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第21話 『レストラン』

 今日は咲と一緒にとても美味しいと評判のレストランに来ていた。

 本当なら数カ月前から予約してないと来れないお店なのなのだけれど、この前、鑑定した政治家の重森重蔵しげもりじゅうぞうさんからお礼という事でこのレストランに来ていた。もちろん、予約だけじゃなくて料金も重森さんが持ってくれるらしいので折角なので咲を誘ってやって来た。

 料理などのお値段は流石高級レストランだけあって結構するけど本当に重森さん持ちでいいのだろうか? 

 まぁ、そのお値段も納得する味と気品に溢れるいいお店なのは確かだ。


「評判どおりのいいお店ね、和希、今日は誘ってくれてありがとう」


「ううん、咲に喜んでもらえたなら良かったよ予約してくれた重森さんには感謝しなくちゃね。この後出てくるデザートも楽しみだなぁ」


「ふふっ、和希は甘い物が大好きだもんね」


 二人でなごやかムードで食事を楽しんでいるとレストランの入り口で誰かが騒ぐ声が聞こえてきた。


「お、お客様困ります! この店は完全予約制になっていますので――」


「まぁ、わたくしを誰だと思ってらっしゃいますの。私は南波留なばる財閥の令嬢ですのよ!」


 思わず、声のする方を見ると長い髪をロールさせた、黒いゴスロリを着た同い年くらいの少女が付き人らしき人を数人引き連れて騒いでいた。


 ――な、なんだあのゴスロリ服を着た我儘そうで、尚且つ頭も悪そうな女の子は……。顔は少し可愛いけど関わらない様にしておこ……。


 少し小さくなってこっそりとデザートを食べていると咲がため息を付いた。


「仕方ないわね……和希、少し行ってくるわ」


 そう言って、咲は席を立ちあの頭の悪そうな女のもとへとツカツカと歩いて行ってしまう。


「えっ? ちょっと咲?!」


 一瞬だけ惚けてしまったが咲をあの女の子の元に一人で行かせる訳にもいかず俺も慌てて席を立ち咲の後を追った。


◇ ◇ ◇


「だから、この店の料理をわたくしが食べて差し上げると言っていますの!」


「相変わらずの様ね、南波留なばる


「行き成り誰ですの?! ――ってなんだ、西宮にしのみやさんじゃありません事。貴女もこの店に来ていたのですか?」


「まぁーね、それでなんの騒ぎ? お店やほかのお客に迷惑よ」


 咲は毅然とした態度で南波留なばると呼ばれた少女に言い放つ。


「いえ、別に。ただこの店の料理を食べに来たのですが席がないみたいで。あっ、そうですの。貴女と一緒でいいから相席させてくださいな、同じ5大財閥のよしみ、いいでしょ?」


 少女が名案とばかりにとんでもない事を言う。

 こんな奴と相席なんて死んでも嫌だ、せっかくの料理がまずくなる。


 俺は咲のドレスの端をチョンチョンと引っ張り断るように合図を送る。


「ん? 誰ですの、そっち殿方は?」


「えっと……俺は咲の友人で氷室和希って言います」


 別に挨拶なんてしたくもなかったけど一応名前だけは名乗って置く。


「和希、挨拶なんてしなくていいから」


 どうやら挨拶しなくてよかったようだ。損した気分だ。


「へぇー、なかなかの美少年ですわね。どこの企業の令息ですの?」


 ゴスロリ少女に美少年と褒められた。でも、なかなかは余計だ。


「別に貴方には関係ないでしょ? それと相席の件だけどお断りよ。私たちは二人でこのレストランの料理を楽しんでるの」


 おぉ、咲よく言った! 俺は心の中で咲に拍手喝采を送る。

 しかし、そのせいで気づかなかった。南波留なばると呼ばれた少女が俺に手を伸ばしている事に。


「ふふっ、そう固い事言わないでくださいな」


 少女が俺の手首をいつの間にか掴んでいた。


「えっ? 何、は、離してくれ……」


 いきなりの事でたじろいでしまう。

 一応、相手は女性と言う事で力ずくで振りほどくわけにもいかないし困った。

 いや、この世界だと女性の方が力が強いらしいから振りほどいてもいいのか?


「あら、可愛らしい。かなりタイプですわ。貴方、私の愛人にしてあげてもよくってよ」


 愛人とか高校生が何言ってんだっと思いながらコイツをどうしようか考えている時だった。


「和希に触るなっ!」


「ぐへっ!」


 咲が突然、南波留なばるのほっぺを引っ叩いた。


 咲が本気で怒っていた。

 でも、引っ叩いて大丈夫なのかな? 慰謝料とか請求されないだろうか。

 

