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第16話 『作詞の才能』

 和希は階段を上ろうとしていたら突然ぶつかってきた人物に押し倒されてしまう、そして驚いて思わず鑑定を使ってしまうのだった。

 しかし、偶然にもその人物は和希が探していた作詞の才能を持っていた少女だった。


「見つけた……」


 思わず、声が漏れてしまう和希。

 和希とぶつかってきた少女である東間雫は二人で見つめ合い、まるで時が止まったような感覚すら覚える二人。

 しかし、二人の思考は全く違い、和希はこの少女をどうやって勧誘するかを考え、雫はどうやって痴漢行為を許してもらえるかを考えていた。


「和希くん、大丈夫ですか? 姉さんも早く和希くんの上から退いてください」


 そんな二人に声をかけたのは東間聡だった。

 聡に声をかけられて我に返る二人。

 和希は雫の腕をつかんでいたことに気付いて慌てて離す。


「腕をつかんでしまいすみません」


「あわわわわわっ、私の方こそごめんなさいっ」


 聡に声をかけられて体をビクリと震わせ、慌てて和希の上から退く雫。


「和希くん、怪我はありませんか?」


 聡は和希に手を差し出した、和希はその手を掴んでゆっくりと立ち上がる。


「あ、あぁ、大丈夫だよ、それより此方の方は?」


 和希は鑑定で東間雫が聡とすずかの姉だと気付いていたがあえて尋ねた。


「はい、僕の姉の東間雫です。でも、姉さんは普段部屋から出ないはずなのにどうしてここに……? それもこんなに急いで」


 突然、紹介された雫は頭を思い切り下げて謝罪する。


「押し倒してしまい、すみませんでした。 私は和希くんの大ファンで東間雫って言います。それと、む、胸を触ってしまい本当にごめんなさい!」


 その言葉を聞き、自分の姉が和希に痴漢行為をしたと知った聡は思わず頭を抱えてしまった。


「姉さん……。和希くん、僕からも謝罪します。僕の身内がすみませんでした」


 聡も和希に頭を下げた、それをみた幼い妹のすずかも姉と兄にならって謝罪をする。


「すーちゃんも、ごめんなしゃい」


 三人に謝罪されて困惑する和希。


「いえ、胸の事は気にしてないので大丈夫です」


「えっ? いいの?」


 思わず頭を上げて、驚いた様子で和希を見つめる雫。

 それを見て、思わずため息をついてしまう聡。


「姉さん、いい訳ないだろ……? 東間の人間が痴漢行為をするなんて前代未聞だよ」


「ち、痴漢?! 聡、言い方がひどい! あれは事故と言うか何と言うか……」


「本当に気にしなくて大丈夫だよ、それよりお姉さん……雫さんと少し話をさせて貰ってもいいかな?」


「はい、喜んで――」


 雫が満面の笑みで和希の誘いに乗ろうとするのと同時に、聡が被せるように言う。


「姉さん、何処かに急いでたんじゃなかったの? 珍しく用事があるなら無理しなくても大丈夫だよ。和希くんも用事があるなら怒るような人じゃないから」


「あぁ、そうでしたね、急いでいたならすみません」


 そう言って雫に頭を下げる和希。

 折角の大ファンである和希と話すチャンスをコンビニに行くという理由だけで逃しそうになり焦る雫。


「い、いやー、たいした用事じゃないから、本当に、これっぽっちも、それより和希くんの話の方が重要だよ」


「そうなの? でも、普段引きこもってる姉さんが駆け出すなんてよっぽどだと思うんだけれど……」


「ちょっと、ランニングにでも行こうかと思って、うん、運動だよ、運動。引きこもってると体がなまるからね。それより、和希くん、何処で話そうか? わ、私の部屋でもいいけれど、えへへっ」


 そういって、和希を何気なく部屋に連れ込もうと、ぎこちなく笑う雫。その笑みは久しぶりに笑ったかのように、硬い頬が引きつっているようで少しだけ気味が悪かった。

 それを見た、和希、聡は若干引いてしまう、すずかに至っては泣きそうな顔をしていた。


「姉さん……笑顔が気持ち悪すぎるよ。悪いけれど身内から犯罪者を出したくないから客間で話そう」


「な、何よ気持ち悪いって?! というか、聡たちも来るつもりなの?」


「当然だろ? 大切な友人である和希くんを今の姉さんと二人きりになんてさせられないよ」


 それを聞いた雫は内心で舌打ちをして、聡にそっと耳打ちをした。


「ねぇ……折角和希くんと話せるチャンスなのに、聡、出来るだけ邪魔しないでよね」


「なんだいそれは……というか、男性恐怖症の姉さんの為にも二人きりは避けた方がいいだろう?」


「え、えっと、和希くんは特別で、大丈夫な気がするのよね、だから訓練だと思って二人きりでもいいのよ」


 和希は雫と聡のやり取りが聞こえていたが聞こえてないふりをしていた。

 そして、先程の鑑定で雫が既に男性恐怖症で無い事も分かっていたが黙っている事にした。

 何故なら、久しぶりに雫と話すのか聡がとても楽しそうに見えたからだ。

 

