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第17話 『主題歌』

『ただいま』


『お兄ちゃん、おかえり。あれ? 何かいいことあった?』


『えっ? どうしてそう思うんだ、瑠璃』


『えぇー、だってお兄ちゃん今日は少し嬉しそうだよ』


『あぁ、実は今日は人に助けてもらってね。その人にどんなお礼をしようか考えてたんだ』


『人に助けてもらったって?』


『うん、ナンパされてる所を偶然、同い年くらいの女性に助けられたんだ、お金持ちのお嬢様みたいでね、本当ならみすぼらしい僕なんかとは釣り合わないだろうけど、それでも何かお礼がしたくって……』


『えぇ、そうなんだ。いい人だね! それと、お兄ちゃんはみすぼらしくなんてないよ、かっこいいよ』


『そうか? ありがとう瑠璃るり


『うん、そうだ! お腹空いたでしょ? 今日もご飯できてるよ』


『おぉ、お腹ペコペコだったんだ』


『お兄ちゃんは座って待っててねー』


 瑠璃るりと呼ばれた少女は台所へとかけて行く。


『いつも、ありがとう、瑠璃るり……』


「はい、カット!! いただきまーす!」


「OKという事で、お昼休憩入りまーす」


 スタッフの人たちが未だに慌ただしく動く中、撮影がひと段落付いたことにホッとする俺。


 なんか最初の頃より演技も上手くなった気がするし、撮影を楽しんでいる自分がいる。最近はとにかく、なんかこう、うまく表現できないけど兎に角いい感じなのだ。


「和希くん、お疲れ様ー。演技上手になったねー」


 撮影が終わった俺に近づいてきたのは黒羽モカさんだ。

 モカさんは忙しい撮影の合間に俺の演技にも色々アドバイスをくれるとてもいい人だ。前世の俺だったら間違いなく惚れていたね。

 今の俺だと仲のいいお姉さんって感じだ。お姉さんの前に美人ってつくけど。


「モカお姉ちゃん、ありがとう。モカお姉ちゃんが色々アドバイスくれたおかげだよ」


「そっかそっか、和希くんはどっかのエロガキと違って可愛いねぇ、よしよし」


 モカさんは俺の頭を満足そうに撫でる。俺も嫌ではないからされるがままだ。


「あのー、撮影終わった瞬間ダッシュでお弁当持ってきてあげたんですけどー。どっかのエロガキって誰の事ですかー?」


 もう一人、俺のそばにやって来たのは撮影で俺の妹役である最上燈子ちゃんだ。


「はい、和希お兄ちゃん」


「ありがとう、トーコちゃん」


「えへへ、ごめんごめん。トーコちゃん。それと、ありがと」


 俺とモカさんはトーコちゃんからお弁当を受けとりお礼を言う。


 いつも、撮影に付き添ってくれる咲の屋敷のメイドである河内さんは俺にロケ弁をあまり食べさせたくないようだが今日は特別にお願いしてロケ弁にしてもらった。

 ちなみに、河内さんは今日もこっそりと少し離れた位置から俺をみまもってくれている。


 今日のロケ弁は俺の大好きなカラアゲ弁当だ。


「うーん、おいしい。まさに庶民って感じのこのお弁当……懐かしい」


「和希くん、普段はいったい何を食べてるの?!」


 俺のコメントにモカさんがツッコミを入れる。

 しかし、俺は構わず、カラアゲと米を頬張る。久しぶりにジャンクフードも食いたくなってきた。


「ふふっ、和希お兄ちゃんハムスターみたい。あっ、そういえば今日だったよね?」


「あぁ、あれでしょ? もう、歌って私、苦手なのよねー」


 トーコちゃんとモカさんの話に耳を傾けるも話の内容についていけない。

 一体今日何があるんだ? 


「今日何かあるの? もぐもぐ」


「食べるか話すかどっちかにしようね、和希君。まぁ、あれだよ主題歌のオーディションみたいなの」


「オーディション? モカお姉ちゃんとトーコちゃん達が出るの?」


「私って言うか私達? 和希くんも一応やると思うよ」


「えっ!? 初耳なんですけど」


 モカさんの話に俺は驚きを隠せない。

 なんで、そんな面倒なこと先に教えてくれなかったんですか?! 心の準備が……。


「そう言えば、和希くんは最近出番多すぎて、スタッフさんも忙しくて話すの忘れてたのかも。それかもう誰かが伝えたと思い込んでるとか」


 モカさんがのんびりとそんな事を言い出す。

 えぇ……そんな事ってある? しかも、主題歌ってドラマの主題歌だろ? やりたくねー。


「歌うって言ってもバックコーラスみたいな感じらしいよ? でも、和希お兄ちゃんと一緒に歌うの楽しそうかも」


「和希くんは知ってるか分からないけど源田弘美げんだひろみさんっていう有名な歌手だよ。60代の人で若い世代にも結構人気ある人なんだよ。日本のロック界を席巻してきた人なんだ。でも、男の子の和希君は、もしかしたら知らないかな?」


