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第5話 『着替え』

 俺の席は教室の一番後ろの列だった。

 ちなみに、男子はこのクラスに一人もいない。


 左隣の女の子に笑顔でよろしくって言ったら「えっ、うん」だってよ。右隣の女子に笑顔でよろしくと言えば、やっぱり「あっ、うん」だってよ。

 何だよ、皆コミュ障か? なんかすごい親近感沸いた。

 俺も会社入る前は相手に話題振るのとかすごい苦手だったなー。なんて考えている間に一時間目が始まった。


 転校とは言え咲が教科書やらノートまで全部買ってくれたので、左隣の女子生徒に教科書見せてもらうなどのテンプレイベントとかもない。

 でも、今更ながらそう言う仲良くなる切っ掛けみたいなのは必要だったかもしれないと少し後悔した。


 授業の内容は数学で一応大卒の俺にとっては私立の進学校の授業といえど流石に簡単……なんて事はなく、かなりレベルの高い授業だった。これから俺は本当にやっていけるだろうか、不安になってきた……。


 なんとか一時間目が終わり、休み時間となった俺はこれは本格的に勉強しないと不味いかもしれないっと頭を抱えていた。


「ねぇ、氷室くん、大丈夫? 授業で分からない事とかあった?」


 そう言って俺に話しかけてきてくれたのは右隣の女の子、名前は知らん。

 髪型はツーサイドアップの結構可愛らしい女の子だ、ごめんよコミュ障とか言って。普通に話しかけてきてくれるとか優しい。


「あ、うん、大丈夫……です。えっと……」


「あっ、私、国木田涼子くにきだりょうこです。あらためてよろしくね」


「うん、よろしく」


「さっき、友達になって欲しいって言ってたけど本当? 私みたいなのでも話しかけて平気?」


 国木田さんが何故自分を卑下するのかは不明だけれど肯定しておく。


「もちろんだよ、それに国木田さんみたいに可愛い子なら大歓迎だよ」


「か、可愛い?!」


「うん、俺はそう思うけれど?」


 国木田さんはとても可愛らしい女の子だ。と言うか、この世界の女性は全員がレベルが高い。

 前世だったら間違いなく惚れてたね。


 俺と国木田さんがそんな話をしていると他のクラスメートの女子たちが周りに集まり始めた。


「ねぇねぇ、私達も話しかけていいかな?」


 声のした方を向くと数人の女子がいた。

 なんか、女の子に囲まれるのってもっと緊張すると思ってたけれど、やっぱり楽しいし嬉しいものだな。

 俺は笑顔で彼女達に答える。


「もちろん。むしろ話しかけてくれて嬉しいよ」


「わぁ、こんな優しい男性がいるなんて夢みたい」


「本当にね、優しい男性って小説とかドラマの中だけかと思ってたのに」


 この世界の男性はそんなに女性に厳しいのだろうか?

 咲の屋敷にいる執事の安藤さんも普段は女性を寄せ付けないような雰囲気をだしていたけど、俺には優しかった。


「ねぇねぇ、氷室君って芸能人かなんか?」


「私、最初カッコよすぎてビックリしちゃった」


「私も。テレビで見る俳優さんとかよりイケメンだから見とれちゃったよ」


「本当にカッコいい……。今はどこに住んでるの?」


 おぉ、なんか一気に話しかけてくるな。

 しかも内容の大半が俺の容姿に対する賛辞だ、大変気持ちがいいぞ。

 今日の為に寝癖とかないかシッカリ鏡をみてチェックしてきたかいがある。やっぱり、第一印象は大切だからな、特に女子高生は清潔感とか気にするものだし。


「ありがとう、でも、俺は芸能人じゃないよ。西宮にしのみやさんの家でお世話になってるんだ。」


 俺が西宮にしのみやの名前を出すと皆驚いた表情をした。やっぱ西宮財閥って有名なのかな。それとも咲がこの学校で有名なのか?


「えぇ、あの西宮さんの?!」


「氷室君みたいな優しい男性と住めるなんて羨ましい……」


「確か一組だったよね、西宮咲さんって」


「うん、そうだよ。咲って結構有名なの?」


 俺がそう問うと国木田さんが教えてくれた。


「名前で呼んでるんだ……いいなぁ。……あぁ、うん、西宮さんね、西宮さんは西宮財閥のご令嬢だけあって有名だよ。それに成績も優秀で人当りもよくまさに完璧超人ってやつかな」


「でも、少し近寄りがたい雰囲気はあるかも……」


「確かに、住む世界が私達と違うよね」


「そういえば、人気はあるんだけど親しい友人とかの話は聞かないね」


「あーそうかも。いつも一人で静かに本読んでるイメージあるし」


 俺を置いてきぼりに周りの皆は咲の話題で盛り上がっている。それにしても、案外、咲は孤独なのかもしれない。優秀すぎる人はその優秀さからか孤独になる、みたいな?

