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第30話 『Supernova』

「スパノバの方、次、出番なのでスタンバイお願いします」


 スタッフの人が俺と斎藤のお姉さんを呼びに来た。

 控室に備え付けられたテレビで、他のグループのオーディションを見ていたがどのグループもレベルが高かった。

 オーディションが終わったグループには別の控室が用意されており、まだオーディションを受けていないグループに気を使った番組なんだなぁっとぼんやり思っていた。そして、今この部屋には俺と斎藤のお姉さんの二人だけだった。

 

「和希くん、いよいよだね。僕も少しだけ緊張してるけど楽しんでいこう」


「はい、行きましょう」


 そう言って二人揃って控室を後にして舞台裏へとやってきた。

 当然、前のグループがオーディションを受けている最中で歌が聞こえる。


 斎藤のお姉さんとひと悶着あった5人組のバンドグループの人がいる所だ。

 彼女達が歌っている様子を舞台の袖から見ている。


「やっぱり、彼女達も最終オーディションまで残ってるだけあってすごいですね」


「うん、でも、普段通りの和希くんなら余裕で超えてるよ。彼女達は勢いはあるけど、やっぱりまだデビュー前だけあって粗削りだ」


「斎藤さん、その自信は何処からくるんですか? あと僕達もデビュー前ですよ」


「そうだったね、僕の自信だけど、君だよ、和希くん。君とならやれる、それが僕の自信だ」


 そう言った斎藤のお姉さんを思わず見てしまう。


「何臭いこと言ってんですか……」


「いや、本心だよ。だから僕は普段通りやらせてもらうから、和希くんもいつも通りで大丈夫だよ」


 俺は斎藤のお姉さんの言葉に励まされ、さっきほどまでの震えが消える。


 前のバンドグループは演奏を終え、司会者やゲスト、そしてプロになれるかの合否を決める試験官からもいくつかのアドバイスを貰っている。

 合否の発表は番組の最後になる。これも番組を最後まで見てもらうための演出だとか。


 そして、とうとう前のグループが舞台の袖にけた。

 スタッフの人が俺と斎藤さんにGOサインを出す。


「さて、楽しんでいきますか」


 斎藤のお姉さんは何時もは、もっと頼りないのに今日はやけに頼もしい。まぁ、音楽関係に関してはこの人以上に頼もしい人なんていないのだけれど。


「はい、一発ブチかましてやりましょう!」


 俺は斎藤のお姉さんに握りこぶしを向けた。


「その意気だ」


 そういって斎藤のお姉さんも俺の握りこぶしに自分の拳を軽く当ててくれた。


◇ ◇ ◇


 舞台袖から駆け足でステージ中央に向かう。

 観覧席には大勢に人がおり、全席が埋まっているようにも見えた。


 その観覧席に見知った顔を見つける。

 咲や、安藤さん、それに河内さんや国木田親子や学校のクラスメートも来てくれている。

 横断幕に、和希くん頑張れとデカデカと手書きで書かれており、それを見て思わず笑顔が零れてしまった。


「さぁ、いよいよ最終グループの登場です、グループ名は『スパノバ』という事でこのグループは二人組でスポンサーである北条財閥、東間財閥の推薦枠での出場となります」


 俺はカメラを出来るだけ意識して、爽やかによろしくお願いしますっとお辞儀をしておいた。

 斎藤のお姉さんはいつも通りの軽い感じの挨拶だ。


「へー、推薦枠って事はもしかして、最終オーディションから参加さてるんですか?」


 ゲストで来ている芸能人の男性が俺たちに向かって質問してきた。


 控室ではほかのグループに悪い気がして縮こまっていたけど、ここに来てから思い出した。

 時子さんも胸を張って出場しなさいっと言っていたことを。だから、俺は堂々と答える事にした。


「はい、最終オーディションからの参加になります」


「それは、さぞかし素晴らしい演奏が聴けるのでしょう。楽しみですねー」


 なんだか少し棘のある言い方だけど、いちいち気にしたりしない。

 実力でプロになるんだ、これくらいの事なんでもない。


「ありがとうございます。期待に添えるように頑張ります」


 そういって、にこりっと笑っておいた。

 

「氷室和希くんは別の局でですけど、ドラマにも出演してるんですよね? 歌手は本気で目指してるんですか?」


 そう言って司会者が俺にマイクを向けてくる。

 オーディション前に多少話をするとは聞いていたけど、俺にあまり話題を振らないでほしい。


「そうですね、役者もやっていますが、もちろん本気で歌手なります」


 笑顔で何でもない様に答えたが、胸がチクリと痛んだ。

 俺は本当に本気で心の底から歌手になりたいと言えるのだろうか?


