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第14話 『コンサート会場の下見』

方言を使うキャラが出てきますが、言葉遣いが変だったら標準語に修正する可能性があります。

 二回目の配信を終えてから数日が経過した。

 今日は、高野亜里沙さんのチャリティーコンサートの会場を専属メイドの河内さんと斎藤のお姉さんと一緒に下見に来ている。


「かなり広いホールですね……」


「そうかな、普通じゃない? 和希くんはあんまりコンサートとか来ない感じ?」


「そうですね、(この世界では)来た事ないです。大体、何人くらい入れるんですか?」


「約2000席ほどあるそうです」


 俺の質問に河内さんが答えてくれる。

 このコンサートホールはアリーナ形式。つまり、ステージを囲むように客席があり、側面や後方からも舞台を望むことが出来る。


 コンサートホールと言うだけあって音がよく響くように壁や天井に様々な工夫が見て取れる。ホール全体を音が包み込み広がるように設計されており、まだ建設されてから新しい施設らしく視覚的にもとても綺麗な作りだ。

 そして、ステージ正面には巨大なパイプオルガンも設置されている。


「すごいですね、見てください、通路の壁も波打ってますよ」


「これは恐らく、音を拡散させながら反射する仕組みだね」


 流石、斎藤のお姉さん。音楽の事だけは詳しい。


「へぇー、会場もバリアフリーが徹底されてるし本当にすごいホールですね。ここで俺たち歌うんですね……」


 本当に広いホールだ。

 そのホールの中央で歌う自分を想像してみる。

 観客は約2000人か、そんな大勢の前で歌った事なんてない、当日俺はちゃんと歌えるだろうか?


「ふふっ、怖気づいた? でも東京アリーナとかやと収容人数は約14000人やさかい、もっと広いねん。芸能界のトップを目指すならこないなホールくらいは余裕を見してくれななぁ」


 突然、独特の訛りのある女性に背後から声をかけられた。

 驚いて振り向くと、そこにはあの、世界的ピアニストの高野亜里沙さんが悪戯が成功した少女の様な表情で立っていた。


「驚かしてかんにんな。初めまして、うちは高野亜里沙です。よろしゅうお願いしますぅ」


 本当はこの世界に来て、二日目に彼女と俺はあっているのだけれど、きっと彼女は覚えていないだろう。


「あっ、いえ……高野さん、初めまして俺は氷室和希です。チャリティーコンサートに誘って頂きありがとうございます」


「サー・イトゥーだ、宜しく頼むよ、高野氏」


「付き添いの河内です」


 河内さんは短く名乗って礼儀正しく頭を軽く下げた。


「うん、知ってる。特に和希君はね。この前の歌の配信も見してもろうたで」


「ありがとうございます。それで高野さんも今日はコンサートホールの下見ですか?」


「ちゃうで。今日はスパノバが下見に来るって聞いて態々会いに来てん」


 どうやら、俺たちに会うために態々今日来てくれたらしい。

 高野さんは俺より少し年上の18歳くらいにみえる。でも、世界的ピアニストだし、見た目より年齢は上かも知れない。


「そうなんですか、態々ありがとうございます」


 そう言って俺は軽く高野さんに微笑んだ。


「やっぱしええなぁ、和希くん。そっちの人とのグループを解散してうちと組まへん?」


「えっ……?」


 俺は高野さんの突然の申し出に思わず呆けてしまう。

 しかし、斎藤のお姉さんは違ったようで俺と高野さんの間に割って入ってきた。


「笑えない冗談は止めてもらえるかな」


「冗談? うちは本気やで」


「それは聞き捨てならないね。和希くんとは僕がコンビを組んでるんだ。世界的ピアニストと言えど譲る気はないよ」


「そうなん? やけど、この前の配信を見して貰うたけど、あないなお粗末な演奏でよう彼とグループを組んでいられるなぁ。恥ずかしないの?」


「――っ! この前は調子が悪かっただけだよ」


「調子が悪かったなぁ……。和希くん、やっぱしうちと組もう。うちならキミをもっと高みへ連れていけるで」


 そう言って、高野さんは俺に視線を向けてくる。


「俺は斎藤さんとのグループを解散するつもりはありませんよ。それに高野さんはピアニストとして既に人気がありますし、俺と組む意味なんて無いんじゃないですか?」


「あぁ、今回のコンサートでピアニストは引退しようと考えてるんや。そやさかい、和希くんはなんも心配せんでええで。まぁ、グループを解散する気ぃあらへんなら仕方があらへん、うちを入れてや」


 引退するから心配しなくてもいいって、それって結構な大ニュースなんじゃないのか?


