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第18話 『コンサート開演』

まだ二章前半なのに前回の更新から時間が空いてしまい申し訳ありませんでした。

「おかえり、和希くん」


 和希が控室に戻ると斎藤が出迎えてくれた。


「それで、お目当ての人物は見つかったかい?」


「いえ、残念ながら……」


「でも、落ち込むこともないさ。見つからなかっただけで会場には来ている可能性だってあるんだから」


「そうですね、ありがとうございます」


「それと和希くん、リハーサルは既に終わったけど少しだけ練習に付き合ってくれないか?」


「はい、いいですよ」


 和希と斎藤は控室で軽く練習を始めるのだった。

 しかし、斎藤は本番が近づくにつれて深い水底にいるかのように再び指が動かなくなっていくのを感じていた。

 それは前回、和希と一緒に配信した時と同様の症状で斎藤は焦りを覚える。


 そんな、斎藤に和希も気づいていたが何と声をかけていいか分からなかった。


 しばらく、二人で練習をしていると控室のドアをコンコンとノックする音が聞こえた。

 和希が返事をすると、専属メイドである河内がドアを開けて入ってきた。


「和希さま、斎藤さま、そろそろコンサートの開演時間となります。移動の準備をよろしくお願いします」


「斎藤さん、そろそろ練習を切り上げていきましょうか」


「あ、あぁ……分かった。和希くん、僕は今日絶対に失敗しないと約束するよ。前回の配信の様な不様はもう晒さない」


 斎藤の思い詰めたような表情を気にしながらも和希は頷くことしかできなかった。


◇ ◇ ◇


 それからコンサートは始まり、和希と斎藤は出番まで舞台袖で高野の演奏を聞いていた。


「やっぱりすごいですね、高野さんは……」


「あぁ、世界的ピアニストと言われるだけはあるよ」


「それにお客さんの数も……満席みたいですね。皆、高野さんの演奏を聴きに来たんですね」


「いや、きっと和希くんの歌を聴きに来てくれた人もいるはずだよ」


「そうですね、その人たちの為にもいい演奏をしましょう」


「あぁ、必ず成功させるんだ」


 斎藤は決意のこもった声色で、まるで自分に言い聞かせるように呟いた。

 それとほぼ同時にステージでピアノを弾いていた高野の演奏も終わる。

 この後の予定はMCだ。


 MCとはMaster of ceremoniesの略で演奏者が曲と曲の間で話をする時間の事だ。

 このMCから和希と斎藤も登場する事になっている。


『皆、今日はチャリティーコンサートに来てくれておおきに。皆も知ってる通り今日は特別なゲストが来てるんや。スパノバのお二人さん、ステージにきてやー』 


 スタッフの人が和希と斎藤にマイクを付け終わり、GOサインを出す。

 和希と斎藤は頷きあってから舞台袖から登場する。 

 会場は拍手と黄色い歓声に包まれるのだった。


 和希は笑顔で手を振りながら舞台に上がる。


「すごい人気やな、やっぱしカッコええ男の子がおるとええなぁ」


「今日は呼んでくれてありがとうございます。それと会場に来てくれた皆とも会えて嬉しいよ」


 和希のその一言だけで会場からはあちらこちらから「和希くーん」「私も会えて嬉しいー!」などと声が上がった。


「うちも会えて嬉しいで。それとスパノバには和希くんだけやのうてもう一人おるけど説明は不要やな」


「それでも一応自己紹介はしておこう、サー・イトゥーだ、宜しく頼むよ」


 斎藤も会場全体に手を振って観客の歓声に答える。


「まぁ、ほないな訳で実は和希くんには特技があるそうなんや。皆は知ってるかいな?」


 高野の問いかけに会場のあちこちから再び声が上がる。


『おしえてー』

『へそチラ?』

『バスケ』

『サッカー?』

『へそチラかも!』


「こらこら、君達、へそチラはセクハラやで。正解は和希くん教えてくれるかいな?」


「あはは、へそチラも得意かも知れませんね。でも、正解は占いです。正確には手相占いですけれど」


 和希の言葉に会場からは意外だと言う声が沢山あがる。


「占いかー可愛らしゅうてええんやない? 今日は特別に和希くんが何人かを占うてくれるんやて。座席の番号で呼ぶさかい呼ばれた人はステージへ上がってきてくれるかいな。ちなみに、公平を期すためにくじ引きやで」