「なりますって、もう歌手になるの決まってるみたいですね。やっぱりスポンサー枠だとそうなっちゃうんですか?」


 さっきのゲストの人が俺ではなく試験官に質問をする。

 なんかやけに噛みついてくるな、いや、気のせいかもしれないし斎藤のお姉さんを見習って大人しくしておこう。


「まさか、審査は公平ですよ。でも、ここの書類にギャラはノーギャラでやっていくと書いてあるので多少緩くなるかもしれませんが」


 そう試験官は半笑い気味に答えた。


「えぇ?! それってプロって言えるんですかー?」


 少し大げさにゲストの芸能人が反応する。


 一応、訂正しておくと俺と斎藤のお姉さんはノーギャラではやらない。

 ギャラの全てを被災地や恵まれないことも達などに寄付をするだけだ。そして、それは俺が音楽をやる一番の理由だ、だからそこだけはキチンと言わなくてはならない。


「ノーギャラではありません、ギャラの全てを被災地や恵まれない子供達に寄付するだけです。他にも動画投稿で入る広告の収入なども寄付する予定です。それと、審査についてですが他の方達と同様厳しく見ていただいて結構です」


「ふーん、そうなんですね」


 俺が一生懸命説明してるのに、この男、興味無さそうに自分の爪を気にしながら答えた。


「それじゃぁ、そろそろ歌ってもらいましょうか」


「はい、曲は『Never say Goodbye』です、宜しくお願いします」


 俺はそう言って再び頭を下げた。

 そして、いよいよイントロが流れ始めて俺たちの今後の運命をかけた大一番が始まろうとしていた。


◇ ◇ ◇


 斎藤のお姉さんのギターも今日は何時もよりよく聞こえ、歌い出しは完璧に近かった。

 もちろん、ドラムやベースの音もきちんと聞こえてる。


 今日の俺は本当に調子がいい。

 ノビもハリもそしてなにより、自分の声なのに輝きを感じられた。


『さよならなんて言えるはずもない♪ だって、生まれたばかりの恋心がまだ胸にあるのに♪』


 歌って楽しい、皆にもこの気持ちが届くように俺は自分にできる精一杯で歌う。

 本番前の緊張が嘘のように消えた。オーディションの合否なんて今はどうでも良い、ただ、ただこの瞬間を楽しみたかった。


 チラリと横目で斎藤のお姉さんを見ると、あちらも俺をチラリとみて笑った。

 きっと、斎藤のお姉さんも楽しいのだろう。


 だから、俺もこれからますます盛り上がる曲のサビの部分に向けて更にテンションをあげる。


『Never say Goodbye ♪  かけがえのない瞬間を刻み込むように♪』


◇ ◇ ◇


 とある、ゲストの男性芸能人はその歌声に思わず身震いした。

 目の前で歌う、その男の子はまさに超新星、スーパーノヴァの様だった。

 普通の新星の輝きとは違う、まさに圧倒的な、何万倍も明るい新星の輝き。


 この青年はまずい、この男だけはダメだ。あの歌唱力、あの音楽センス、そしてなによりあの容姿……。

 この子がデビューしてしまえばあっという間に、それこそ瞬きしている間に自分が今まで築き上げてきた場所まで来てしまう。

 自分などあの青年によってあっという間に世間から忘れ去られてしまう。

 そして何より許せなかったのがその年齢だ、自分はこれからどんどん、老いていくのにあの青年はこれから数年後にはますます、カッコよくなることだろう。

 自分はモデルだが、彼に仕事を取られる未来まで想像してしまう。だから――。


 ――何とかして今、蹴落とさなければ……。


 男性芸能人は必死に考える。

 相手は東間、北条の推薦で出場した物の、未だ歌手としてはデビュー前で話題性は今の所低い。

 人気ドラマに出てるそうだが、今はまだその一つだけだ。


 だから、今ならまだ自分の方が上だ、今なら潰せる。

 このまま、この番組で華々しく鮮烈なデビューなんてさせる物か。

 チラリと他のゲストを見ると皆、それぞれ違うが、大体が自分の保身を考えているだろう。

 中でも同じ歌手である者ならなおさらだ。

 それに、彼女たちは少し媚を売ってやると鼻の下を伸ばしている様な女達だ。自分には逆らえない。


 だから合図を送った。審査官とゲストだけでわかる合図を。

 最初は万が一の為と言って冗談のつもりで決めた合図だった。それがまさか必要になるとは……。

 そして、ゲストや審査員から了承の合図を確認する。


 ――この業界は、出る杭は打たれるんだ。だから、悪く思うなよ、氷室和希クソガキ


 モデルの男性芸能人、ヨシオはステージ上で楽しそうに歌う和希の顔が今から絶望に変わる瞬間を想像して薄く微笑んだ。

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[一言] どうしくじるかな(笑)
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