「俺としてはスパノバに入るなら歓迎しますよ、高野さん」

 

 高野さんが本気で言っているのかジョークで言ってるのかは分からなないけれど俺は真面目に答える。

 この人が入ってくれたらもっと音が広がる気がするんだ。


「なっ――正気かい、和希くん?! 僕は反対だっ!! こんな女が居なくたって僕達二人でやっていけるっ」


「えらい言いぐさやな。うちとしてはあんたの方が正気かって聞きたいで。あないな演奏で和希くんの足を引っ張ってへんって本気で思うてるん?」


「――それはっ?! キミには関係ないだろう!!」


 珍しく斎藤のお姉さんが感情的になっている。


「関係ならあるで、うちはこれからおんなじメンバーになるんやさかい、あんただって気付いてるやないか? 和希くんに演奏レベルがあってへん事くらい。音楽ソフトの打ち込みやと限界がある、あんたと同じくらいのレベルの演奏者が必要やで」


「くっ、しかし――」


「その点、うちなら問題あらへん。演奏レベルはあんたより上やし経験かて豊富や。なんなら、編曲もうちがやってやろうか?」


「ふざけるなっ。そこだけは絶対譲らないからな」


 斎藤のお姉さんが激高する。


「まぁ、そうやな。うちもあんたの編曲は認めてんで」


 そう言われ、思わず黙ってしまう斎藤のお姉さん。

 というか、高野さん本当にうちのグループに入る感じ?


「まぁ、行き成り言われても困ると思うさかい今度のコンサートで一緒に演奏しよう。そこで改めて仲間に入れてくれるか返事を聞かせてや」


「分かった、でも、中途半端な演奏で和希くんの……僕達の足を引っ張ったら許さないからね」


 斎藤のお姉さんの言葉に高野さんは鼻で笑ってかえした。


「ふんっ、その言葉そっくりそのまま返すで」


 そして二人は顔を近づけてまるで睨めっこをしているかのようにして互いに「ふんっ」と言って顔を背け合っていた。

 大丈夫かな、この二人……。


 すると高野さんが何かを思い出しちゃ様に俺を見た。


「そうやった、和希くん、はいこれ」


 そう言って高野さんが俺に渡してきたのは数枚のチャリティーコンサートのチケットだった。

 日付は俺たちが出演する日になっている。


「仲のええ友人やご両親に渡せるように用意しといたで」


 思わず受け取ってしまったがいいのだろうか?

