパノバに入ったばかりやから仲良くやろうや」


「えっ? スパノバに入るって高野さんってピアニストはどうするんですか?」


「ん? もちろん、辞めるで」


「えぇーーっ?!」


 雫の絶叫が控室に木霊した。

 なんだか、随分と賑やかになって来たなっと和希は考えながらすずかの頭を撫でまわしていた。


 そして、最近ずっと部屋に引きこもりがちだった雫のそんな様子を見守っていた聡はとても穏やかな表情でで呟いた。


「よかったね、姉さん」 

この続きは今日の21時か22時の半頃にー。(多分)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新再開嬉しいです。
[一言] い、1週間だと!
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