 高野がそう言うと舞台袖からスタッフがくじの入った箱を持ってくる。


「それじゃぁ、最初の人は……C-152の席の人や」


 高野の宣言により会場は阿鼻叫喚に包まれるのだった。

 こうして和希の鑑定スキルを使った占いが始まった。



◇ ◇ ◇


「それじゃぁ、次の人で占いは最後やでー」


 それを聞いた会場からは盛大なブーイングが巻き起こる。

 手相占いという事で和希に手を握ってもらえると知ったお客たちは自分が呼ばれることを必死になって祈っていた。


「それじゃぁ、いくでー……H-255やー」


 そうして、ステージに上がってきたのは和希と同い年くらいのゆるふわパーマのかかった可愛らしい少女だった。


「それじゃぁ、お名前を教えてくれるかいな?」


 高野が少女にマイクを近づける。


「氷室和美です、16歳で和希くんの大ファンです」


 その名前に聞き覚えのあった和希はわずかに目を見開いたがすぐに笑顔になる。


「生放送でよく応援してくださってる方ですかね?」


 和希の問いかけに少女は嬉しそうに頷く。


「そうです、覚えていていただけてるのですね。嬉しいです」


「はい、名前がとても似ているので。いつも応援ありがとうございます。それでは手を握ってもいいですか?」


「どうぞ、よろしくお願いします」


 少女はハニカミながら和希に手を差し出した。

 少女の手を握り、和希は鑑定を発動させる。


 少女のステータスグラフが流れ込んできた和希は思わず、少女の名前を口にしてしまう。 


「真中……?」


 和希の呟きをマイクが拾ってしまい、会場中に響いてしまう。

 和希の目の前にいる少女、真中和美も一瞬だけ体をビクリとさせただけだったが、内心ではとても驚いていた。


「……あの、和希くん? もしかして私の事、ご存知でした?」


「あっ、いえ、その……和美さんの付けている腕輪が真中財閥から出てるブランド物だったもので、つい……ごめんなさい」


 和希は焦りながらもなんとか誤魔化す。

 

 ――本名、真中和美。……真中財閥の令嬢ね。驚いて思わず声に出てしまった。


「いえ、全然大丈夫です! それより、よく真中のブランドだって分かりましたね。和希くんはアクセサリーにも詳しいのですか?」


「そう言う訳じゃないんだけれど、腕輪に真中財閥のロゴが入っていたのでそうなのかなーって」


「あぁ、なるほど」


「それじゃぁ、占いの結果を言っていくね」


 和希はなんとか誤魔化せたことに安堵し占いの結果を伝える。


「そうですね、和美さんはとても強い信念を持っている人の様です。それでいて、柔軟性もちゃんと持っている。性格も明るくポジティブの様です。貴女は勤勉で人を引っ張て行く力も持っており、リーダー気質の様ですね。精神面も打たれ強く度胸もあり、色々な事に挑戦する人物の様です。それと、意外と演技力が高いみたいですね、そんな貴女に向いている職業はCEOと役者の二つと言った所でしょうか」


 ふと、和希が視線を手相から和美に向けると、和美は和希の占いをうっとりとした表情で聞いていた。


「もしかすると、貴女なら将来、真中財閥の会長や俺と同じドラマなんかにも出演される事になるかもしれませんね」


 和希はそう冗談ぽく伝えてみた。

 すると和美は満面の笑みで返事をしてお礼を言った。


「はい、そうなれるように頑張ります」


 会場の観客たちはその様子を冗談だと思い和やかに見つめていた。


 そして、占いの時間が終わり真中和美が席に戻るのを確認すると、いよいよピアニストである高野が和希たちスパノバと一緒に演奏する時間がやってくる。

 裏方のスタッフが慌ただしく動き、和希達も曲のスタンバイに入る。

 しかし、和希はもうすぐ曲が始まると言うのに、どこか集中しきれずに心配そうに斎藤の事をチラリと見るのだった。

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