第19話 『体験版』
「ちょっと、山田さん、CGは110枚って決めたじゃないですか?! なんで予定ないシーンのCGを描いちゃってるんですか?! しかもすごい綺麗だし、何なんですか?!」
「す、すみません、でも、ここのシーンにイラストがあると素敵だと思って……」
俺は今日、自分が代表を務めるゲーム会社『Ice Country』に来ている。
今、西宮財閥から派遣されて来ているディレクターさんに怒られているのは俺が採用した元引きこもりだった山田紗代さんだ。
「あははっ、山田さんは面白いなぁ」
そんな二人を見て朗らかに笑っているのがもう一人のイラストレーターである黒川早苗さん。
「黒川さん、笑い事じゃないですよ! 貴女もなんでモブのイラスト勝手に追加してるんですか。しかも、モブなのに無駄にかっこいいし!!」
「だってぇ、そのモブの人、出番多いですし、イラストがあった方がいいと思ったんですぅ」
「いやいやいや、そう言う問題じゃないですから! 決めた事はしっかり守ってもらわないと困ります」
「まぁ、まぁ、ディレクターさん落ち着いて……」
そんな荒ぶるディレクターさんを諫めるのがメインシナリオライターである国木田さんだった。
「こ、こここ、これが落ち着いていられますか!! いいですか!? 一番問題なのは貴女ですよ、国木田さん!!」
「えぇ?! 私ですか?!」
「いや、驚くところじゃないでしょ!? 貴女勝手に、個別シナリオとは別のグランドルートとかいうの既に20万字ほど書いてるでしょ?!」
「えっ、はい……」
「はい、じゃないですよ!! そんなルート、予定になかったじゃないですか?! しかもですよ、無駄に面白いのが腹が立つんです! そして! 個別シナリオが終わってるなら未だしも、まだ1キャラルートも終わってないのに、3人とも何遊んでるんですか?!」
「「「遊んでません!」」」
「尚たちが悪いわっ!!」
俺が撮影や学校で忙しくしていた間にゲーム開発の方は随分カオスな事になっていた。
ディレクターさんはゲーム開発のベテランの女性の方で、三人を上手く纏めてくれると思ってたんだけど。
というか、この三人も少し自由すぎるな。
のびのび楽しんでやってるのは良い事だけどこれでは開発期間一年という予定が狂ってしまうかもしれない。
「いいですか? もう既に体験版を出して、ファンもいるんですから期限内にCGとかテキストをしっかり提出してもらわないと困りますよ」
「あっ、それなら終わってます」
「「私も」」
「終わっとるんかーい!」
ディレクターさんが三人に華麗なツッコミを入れる。
「すみません、報告が遅れましたがシナリオは既に2キャラ分が終了しています。イラストレーターのお二人に渡してるので忘れてました」
「いやいや、国木田さん、忘れてましたってそれでは困りますよ! CGとかどのシーンを描くとかは私が指示するんですから! それにしてももう2キャラ終わってるとか貴女書くの早すぎるわ!」
「えぇ、CGってディレクターさんが決めるんですか?!」
「山田さーん?」
ディレクターさんが怪訝そうに山田さんの方を向く。
「すみません、好きに描いていい物かと思って……」
「ふふっ、山田さんのイラストってとっても素敵なんですよぉ」
「いやいや、なんのフォローしてんじゃーい!」
この後もカオスすぎる会話がしばらく続き、俺はこの四人に話しかけるチャンスをしばらく伺っていた。
◇ ◇ ◇
「あの……大丈夫ですか? ディレクターさん」
俺はやっとディレクターさんに話しかける事ができた。
「だ、代表……私、もう嫌だ、この人達自由すぎるんだもん」
「そ、それは分かります……元気を出してください」
「何なんですかあの人達、仕事速いし、テキストは面白すぎるし、CGはクオリティー高いし……私、要らないんじゃないですかね?」
「お、俺はディレクターさん必要だと思うなー。あの三人を纏められるのは貴女しかいません!」
「代表、私に面倒ごと押し付けようとしてません?」
「し、してませんよ。そ、それでどうですか? ゲームは売れそうですかね?」
「そうですね……売れると思います。体験版の反応をご覧になりますか?」
そういえば、先日既に体験版を出していたのだった。
ディレクターさんがノートパソコンを少し操作してから俺に画面を見せてくれた。
そして、そこに書かれていたのは体験版の感想だった。
・世界観が素敵。
∟男性に守ってもらえる。
∟女性より男性が強い世界。そして男性が多い。
・脇役が光る。
∟無駄にモブがかっこいい、下手したらヒーローよりカッコいい。
∟モブが最強キャラ。
・王道な展開。
∟燃える、体験版なのにラストのモブが無駄に熱い。
∟外見からは予想できなかった。
∟熱いCG、演出、モブがバトルを盛り上げる。
・戦闘描写が印象に残りますね。
∟ある意味メイン。
∟モブが助けに来るシーンがイケメンすぎてやばい。
・製品版に期待。
∟モブのボイス追加に期待せざるを得ない
∟モブの声優に期待。
などなど様々なコメントが沢山書かれていたが、一番多いのはモブに対するコメントだった。
これ、普通のビジュアルノベルゲームだよね? なんでモブが一番人気になってるの?
「あの……これ本当に売れますかね? 不安になって来たんですけど」
「あっ、私はその辺は心配してないです。ラストのモブはこれ以上の盛り上がりを見せる予定なので安心してください」
「いま、安心する要素ありました?」
なんだか俺の会社には変な人しかいない気がしてきた。
本当に資金回収できるだろうか、すごい不安になってきた。
「所で、代表。声優に興味ありません? 例えばモブキャラとかの」
俺たちの作ってるゲームの声優は全員女性だ。だから、青年キャラも女性声優がやっている。
なので、ディレクターさんが男性声優を一番人気のモブに起用したい気持ちは分かる。
だけど俺が一番人気のモブの声をやるとか正直不安しかない、なので何とか逃げ道を探してみる。
「スケジュールが空いてたらね」
「スケジュール、空けといてください!(威圧)」
「ぜ、善処します……」
逃げ道あるといいなぁ……。