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第29話 『公開オーディションに向けて』

「和希くん、君は本当に転んでもただでは起きないね」


 それが俺の誘拐事件から公開オーディションの参加までを聞いた音楽活動の相棒である斎藤のお姉さんの最初の一言だった。


「最初、君が誘拐されたと聞いた時は心臓が止まるかと思ったけど、まさか公開オーディションの番組参加をもぎ取ってくるとは……」


 俺は今、斎藤のお姉さんとパソコンのネット通信を使った通話で話をしている。


「いや、俺もまさか自分が誘拐されるなんて思っていなかったので、驚きました。まぁ、俺のカッコよさから言うとありえる話だったのですが」


「……君って、前から思ってたけど凄いナルシストだよね」


 俺が斎藤のお姉さんと話をしてるのは公開オーディションの参加の話ともう一つ重要な案件があるからである。


「あの、俺たちのグループ名みたいなのが必要なのですが、何か案はありませんか?」


「えっ? グループ名? あぁ、確かにオーディションに参加するのに必要か、それにこれからの活動にもあった方がいい。でも、僕はそう言うセンスないからなー、和希くんが自由に決めていいよ、うん」


 自由に決めていいと斎藤のお姉さんは言ってくれているが、そう言われてしまうと逆に困ってしまう。


「そんなこと言わずに何かありませんか? イメージとかでいいので」


「そうだなー、僕的にはやっぱり和希くんは彗星の様に現れたから……なんて言いうか、鮮烈なデビューとか超新星とかそう言うイメージかな」


 聞いておいてなんだけど、まったく参考にならない。

 しかし、グループ名に拘るつもりもないのでテキトーでいいか。


「じゃぁ、超新星を英語で『Supernova』とかでいいですか?」


「いいじゃん、じゃぁ僕達はこれからスパノバでいこう」


 音楽以外はポンコツのこのお姉さんのセンスを本当に信用していいのだろうか? あと、スパノバじゃなくてスーパーノヴァだから。でも、愛嬌があって逆にスパノバもありか? 分からん、俺の中身オッサンだからセンスは人の事いえないし、分からなくなってきた。


「それじゃぁ、まぁ、スパノバでいきましょうか」


「はいよー、それでオーディションに参加する曲はどうするの? 前にネットにアップしたやつでいくのかな?」


「折角なので新曲でいきましょう、その方が斎藤さんもノルでしょ?」


「おぉ、流石和希くん、女の事をよく分かってる」


「なんですかそれ」


「いや、あざとい仕草とか喜ぶ仕草とかをよく分かってるから何となく言ってみた」


「斎藤さんは僕をどういう目で見てるんですか」


「ぶりっこ」


「おい」


「冗談だよ、それでもうメロディは出来てるの?」


 俺が歌うのは前世の曲なのでメロディは完璧に歌える。


「はい、今から歌っていいですか?」


「あぁ、編曲するにあたって録音するから、ちょいお待ちを……はい、いいよ」


 いつもは即興でメロディに音楽を付けてくれるのだけれど、今回はちゃんと録音して編曲してくれるらしい。それだけ、この人もやる気という訳だ。


「それじゃぁ、いきます。あっ、ちなみに候補が二曲あって『届け☆恋心』と『Never say Goodbye』のどっちから聴きたいですか?」


「えっ? 届け、なんだって? ……なんだい、その昭和のアイドルが歌ってそうな曲名は?」


 届け☆恋心は前世で俺のお気に入りのゲームソングだったんだけど……おっさんが歌うのはちょっと苦しかったから一人カラオケに行った時にしか歌わなかった曲で、俺の中で是非誰かに聞いて欲しい曲ナンバー10に入っている。。

 ちなみに、Never say Goodbyeは前世で物凄いヒットした恋愛ソングだ。


「昭和じゃないですよ、メロディも歌詞もいいから聞いてください。じゃぁ、いきます。届け☆恋心。ちゃらり、ちゃらりら、ずんちゃっちゃ、ずんちゃっちゃ――♪」


「あっ、イントロまで歌っちゃう感じなんだ……」



◇ ◇ ◇


俺は二曲を熱唱し、久しぶりに大満足だ。しかし、やっぱり音楽がないと、いまいち盛り上がりに欠けるな。


「どうでしたか、斎藤さん? いい曲だったでしょ」


「そうだね……でも、何故か一曲目は洗脳されそうな気がしたよ。何故だろう……」


 どうやら、佐藤さんは一曲目の『届け☆恋心』はお気に召さなかった様だ。非常に残念だけど、やっぱり人それぞれ趣味が違うので諦める。


「二曲目はどうでしたか?」


「あぁ、そっちなら文句なしで名曲だったよ。それに何時もの和希くんの曲っぽさがあった。大衆向けだし、オーディションは『Never say Goodbye』でいこう」


