第3話 『初めての配信-2』
「お嬢様は俺が守る! この命に代えても、お前たちには指一本触れさせはせん! せいやぁっ!!」
俺は前世の声優を真似てキャラになりきって熱演する。
前世の学生の頃に学校の友達どうしで声優ごっこが流行っていたので結構得意なのだ。
「くっ、お嬢様。ここからはお一人でお進みください。敵は俺が囮になって引きつけます。誰一人通しません」
『ですが、私一人では……この先どうしていのか分からないのです。モブ、貴方が一緒でないと私は……』
主人公のボイスが流れる。
このゲームの声優さんも普通に上手だよなー。普通なら主人公にボイスは付いていないゲームの方が多いんだけど、うちの会社のゲームは付いている。
「大丈夫です、これから先、必ず貴女を守ってくれる人が現れる。貴女は強く、賢い方だ。そして美しさも持っている、何も不安に思う必要はありません。もし、どうしても不安と言うのなら、俺の心は貴女と共にあるという事を忘れないでください」
『モブ……』
「さぁ、行ってください! うぉぉおおおおお、ステイン王国のモブはここにいるぞっ!!」
『声がイケボすぎる』
『流石役者だけあって声優もうまい』
『普通に声優うまくて草』
『熱演すぎて草』
『ゲームのストーリーも面白いですね』
『モブ様が非攻略キャラってマジ?』
『世界観が良すぎてドはまりしそう』
『私も和希くんに一生守ってほしい』
『ここで死んだと思われるモブが後に助けに来るシーンはやばいよね』
『ネタバレは止めてください』
俺はゲームを進めながらコメントも拾っていく。
そんな感じで進めているとあっという間に一時間半が経過してしまった。
本当なら終了の時間なんだけど、思ったより人が来てくれたし少しだけ延長しよう。
「今日は見てくれてありがとうございます。本当は終了の時間なんですが少し延長して雑談しましょうか」
ゲームを終了して雑談枠にシフトする。
「何か俺に質問のある方はいませんか?」
俺がそう言うとまたしてもチャット画面にたくさんのコメントが流れ一瞬で消えていく。
『彼女いないって本当ですか?』
『年上は何歳までOKですか?』
『恋人に求める条件はありますか?』
『サー・イトゥーとはどういう関係ですか?』
『結婚は何人までとしますか?』
『趣味を教えてください』
『小学生の女の子でも恋愛対象になりますか?』
『ドラマの番宣のへそチラって和希君がOKだしたんですか?』
『歌のオーディションに落ちたのは陰謀があったって言われてるけど、どう思っています?』
『会いに行ってもいいですか?』
『ゲームの声優上手でした、声優になりませんか?』
『役者はもうやらないのですか?』
『歌手になるの諦めてないですよね?』
『所属事務所は西宮って本当ですか? 所属タレント一覧に載ってないのはなんでですか?』
おぉ……本当にすごい勢いだな。
コメントどうやって拾えばいいんだろう。そう言うのにも不慣れだから余計困る。
いくつかスパチャもしてくれている人達もいるけど、それだけを拾うのも感じ悪いしなぁ。
「えっと、ごめん。少しみんな、少し落ち着こうか。流石にコメント読んでる暇もない……」
『みんな、和希君が困ってるからコメント一端やめよう』
『みんなコメントやめて』
『質問したいです』
『私も質問いいですか?』
『ブリーフ派ですか? トランクス派ですか?』
『誰だよ、どさくさに紛れてセクハラコメントしてるの!』
『セクハラは止めましょう』
『完全に収拾がつかない……』
『カオス』
完全にコメント欄があらぶっていた。
俺は思わず頭を抱えてしまう。その間にも、コメントは絶えず流れ続けているし、どうしたものか。
「ごめんね、皆、質問はやっぱり無しにしようか。それと、俺がいいと言うまでコメントは禁止、じゃないと嫌いになっちゃうよ?」
最後のは冗談で言ったのだがそう言った瞬間にコメントがピタリと止まった。
えっ、何事?! 配信途切れてないよね?