「痛いわね! 何するのよ、西宮!」


 南波留なばるは咲に引っ叩かれて少しよろめいたが元気そうだった。あと口調が崩れてる。

 しかし、次の瞬間あろう事か南波留なばるは咲を思い切り突き飛ばしていた。


「きゃっ!」


 咲が可愛い悲鳴を上げて倒れる。

 しかも、南波留なばるはまだ怒りが収まらないようで倒れた咲をあろうことか蹴り飛ばそうとしていた。


 俺は思わず咲に覆いかぶさるように庇った。


「うぐっ!」


 背中に鈍い痛みが走る、それが1回、2回、3回っと続きようやく収まった。

 俺だから分かる、この女、つま先で思い切り蹴りやがった。


「和希、大丈夫?!」


 咲が悲鳴に近い声をあげる。


「ふん、わたくしに逆らうからそうなるのですわ! それと私に従わない殿方も要りませんわ」


 うぅ……痛い。正直、泣きそうだ。でも中身オッサンの俺が女子高生に泣かされるのはちょっと遠慮したいのでなんとか我慢する。


「咲お嬢様! 和希様!」


 騒ぎに気が付いた安藤さんたちがようやく駆けつけてくれた。

 安藤さん達は車の中で待っててくれたからお店の騒ぎには少し遅れちゃうものしょうがないよね。

 でも、少しだけ早く来てほしかった。


 あと、あの女、一発は一発って言葉を知らんのか! 一回殴られたら一回しか殴っちゃいけないんだよ! それを3発も蹴るとか鬼かコイツ。


 南波留なばるは俺を蹴り飛ばし満足したのかレストランから帰ろうとする。その姿がひどく憎らしい。

 こっちは背中、絶対、痣になったぞ!


「安藤、和希が私を庇って!」


 咲が泣きそうになりながら安藤さんに事情を説明する。

 安藤さんが優しく俺の背中を摩ってくれたおかげでなんとか立ち上がれるまでに回復する。


 このまま奴を返すものか! 俺は怒り狂っていた。


 背中を向けて去っていく、南波留なばるに向かって俺は駆け出す。許さん、許さんぞ!!

 例え、女と言えど許せない。男女平等だ、後ろから思いっきり突き飛ばして転ばしてやる!


「和希っ!!」


「和希様っ!!」


 俺を呼び留める、咲と安藤さんの声すら無視して南波留なばるに背後から駆け寄る!


「南! 波! 留!!」


 そう叫びならが俺は思い切り奴の背中を突き飛ばしてやった。

 南波留なばるは頭から思いっきり地面にスライディングして滑っていくではないか。


 ――あっ、パンツ見えた。


 俺がそう思った瞬間だった。

 俺のわき腹に、いままで感じた事のないような激痛が走る。


「うぐっ!!??」


 俺は思わず声を出して、そのまま地面に膝をついてしまう。

 いったい何が――そう思って、わき腹を見ると、なんと弓の矢らしき物が突き刺さってるではないか。


「痛いですわね、何するんですの!! この……っ……?」


 南波留なばるも起き上がって俺を見て困惑している様で声が萎んでいく。

 え? マジでどういう事?


 俺は未だ混乱から立ち直れないながらも、思っていた。

 ――この女、あれだけ派手にヘッドスライディングしておいて怪我一つないんかいっと。


「け、怪我は無さそうだね……」


「和希っ!」


「和希様っ!」


 咲は口元を手で押さえて叫ぶように俺の名前を呼んだ。

 安藤さんも大慌てで俺のそばまでやって来てくれた。


「あ、あの、貴方、何で……」


 南波留なばるが唖然とした表情で俺に問いかけてくる。


 ――俺が知りてーよ?!


 お前を思い切り突き飛ばしたら偶々、弓だかボーガンだかの矢で撃たれていた。

 だから俺ははっきりコイツに言っておこう。


「べ、別に……君を庇った訳じゃ……ない、勘違いしないで……」


 なんだか少しツンデレっぽい言い方になってしまったかもしれない。


 それにしても、わき腹が痛い。

 俺の血が地面を赤く染めていく。このまま死ぬんじゃないかって思うくらい痛い。


 ふらふらと青ざめた表情で南波留なばるが安藤さんに抱きかかえられている俺の近くまでやってくる。


「あ、安藤さん、ぼ、僕は……」


 死ぬんですか?

 その言葉が出てこない。一度経験したからだろうか、余計に死ぬがすごく怖い。


「大丈夫です、和希様。すぐに救急車が到着しますのでそれまでの辛抱です! 貴方たちはボーガンを撃った犯人を追ってください。」


 安藤さんは俺を励ましながら周りの使用人たちにも指示を出していく。


 あと、やっぱりこれボーガンだったか。


「和希っ、大丈夫、大丈夫だからねっ!」


 咲も俺を励ましてくれる。


「こ、この矢ですのね、お待ちください今、抜いて差し上げます――」


 南波留なばるが何を思ったか俺に刺さった矢に触った。


「うぎゅっ!」


 思わず変な声が出る!


「なっ、いけません! 矢を抜いてしまうと血が噴出してしまうのです!!」


 安藤さんが普段出さない声で南波留なばるをしかりつける。


「あ、アンタ、バカ?! 和希を殺す気なの?! もう、どっか行ってよ!」


 咲も普段の咲とは大分違う口調になっている。


「わ、私は……ただ――ごめんなさい……」


 南波留なばるはただ力なく謝罪した。


 正直、南波留なばるは嫌いだし、メッチャムカつくけど突き飛ばしたのは俺だし、ボーガンの矢が刺さったのも偶々だ。高校生の女の子がトラウマになるレベルの傷を心に追うのは少し可愛そうに思えた。


 しかたがないので俺は南波留なばるの手をとって軽く笑ってやった。


「大丈夫だよ、これくらい、痛いのにも慣れてるから……」


「なっ、貴方……」


 まぁ、最初は死ぬほど痛いと思ったけど、痛みがマヒしてきたのかそんなに痛くなくなってきた気がする。

 そして、俺は救急車のサイレンが聞こえてきた当たりで意識が遠のいていくのだった。

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