 何故だろう、まるで一曲目に文句がありそうなその言い方は。


「それじゃぁ、僕は編曲作業に移るよ。また何かあったら連絡して」


「はい、あの、斎藤さん、絶対合格してプロになりましょう」


「ははっ、和希くん、いつになくやる気だね。当然さ、しかし、和希くんの曲に音楽の天才である僕が手を貸すんだ。鬼に金棒ってやつだよ」


「はい! それとオーディションは来週ですよ、言い忘れてました」


「って、おい! いうの遅いよ、すぐにでも編曲に取り掛かる、それじゃーね!」


 斎藤さんがそう言うと俺は通話終了のボタンをクリックした。

 何だかんだいいつつ、彼女もやる気だし邪魔しちゃ悪いからね。


◇ ◇ ◇


 あれから一週間、俺は学校やドラマ撮影などの合間を探しては歌唱レッスンや斎藤さんと実際に音合わせをして過ごしていた。

 俺に出来る事は全てやった、そう言えるくらいには頑張ったと言えるだろう。

 何かに懸命に打ち込むのは久しぶりな気がする。

 しかし、唯一心配なのが俺の歌唱力で曲も歌詞もいいのにそこだけは、どんなに練習しても消える事は無かった。


 そして今日、とうとうオーディションの日を迎えた。


 俺と斎藤のお姉さんはテレビ局の控室へと案内される。

 控室と言ってもほかの参加者と合同で使う大きな待機部屋みたいな所だ。そこでは、既にほかの参加者が歌の練習やウォーミングアップをしていた。


 このオーディション番組は半年に一回ほどの頻度で放送される人気番組であり、世間からの注目度も非常に高い。その局でのニュースでも放送されるし、何万人もがオーディションに受かるために努力している、ここでプロとして合格できれば、新人として華々しくデビューできるという訳だ。

 そして、その最終オーディションにスポンサーの力を使って特別に出場したのが俺たちだ、他の参加者は多分気に食わないだろうな。


 ――あの時、時子さんと東間聡くんにちゃんと、オーディションは最初から受けると言っておけばよかったな。


  俺としても合格は実力で勝ち取るなんて言いながら、ちゃっかり最終オーディションからスタートなんてどうかと思う。けど、誘拐事件のお礼という事で北条、東間の両スポンサーからの特別推薦で最終オーディションからスタートとなった、うん、俺は悪くない。


 しかし、そんな俺と斎藤のお姉さんを他の参加者はジロジロみながらヒソヒソ話をしている。

 まぁ、隠すつもりもないんだろうけど大体がコネを使った事への悪口だ。


「和希くん、何も気にすることないよ。コネか実力かなんて、この最終オーディションで証明すればいいんだから。それに、行き成り登場した俺たちに合格を掻っ攫われるような連中ならどのみちプロになっても活躍なんて出来やしないのさ」


 斎藤のお姉さんが割と大きな声でそんなこと言った。

 多分、この控室中に聞こえただろう。


「へー、言ってくれるねお姉さん。まぁ、アンタ等はコネと男性って事で合格がもう決まってるのかもしれないけど、このオーディションはテレビやニュースでも取り扱われるからね。下手なパフォーマンスでもしよう物なら世間から笑いものにされるだけさ。せいぜい気楽に楽しむといいさ」


 そう言ってきたのは、5人組のバンドを組んでいる20代くらいの女性の人で、目が少し釣り目でとても気が強そうだ。


「だから、言ったろ? 実力で分からせればいいって」


「ふん、楽しみにさせてもらおうじゃないの。でも、まぁ、サー・イトゥー、アンタの音楽が凄いのは認めるよ、私はあんたの動画を見たことがあるからね」


「それはどうも」


「でも、そっちの男はどうなんだい? 俳優だそうだが、そんなのが本気で歌手を目指そうとしてるのかね?」


 そういって女性は俺をジロリと睨んだ。

 この女性が斎藤のお姉さんの動画を見たのは結構前なのかもしれない。俺が歌ってる動画は最近アップされているはずだから。

 しかし、彼女の本気なのかという問いに俺は答えると事ができなかった。

 歌は頑張るつもりだけれど、俺自身が本気だと言い切れるほど本気なのか分からなかった。

 ただ、歌を歌いたいと言う気持ちに嘘はない。


「だんまりか……。まぁ、頑張りな」


 そう言って女性は自分のグループのメンバーと話し始めてしまった。


 オーディションには全部で8グループ出場しており、俺たちはその8番目、つまり一番最後の審査となる。

 控室にはテレビが付いており、あと一時間ほどで生放送の公開オーディションが始まる。

 テレビで歌うってこんなに緊張する物なのだな、などと思いながら緊張で震える手を強く握りながら出番を待った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 著作権だけは気を付けてね。 オーディションは合格しないといけないから、元の世界の名曲を使うとして、デビュー曲以降ははメロディと歌詞の雰囲気を伝えて斎藤に編曲作詞をやらせて、(元の名曲に近づけ…
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