しばらくすると、コメントがちらほらと流れているのを確認する。
どうやら、今来た人達の『こんばんわー』とか『初見』といったコメントみたいだ。
「ごめん、ごめん、嫌いになるのは冗談だよ。それとコメントもしてくれていいよ。でも、俺が勝手に喋らせてもらうね。あと初見さん、いらっしゃい」
『なんだ冗談か、よかった』
『心臓に悪い』
『そんな和希くんもしゅき!』
「それでは、俺の好きなタイプだけど年齢は特に気にしないかな。年上でも年下でも」
『ほぅ……』
『でも、巨乳が好きなんですよね?』
『番宣で巨乳が好きって言ってたのは?』
「番宣の時は緊張してて思わず言ってしまったけど、本当に重要なのは感度かなぁ……」
『ゴクリ……』
『えぇ、ショック……でも、感度も自信あります』
『よっしゃー、希望でてきたぁー』
「ごめんねー、でも、大きいのも好きって言うのも嘘じゃないから安心してね。それと、役者も続けていくよ。もちろん、歌手になるのも諦めてない。当然、トップを取るっていうのもね」
『よかったー』
『それを聞いて安心した』
『トップを狙う和希くんカッコいいです、応援しています』
『ピアニストの高野亜里沙さんからチャリティーコンサートの誘いが来てたと思うんですけどどうするんですか?』
「高野さんのコンサートの誘いだけど前向きに検討したいと考えているかな。でも、デビュー前の俺たちが出ていいのかなっていう気持ちはあるんだ。だから、まだ出るとは言い切れない感じ」
『憧れの人なんだよね? 高野さん』
『高野に和希くんを取られないか心配だ』
『高野さん貧乳だけどいいんですか?』
『高野さんの悪口は止めろ』
「それと事務所だけど、俺はフリーランスなのかな? 一応西宮でお世話にはなってるけど契約とかはしていないから」
『そうなんだ』
『西宮にお世話になってるんだ』
『モカちゃん、やってしまった感じ?』
『何でモカちゃん?』
『モカちゃんが和希君が西宮の事務所所属って言ってた』
「あー、あの時は俺もよく分かってなくてモカお姉ちゃんに間違った事いってしまったのかも。だからモカお姉ちゃんを責めないでね」
『お姉ちゃん呼び、羨ましい』
『私もお姉ちゃんって呼んで』
『仲良しでいいね』
そんな感じで話しているとあっという間に放送開始してから二時間が経過していた。
俺を知らない人達は見に来ないかもしれないけれど、動画は一応アーカイブに残るから後から興味を持ってくれた人も見れるようになっている。
今日の目的は主にゲームの宣伝がメインだったので、良しとしよう。それに、少しは俺たちを知らない人達も来てくれたみたいだしまずまずといった所か。
「~♪」
ご機嫌になった俺は思わず前世の曲の鼻歌を歌ってしまう。
『ん? なんの曲?』
『おっ、新曲?』
『新曲だ!』
『メロディいいね』
コメントをみてから自分がやらかしていたことに気付く。
後で斎藤さんのお姉さんに何か言われそうだ。
それと、もうすぐ配信終了時間なので見てくれている皆にお別れの挨拶をしないと。
「みんな、今日は見てくれてありがとう! 皆と話せて楽しかったよ。それでは、またねー」
そういって、俺は配信を終了するべくパソコンを操作して配信終了ボタンにカーソルを合わせる。
『おつー楽しかった』
『色々話聞けて楽しかったー、これからも応援してます』
『チャリティーコンサートに出演する事を期待していますっ!』
『次回は歌が聴きたいな』
『ノシ』
放送を見てくれていた人たちも満足してくれてよかった。
皆の最後のコメントを少しだけ見守って配信終了ボタンを押して、配信を終了した。
そして、配信を切るとすぐに斎藤のお姉さんから通話がきた。
「おつかれさま、和希君、配信みてたよ」