◇ ◇ ◇


 そして、聡たちに客間へと案内される和希。

 和希の膝の上にちょこんっと座るすずかを羨ましそうに正面の席から見る雫、その雫の隣で心配そうに見守る聡の構図が出来た。


 東間に仕えるメイドがテーブルに紅茶を置いていく。

 全員にそれがいきわたると聡が和希に話しかけた。


「それで、和希くんが姉さんに話って何かな? 一応、初対面のはずだよね?」


 和希は聡の問いにどう答えた物か考えてしまう。


「確かに初対面だね。その……俺って占いが趣味なんだけれど、雫さんは作詞とか興味ありますか?」


「占い? もしかしてさっきの一瞬で占ってくれたの? あの一瞬で占えるとか出来る男は違うわね。それに占いが趣味とか男の子らしくて実にいい」


「それで、作詞の方は……?」


「あぁ、作詞ね、作詞は……少しだけ興味あるかな。実は頭の中で時々考えちゃうんだよね、えへへっ」


「実は俺、スパノバってグループで音楽活動してるんですけど、もしよかったら作詞やってみませんか?」


「えぇっ?! 和希くんが音楽活動してるのは知ってるけれど、私が和希くんの作詞を担当するなんて無理だよ」


「そうですよね……でも少しだけいいですか? 今からメロディーを歌うので自由に作詞してみてください」


 そして、鼻歌を歌い始める和希。

 和希としても強引な事は分かっていた、それでも彼女を逃したくなかったのだ。


「~~♪ どうでしょうか? 曲名は『Again』です、テーマは再び頑張ろうとか立ち上がる的な感じで」


「あぁ、テーマが決まってるなら簡単かも。――♪」


 雫はメイドに紙とペンを用意させて、和希の歌ったリズムを口ずさみながら作詞をしていく。

 彼女は時々、和希にメロディーを確認しながら、特に考える素振りも見せずに作詞を10分ほどで終えてしまうのだった。


「出来た♪ こんな感じでどうかな?」


 和希と聡はそれを見てその歌詞の完成度の高さに驚く。

 すずかは一人でテーブルに置いてあった、おかしをもぐもぐしていて興味はなさそうだ。


「すごい……姉さんにこんな才能があったなんて」


 曲の一番だけとはいえ、これほどの速さで作詞できるものなのかと和希は考える。

 やっぱりこの人は作詞の天才なのかもしれない。


「雫さん、貴女にはやっぱり作詞の才能があると思います。作詞家として一緒に音楽活動やりませんか?」


「えっと、才能があるって言ってもらえるのは嬉しいけれど、私は専門的な勉強とかした訳じゃないから……」


「でも、ずっと部屋に引きこもってるよりはいいかもしれませんね」


 聡が渋る雫を見ながら呟く。

 そんな聡を雫は横目で睨みつけた。


「こら、聡。お姉ちゃんだって傷ついちゃうぞ」


 そんな二人のやり取りを見ながら、和希はこの前、ピアニストの高野から貰ったチャリティーコンサートのチケットを鞄から取り出して雫に渡す。


「あの、これよかったら……。チャリティーコンサートのチケットなんですが見に来てください。それでもし、俺の曲の作詞をやってもいいと思ったら連絡をください」


 雫は和希に渡されたチケットを見る。


「これ、メッチャいい席じゃん?! しかも、抽選で落ちて買えなかった和希くんが出る日のチケット!!」


「聡くんとすーちゃんも、よかったら見に来てね」


 和希は二人分のチケットを聡に渡した。

 聡はすずかのチケットと合わせて二枚を受け取り日付を確認した、そして必ず見に行きますといって笑った。


「雫さん、俺は貴女が作詞を担当したいと思えるような歌を歌うと約束します。だから作詞の件を真剣に考えてくれると嬉しいです。是非見に来てくださいね」


 和希に真剣な顔でお願いされた雫の胸は思わず高鳴る。


「ひゃ、ひゃいっ!」


 雫の変な声にも動じず和希は軽く微笑んだ。

 その笑顔に雫はもう、訳が分からなくなるほど緊張してしまい思わず口が動いてしまうのだった。


「い、行けたら行きますっ!」


 それを聞いた和希は思わず内心でそれ、絶対来ない人のセリフじゃんとツッコミを入れてしまうのだった。

誤字脱字報告、高野の方言の修正などをしてくれた方、ありがとうございます。



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― 新着の感想 ―
[一言] 一番難航してた作詞担当が見つかってょかった。 スパノバの体制が揃ってきた。さて、これから更に馴染んで進化していくんでしょうね。楽しみ。
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