 そういえば、咲の家でお世話になってるのに咲の両親とかには未だに合っていない。彼女も聞いて欲しそうじゃないので聞いてはないがどういう事なのだろう。


「皆ありがとう、でも、皆少し勘違いしてるかも。咲も家では唯の可愛い女の子だよ」


「えっ、そうなの? どういう所が?」


「例えばホラー映画とかが苦手で一人でトイレ行けなくなったりとか、カエルが嫌いな所とか」


「えぇ、あの西宮さんが?!」


「あぁ……でも、カエルは分かるかも」


 そんな話をして盛り上がっているとあっという間に休み時間は過ぎていった。

 俺もなんとかクラスに溶け込めそうでよかった。


◇ ◇ ◇


 咲の屋敷の料理長からもらったお弁当を食べ終え、昼休みになった。

 クラスの半分くらいの女子とは話せたかな? でも、まだ話せてないグループと話をしてみるか。


 先ほど仲良くなったクラスの女の子達と話していると視線を感じるので、一応俺に興味はあるようだが近寄ってはこない。

 大方、恥ずかしくて話しかけられないとかかな? わかるわかる、俺メッチャイケメンだからね。

 


「ユウコ、早くグラウンド行こうっ!上級生にとられる前に」


「うん、今行くからちょっと待って!!」


 声がした方を向くと健康そうな焼けた肌のスポーツ少女たちがいた。手にはサッカーボールを持っている。

 サッカーか懐かしい、俺も前世でよくやったものだ。昼休みのグラウンド争奪戦はなかなか熾烈だったな。


「ねぇ、ちょっといい?」


 俺はユウコと呼ばれていた隣の席の女子に話しかけた。


 この世界では色々な事が逆転してるので野球やサッカーのスポーツも女子が主体だ。

 そもそも男性自体が少ないせいなんだけれども。

 男性はスポーツで怪我なんてもての外なんだとか。


「えっ? な、何か用……ですか?」


 ユウコと言う少女は俺と目を一瞬合わせたと思ったらすぐに逸らしてしまう。

 話をするときは目をちゃんと見てするものだぞ。でも、そんな照屋さんな少女も可愛らしい。


「サッカー、やるなら俺も仲間に入れてよ」


「えぇ?! でも氷室くん、男の子だし?!」


 まぁ、確かにこの世界で男がスポーツをやるのは珍しい、っというかいるのか? と言うレベルだ。

 でも俺は前世でも結構サッカー得意だったんだ。この体でどこまでやれるか試したいという思いがあった。


「うん、でも男でもサッカーやっちゃいけないって決まりはないだろ?」


「い、いや、そうなんだけれど……」


 なんだか歯切れが悪いユウコ。

 すると、ユウコを誘っていた他の女の子も集まってきた。


「どうしたの、ユウコ?」


「いや、ひ、氷室……くんがサッカー一緒にやりたいって……」


「「えぇー?!」」


 いや、そんなにハモらなくても。それに今の声でクラス中の女子達に注目されてしまった。


「氷室くん、女子に混ざってサッカーやるの?」


「えぇ、危ないよ。それに有田さん達はサッカー部入ってるから一緒にやるのは難しいと思うよ?」


 あぁ、サッカー部に入ってるのか。そいつはますます楽しみになった。


「大丈夫だよ、サッカーは得意なんだ」


「そうなの? 前の学校でやってたとか?」


 あっ、やっべ。前の学校にはあんまり行って無い事になってたんだった。


「ううん、やってないよ。サッカーやるのも実は初めてだし。ダメかな?」


「何それ、初めてなのに得意なの? 氷室君って面白いねー」


 うん、確かに矛盾してるな、初めてなのに得意ってなんだそれってなるわ。

 でもどうしても俺はサッカーやりたいのだ。


「あははっ、それでどうかな? サッカー一緒にやってもいいかな?」


 俺はユウコの手を取ってお願いしてみる。

 あまり男子と触れ合う機会のない少女には効果てきめんだった。


 見る見るうちに彼女の顔は赤くなっていき、瞳は潤んでいく。

 完全に女の顔になっていた。


「「――うっ……うらやましい!」」


 そばでこのやり取りを見てい少女達の気持ちは嫉妬という感情で一つになっていた。


 ――ユウコ、許すまじ。


 そんな声が周りからボソッと聞こえた。

 えっ、そこまで効果抜群だった? や、やりすぎたか……。


「い、いや、そんなに嫌なら大丈夫だから……ごめんね無理言って」


 視線に耐えられなかった俺は手をぱっと離して、思わずそんなことを口走ってしまう。サッカーやりたかった。

 少ししょんぼりしてしまう。


「えっ……ちょっと待って!」


 ユウコがそう言うとサッカー少女達が集まってコソコソと話を始めた。


「ね、ねぇ、どうする?」


「いやー、どうするってケガさせたらダメだし……」


「でも、氷室くんの折角のお願いだし……」


「じゃぁ、少しだけ……ダメそうなら抜けてもらおう」


「「「異議なし」」」


 どうやら、話し合いは終わった様で俺はサッカーに混ぜてもらえる事になった。


「そ、それじゃぁ着替えるからちょっと待ってて」


 そう言って、サッカー少女たちはいそいそと制服を脱ぎ始めた、俺の目の前で……。


 今、俺の目の前にはとても素晴らしい光景が広がっている。

 女子高生の生着替え、これは良い物だ。


「ひ、氷室くんは着替えないの?」


 じっと彼女達の着替えを見ていた俺に下着姿のユウコが顔を赤らめながら訪ねてくる。


「あっ、うん、着替えるよ」


 流石に学ラン着てサッカーはできないな。汗かいたら嫌だし。

 しかし、ここで俺が学ランを脱ぎだすと騒ぎになるのは必須。ここはあべこべな世界で貞操観念なんかも逆転しているのだ。

 俺はそれを咲の家で学んだ。少しでも変な行動をすると咲や執事である安藤さんに物凄く叱られたのだ。


 俺は近くにあると言う男子更衣室に着替えに行くことにした。

 もう少しだけあの光景を目に焼き付けておきたかったと思いながら。

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