「有難うございます。少しですけど俺たちを知らない人も見てくれたみたいでよかったです」
「うんうん、一応作戦は成功かな? でも、最後のあの鼻歌は何だい?」
やっぱり、そこ突っ込んじゃうよね。
新曲のメロディ歌ってしまうなんて本当に油断したな。
「すみません、思わずフレーズが浮かんでしまって……」
「そっか、まぁそう言う事もあるよね。でも、メロディがすごく良かったよ。歌詞とかはもう考えてるの?」
あー実は歌詞はうろ覚えなんだよな。完全に歌詞を覚えてる曲なんて数曲しかない。
これからは歌詞も斎藤さんに上手い感じでフォローしてもらえると嬉しいのだけれど……。
「いえ、歌詞は所々しかできていなくって……主にサビの部分しか。斎藤さんそれ以外を考えたりって出来ます?」
「うーん、正直に言うと、僕は曲を作るのは得意だけど作詞は苦手なんだよね。だからそっちの方はあんまり期待しないでほしいな。僕の国語の成績は1だったからね」
知ってた。斎藤のお姉さん音楽以外はポンコツだから……。
でも、それだと俺も困るんだよな。誰かいないかな、作詞も出来る人。
これから活動していくのにスパノバのメンバーを増やす事も考えた方がいいのかな?
「そうですか。それとメンバー増やす事も考えた方がいいんですかね? 今は斎藤さんがうちこみでドラムとかキーボードとかやってくれてますけど」
「そうだねー、その辺は難しいかもね。和希くんと僕のレベルに合わせられる人なんて早々いないと思うし」
ですよねー。斎藤のお姉さんレベルの人なんていないよな。
あっ、でも、作詞ならゲームのメインシナリオライターの国木田久美子さんとかどうだろうか?
今度聞いてみるか。
「それで、今日のスパチャは合計でいくら位になったんだい?」
そういえば、放送中に結構な人達がスパチャで寄付をしてくれていた。
「えっと……わぁ、すごい額になってますよっ! 大体350万くらいでしょうか」
前世で社畜として働いていたのが馬鹿らしくなる金額だな。
それにしても初回配信でこの金額はすごいんじゃないだろうか? まぁ、俺の手元には一円たりとも入ってこないのだけれども。
「へぇー、やっぱ配信ってすごいね。でも、三割は配信サイトに手数料で取られちゃうのはちょっと悔しいね。一番寄付してくれていたのは最初にスパチャしてくれた人かな? 傍から見てもかなり目立ってたよ、彼女」
「えぇ、氷室和美さんでしたよね。配信中なんどもスパチャしてくれて途中で心配しちゃいましたよ。100万くらいは彼女からの寄付ですね」
「100万かーすごいな。名前は偽名だろうけど、そうとうなキミのファンみたいだね」
「そうですね、応援してくれるのは嬉しいですけど、やっぱりファンの皆には無理のない範囲で応援してほしいですね」
「そうだね。それより次回の配信は分かってるよね? 次は絶対歌の配信だよ? 約束したからね? 当然、僕も出るからね」
斎藤のお姉さんは強い念押しをしてくる。
「分かってますよ、だから落ち着いてください」
「よし! 言質は取った!! 今から次回の配信が楽しみだっ!」
どうやら、次回は斎藤さんの希望通り歌配信になりそうだ。
やっぱり、新曲とかもやるのだろうか。何の曲がいいかなぁ。
そして、俺は今日のスパチャの累計金額をみて、もう少し金額が集まったらまとめて被災地などに寄付しようと考えるのだった。
「もっと、頑張って稼がないといけませんね、斎藤さん」
「あぁ、もちろんさ、テンションも上がってきたーっ!!」
本当はこんな連日更新する予定はなかったのですけど、ブックマークや感想、評価などを沢山の方に頂いたので嬉しくて三日連続で更新しちゃう……。
ありがとうございます!
そして、誤字脱字報告本当に助かってます。