 うん、知らないねぇ。

 こっちの世界に来てから俺の知ってる曲一個もなかったし、そもそも忙しくて聞いてる暇もあんまりなかったから。


「そ、そうなんだ」


「うん、私の周りでもファンの人結構いるよ。なんか聞いた話だと一人一人歌って聴いてもらえるみたいだから一応ノドの準備しておいた方がいいかもねー」



「えぇ?! みんなで歌うんじゃないんだ……」


「あはは、それだとオーディションにならないでしょ?」


「でも、主役のモカお姉ちゃんは合格で歌うの決定してるんじゃないの?」


 そしたら、相手役のヒーローである俺も合格になってしまう可能性が高い。


「いや、それが歌には一切妥協しない人みたいでね、私でもオーディションに合格しないとダメらしいんだよ」


 何それ、プロフェッショナルかよ、カッコいい……。


 でも、歌かー。カラオケならまだしも歌のテストみたいなのは苦手だなー。

 前世では社会人になってからは仕事が忙しくてカラオケ行けなかったけど、学生の頃は毎週のように通っていたっけ。前世の曲、懐かしい。


「まぁ、和希くんはいつも通りマイペースにやればいいんじゃない?」


「そうだよ、和希お兄ちゃんは普段通りが一番っ!」


 有難う二人とも、でも俺はオーデイションに合格したくないんだ。これ以上は忙しくて死んでしまう。



◇ ◇ ◇



 さぁ、始まりました。

 第一回、主題歌バックコーラスオーディション。


 やって来たのは60代にはとても見えない、少し怖そうなサングラスをかけたオバサン改め、源田弘美げんだひろみさん61歳。見た目は40代後半に見える。


「では、次、君、歌って」


 すごい、圧がすごい。


 どうやらドラマに出演してる人はちょい役でもオーディションを受けさせてもらえるようでヤンキー役の人も歌っていた。


 いや、それにしても皆さん、歌上手くねーか? 役者って全員歌上手い物なの?

 

 それなのに歌って数十秒くらいで『ありがと、もういいよ』っといって止められてしまう。

 いったいその短い時間で何が分かると言うのか。歌が上手い人には何か分かるのだろうか? ちなみに俺には全然わからない。

 おかげで、俺の歌う順番がすぐに回ってきそうだ。


 俺は最初にオーディションを受けるか、最後に受けるか悩んだ結果最後にしてもらった。

 誰か一人くらい、俺より下手な人いるだろっと思っていたのに皆歌がうまいっ!

 どうやら、合否は後日発表らしくその場では何も言われない。


 オーディション参加者は一列に並ばされて歌を披露する。歌う曲はドラマの主題歌である。

 俺はそれを昼休みに必死に覚えた、それはもう必死にだ。


 そして、俺には今物凄く気になっている事がある。

 この歌のオーディションの機材であるスピーカーとマイクを持ち込んだのはちょい怖いおばさんの源田弘美げんだひろみさんなのだが、この持ち込んだ機材がさっきから不調のようなのである。

 ある一定の音域になるとスピーカーから雑音が聞こえる。なのに……なのに、誰も指摘しない!!


 そして最悪な事にその雑音の聞こえるスピーカーの真横にいるのが、この俺である。


 やっぱり、怖いから誰も指摘しないんだろうな。でも、俺は違う、俺はオーディションに落ちたいんだ。

 だから、思いっきり言ってやる。言ってやるぞぉ!!!!


「じゃ、最後に君、歌って」


 源田弘美げんだひろみさんがとうとう俺を指名する。


 だが俺は歌を歌わず手を挙げた。


「すみません、さっきからこのスピーカーから雑音が聞こえるんですけど。この雑音をどうにかしてください。俺、こんなんじゃ歌えません」


 言ってやった。思いっきり言ってやった。

 しかし、周りのスタッフやオーディションを受けていた、役者たちが『え? そんなの聞こえた?』みたいな反応をするではないか。

  しかし、一度言った言葉は飲み込めない、黙って源田弘美げんだひろみさんと数秒見つめあう。サングラスがとても怖い。


「君……」


 すると源田弘美げんだひろみさんそう呟いて、次に俺を指さした。更に、その指の形が変わり……サムズアップになる。そして、最後に一言呟いた。


「合格」

 

 いえぇぇえええ?! なんでぇぇぇえええええええええ!!??

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