 咲は自力で入手したって言ってたからそれ以外の人に渡してみるか。


「ありがとうございます。斎藤さんも半分、どうぞ」


「あぁ、僕はいいよ、仲のいい友人とかいないからね」


「はっ! アンタは友達いなさそうやしね。和希くん遠慮せんでもろうてや」


「キミは人の神経を逆なでするのがうまいなっ! そう言うキミだって友達がいるのか怪しいものだけれどね!」


「なんやてっ?! うちにだって友達くらい……それなりに、少しくらい、ちょっとは……いる気ぃするわ……っ」


「ふーん、気がするだって? それって勝手に友達って思ってるだけの関係じゃないのかい? やだやだ、なんとも寂しい人だねキミは」


「その喧嘩かうで……っ」


「先に喧嘩を売ってきたのはキミじゃないかっ」


「「ぐぬぬぬっ……!!」」


 この二人、どうやら本気で喧嘩をしているような物言いだが、俺から見ると二人でじゃれ合っているようにしか見えない。

 何だかんだ言っているが高野さんが本当にスパノバに入ってくれたらいいチームになれるかもしれないな。


「高野さん、チケットありがとうございます」


 そう言って俺は高野さんに手を差し出す。

 高野さんはそれに気が付くと、手に付けていた黒の皮手袋を外して握手に応じてくれた。

 高野さんの手を握った瞬間に俺は鑑定を発動させる。


 高野さんのステータスは本当に音楽特化って感じのステータスだ。

 流石世界的ピアニスト、音楽センスはもはや化け物と言っていいだろう。

 それと多分だけれど、指を怪我しない様に日常生活では気を付けてスポーツなどは殆どやったことがないようだ。

 でも、意外と運動神経はいいみたいだ。

 そして、残念なことに彼女も歌詞を作成してもらうには少し適性が低い。今、作詞問題は深刻なレベルにまで来ている。

 あと何曲歌詞覚えているかな……。なんて考えながら内心冷や汗を流す。

 早急に作詞家を見つけ出す必要がある。


「うん、和希くんに喜んでもらえたみたいで良かったで」


「はい、斎藤さんもチケット譲ってもらって有難うございます」


「うん、まぁ気にしないでいいよ」


「それじゃあ、うちは渡す物も渡したしこれで失礼させてもらうで。次合うのは本番やな。サー・イトゥーはリハーサルから度肝を抜かしてやるさかい覚悟しとき」


「だから、それはこっちのセリフだと何度も言ってるだろ。まぁ、僕じゃなくて本番の和希くんには度肝を抜かれるから覚悟しておくといいよ」


「ほう、そら楽しみやな。では、そっちのメイドさんも本番で会いましょ」


 最後に高野さんは河内さんに挨拶をしてコンサートホールを去っていった。

 その時、ちょうど河内さんの携帯の着信が鳴り響いた。


「すみません、和希さま、斎藤様」


「あぁ、心配しなくてもいいよ、和希君の事は責任もって僕が見張っておくから」


 斎藤さんの物言いに思わず苦笑いが出てしまう。俺は小さい子供か。

 確かに、前回は河内さんのいない所で誘拐されたけれども、俺もそう何度も誘拐されないよ。


 河内さんは俺たちから少し離れた位置に移動する。

 前回の反省を踏まえて、完全に俺から目を離すつもりは無いらしい。


「それで、和希くんは高野氏のチーム加入についてはどう考えているのかな?」


 斎藤のお姉さんの言葉に少し考え込んでしまう。

 本気で言ってくれているなら大歓迎だけれど……。どうして、高野さんは引退なんてするんだろう。


「そうですね……入ってくれるなら大歓迎ですけど」


 そこまで言って俺は斎藤のお姉さんを黙って見つめる。 


「……けど?」


「斎藤さんはどう思ってるのかなって」


「あぁ、本人には絶対言わないけど彼女、世界的ピアニストなだけあって雰囲気あるよ。多分本番ではこんな物じゃないと思うけれどね」


 斎藤のお姉さんはそう言って肩を竦めた。


「それに、もし彼女の演奏が僕達に加わればまさに鬼に金棒ってやつだろうね。人柄は気に入らないけど技術は認めているよ。だから彼女が加入したいって言ってくれた時正直嬉しかったよ」


「そうですか……なら、高野さんが変わらずスパノバに加入したいって思ってくれるようにチャリティーコンサート頑張らないといけませんね」


「あぁ、土下座して入れさせてくださいって言わせてやろう」


 そう言って斎藤のお姉さんはとても邪悪な笑顔を浮かべていた。

 それに若干引きつつも同意する。


「和希さま、斎藤さま、お話し中にすみません。和希さま、少しよろしいですか?」


 どうやら、河内さんが戻って来たようだ。

 しかし手には未だ通話中と思われる携帯を持っている。

 河内さんの様子からすると電話の相手は俺に用事があるようだ。


「はい、どうしました?」


「東間財閥の東間聡さまからお電話が入っています」


 聡くんから? なんだろう。

 河内さんから携帯を受け取り、耳に当てる。


「もしもし? お電話かわりました、氷室和希です」


 そして、携帯から聞こえてきたのは相手がくすりと笑う声だった。

 その声を聞いてから気付いた、どこの社会人だよ、前世の電話対応の癖がでた、恥ずかしい。

 友達なんだからもっとフレンドリーでよかったのに……。


『もしもし、東間聡です。今お時間大丈夫ですか?』


 斎藤のお姉さんをチラリとみると手を振ってお構いなくって感じだった。


「うん、大丈夫だよ」


『そうですか、よかった。実は明日なんですが急に予定が空いてしまったのでこの前言っていた食事でも一緒にどうかと思いまして。突然で申し訳ないのですが和希くんさえ良ければどうでしょう?』


 おぉ、要するに明日一緒に遊ぼうって事だな。

 友達と遊ぶなんて本当に久しぶりだ。


「あぁ、明日なら俺も空いてるよ。食べるのはもちろんジャンクフードだよね?」


『ふふっ、仕方ないですね、初回は和希くんに譲りますよ』


「ありがとう、楽しみだなぁ」


『えぇ、楽しみですね。それと、申し訳ないのですが妹のすずかも一緒でも構いませんか?』


「すーちゃん? もちろんだよ、久しぶりだから会えるのを楽しみにしてるって伝えて」


『えぇ、きっとすずかも喜ぶと思います。それでは明日の朝に迎えに伺いますね』


「あっ、態々迎えに来てくれるんだ、ありがとう。待ってるよ」


 そして、俺は別れの挨拶をして通話を終了した。

 斎藤のお姉さんと、河内さんに待たせてしまった事を謝罪する。


「大丈夫だよ、それより電話の相手は友達かい? さっき、河内氏が東間と言っていたけど、もしかして東間の御曹司かな」


 斎藤のお姉さんが興味深そうに聞いてくる。


「そうですね、この前友達になったんです」


「和希くんはなかなか交友関係が広そうだね」


「斎藤さんは友達いないですもんね」


「キミも酷い事をいうな」


 そう言って俺たちは笑い合った。

 明日は聡くんやすーちゃんに会えるし、なによりジャンクフードを久しぶりに食べられる。

 純粋に同年代の友達と遊べると言う事に俺の胸は久しぶりに高鳴っていた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 高野さんの初登場印象は余り良くないですね。 そして、和希くんが斉藤さんを貶されても怒らないのが不思議です。和希くんから斉藤さんのことを擁護する言葉が一言もないのが気になりました。(和希…
[一言] 斎藤と高野はトムとジェリーになりそう。共通の敵が出てきたらあっさり息の合うところを見せてくれそうで楽しみ。
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